この記事では、大内転筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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大内転筋の概要
大内転筋は股関節内転筋群の中で最も大きな筋肉であり、語名はadduco(引く)とmagnus(大)から構成されています。
恥骨から起始する筋性部(内転筋部)と坐骨から起始する腱性部(ハムストリング部)に分けられ、両者は起始停止と作用が異なります。
大内転筋の腱性部からは内側広筋の一部が起始しているため、大内転筋の活動は内側広筋にも影響を与えます。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | ①筋性部:閉鎖神経(L2〜4)
②腱性部:脛骨神経(L4〜5) |
髄節 | L2-L5 |
起始 | ①筋性部:恥骨下枝
②腱性部:坐骨枝、坐骨結節 |
停止 | ①筋性部:大腿骨粗線内側唇
②腱性部:内側上顆の上方の内転筋結節 |
栄養血管 | 閉鎖動脈 |
動作 | 共通作用:股関節の内転・内旋
①筋性部:股関節屈曲 ②腱性部:股関節伸展 |
筋体積 | 666㎤ |
筋線維長 | 11.3㎝ |
速筋:遅筋(%) | 41.6:58.4 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
股関節内転 |
股関節内旋 |
1位 | 大内転筋 | 中殿筋(前部) |
2位 | 大殿筋(下部) | 小殿筋(前部) |
3位 | 長内転筋 | 大内転筋 |
4位 | 短内転筋 | 恥骨筋 |
※股関節内転筋群では、筋体積が最も大きい大内転筋の貢献度が高いです。
大内転筋の触診方法
股関節と膝関節を屈曲した状態から内転運動をしてもらい、大内転筋筋性部の停止である大腿骨の内側上顆(内転筋結節)で触診しています。
大腿の断面図
大腿中央を断面でみた場合、大内転筋と長内転筋は薄筋とともに内側区画に配置されていることがわかります。
大腿内側区画では、薄筋が最もトリガーポイントを形成しやすく、ついで大内転筋に起こりやすいとされています。
ストレッチ方法
四つ這いの姿勢からストレッチしたい側の下肢を大きく1歩前に出し、体重を前方に移動します。
そのまま股関節を屈曲・外転・外旋とし、さらに膝関節の屈曲を増大するようにして大内転筋筋性部を伸張していきます。
筋力トレーニング
側臥位にて上側の下肢は前方に出して膝を立て、下側の下肢を伸展した状態で股関節を内転・内旋していきます。
アナトミートレイン
大内転筋はアナトミートレインにおけるDFL(ディープ・フロント・ライン)の筋膜ラインに属しています。
knee-in toe-outの不良姿勢があるヒトはDFLがタイトになっていることが多いため、大腿内側の圧痛はチェックしておくようにします。
歩行時の筋活動
上図では、歩行における股関節の屈曲角度と大内転筋と長内転筋が活動する時期をまとめています。
大内転筋の後側はハムストリングスと似た筋活動を示し、遊脚終期(TSw)に振り出された下肢の減速に作用します。
通常、股関節内転筋群は立脚期に働きませんが、中殿筋の出力が低下していると内転筋群で代償的に支持性を高めようとします。
そうすると起始側である骨盤が引き寄せられて反対側が落ち込むといった、いわゆるトレンデレンブルグ徴候を示します。
関連する疾患
- 伏在神経絞扼性神経障害
- 内転筋断裂
- 内転筋肉離れ
- 内転筋拘縮 etc.
伏在神経絞扼性神経障害
内転筋腱裂孔(大内転筋の2つの停止部の間にある裂孔)と広筋内転筋腱板より構成される管を内転筋管(ハンター管)といいます。
内転筋管には大腿動脈、大腿静脈、伏在神経が通過しており、しばしば内転筋管で伏在神経の絞扼性障害が認められます。
伏在神経絞扼性神経障害の場合は、内転筋管を圧迫することで疼痛が再現できますので、必ず触診して確かめることが大切です。
伏在神経に絞扼性障害が発生した場合は、膝関節内側から下腿内側にかけての限局した疼痛(知覚異常)を訴えます。
稀な疾患ではありますが、ほとんどの場合は発生前に具体的なエピソードがある場合が多いので、問診にて原因を確認することが大切です。