この記事では、大腰筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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大腰筋の概要
大腰筋は脊柱と下肢をつなげる唯一の筋肉であり、舌に次いで最も感度が高く、その重要性から筋肉界のスーパースターとも呼ばれています。
ただし、そこには数多くの矛盾した研究結果も存在しており、事実とフィクションが混ざり合って説明されることも多い筋肉です。
以下に、いくつかの矛盾する報告を掲載していきます。
- 最も強い股関節屈筋⇔そもそも股関節屈筋ではない
- 股関節の外旋筋⇔股関節の内旋筋⇔そもそも回旋筋ではない
- 収縮することで腰椎の前弯を強める⇔収縮することで腰椎の弯曲を平らにする⇔そもそも腰椎の弯曲に作用しない
- ほとんどの背部痛に関与する⇔背部痛には関与しない
- 直接施術するのが重要⇔直接施術すべきでない⇔直接施術することは物理的に不可能である
このように大腰筋はまだ議論されていることが非常に多く、一概に語ることができない筋肉であることを知っておいてください。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 腰神経叢の前枝 |
髄節 | L1-4 |
起始 | ①浅頭:第12胸椎から第4腰椎の椎体側面および椎間円板側面
②深頭:全腰椎の肋骨突起 |
停止 | 大腿骨の小転子 |
栄養血管 | 腸腰動脈の腰枝 |
動作 | 股関節の屈曲、外旋(わずか)、腰椎前弯の形成、脊柱の安定化、骨盤前傾 |
筋体積 | 266㎤ |
筋線維長 | 10.0㎝ |
速筋:遅筋(%) | 50.0:50.0 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
股関節屈曲 |
1位 | 大腰筋 |
2位 | 腸骨筋 |
3位 | 大腿直筋 |
4位 | 大腿筋膜張筋 |
腸腰筋の概要
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腸腰筋(iliopsoas)は、①大腰筋、②腸骨筋、③小腰筋の総称になります。
脚を付け根から振り出す動作が腸腰筋の主な働きであり、歩行や走行時に重要な役割を担います。
大腰筋は脊柱神経出口のそばにあり、大腰筋の前層と後層の間には腰神経叢の神経(第3・第4腰神経前枝)が通過しています。
腰神経叢からは大腿神経や大腿外側皮神経、閉鎖神経、陰部大腿神経、伏在神経などが分岐しており、大腰筋の過緊張はこれら神経の絞扼を引き起こす場合があります。
大腰筋と腰椎前弯との関係性
大腰筋が収縮することで腰椎前弯が増加するかは、骨盤のアライメントによって変化すると考えられます。
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具体的には、骨盤が前傾しすぎて腰椎の位置が前方にある場合は、骨盤を後傾させる方向にモーメントが発生します。
そのため、骨盤後傾位でも骨盤前傾位でも大腰筋を働かせる必要があり、どちらにも作用する可能性がある特質な筋肉となるわけです。
ストレッチ方法
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片膝立ちの姿勢をとり、両手を大腿前面に置き、体重を前方下肢に移動していきます。
下肢を屈曲しながら腰椎を伸展、股関節を伸展・外転していきます。
似た作用を持つ腸骨筋のストレッチングとの違いは、腰椎伸展位かつ股関節外転位で伸張するところです。
筋力トレーニング
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背臥位にてお腹をへこませた状態で、鍛えたい側の下肢を70度前後に挙上して姿勢を保持します。
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いわゆる腹筋運動のひとつですが、起き上がる角度が高くなるほどに大腰筋の活動が大きくなります。
そのため、後期に重点的な負荷をかけるようにして実施します。
大腰筋の触診方法
背臥位にて膝関節を屈曲してもらい、できる限りに腹筋層を緩めます。
施術者は腹直筋の外側から指先を当てて、非常に柔らかいタッチで、かつ感度が高い状態を保持し、深部内側に向けて優しく沈めていきます。
イメージ的には、水風船(内蔵)で満たされた桶の中で、底に沈んでいる一つの水風船(大腰筋)を探るようにして指先を沈めていきます。
大腰筋に触れることができているかを確認するためには、患者に脚をわずかだけ屈伸してもらい、収縮が触知できるかをみるようにします。
トリガーポイントと関連痛領域
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大腰筋の起始側にトリガーポイント(TrP)が形成されている場合は、腹部ではなく腰部に関連痛が発生します。
腸腰筋として停止側にTrPが存在すると、股関節から大腿前方にかけて痛みを訴えることが特徴です。
腸腰筋のTrPは、急性・慢性の筋肉酷使(過度なランニングやサッカーのキック動作)、長時間の筋肉の短縮、下肢長の不均衡などで引き起こされます。
アナトミートレイン
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大腰筋はアナトミートレインの中で、DFL(ディープ・フロント・ライン)に繋がっています。
DFLは身体の伸展系を制限する役割を担うため、体幹伸展の可動域が低下しているケースでは大腰筋の問題が考えられます。
歩行時の筋活動
大腰筋は前方の脚を後方に蹴り出す動作(立脚後期)で遠心性に収縮し、伸張短縮サイクルを利用して効率的に下肢を振り出しています。
ここが崩れると歩行速度は低下し、腸腰筋に疲労が蓄積されることになります。