この記事では、大腿筋膜張筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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大腿筋膜張筋の概要
大腿筋膜張筋は大腿外側に位置する筋肉で、停止部は腸脛靭帯に移行します。
大転子の前方を通過して腸脛靭帯に至るため、股関節外転に加えて屈曲と内旋運動にも作用します。
そのため、歩行時に股関節が外旋するのを防ぎ、膝関節を安定させながら下肢の振り出しを調整するといった役割があります。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 上殿神経 |
髄節 | L4-5 |
起始 | 腸骨稜外唇の前部、上前腸骨棘、大腿筋膜の深面 |
停止 | 腸脛靭帯を介して脛骨外側顆の下方につく |
栄養血管 | 上殿動脈 |
動作 | 股関節の屈曲・内旋・外転
膝関節の伸展(※膝関節深屈曲位では屈曲作用に変化) 大腿筋膜の緊張 |
筋体積 | 76㎤ |
筋線維長 | 9.5㎝ |
速筋:遅筋(%) | 50.0:50.0 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
股関節屈曲 |
股関節外転 |
股関節内旋 |
1位 | 大腰筋 | 中殿筋 | 中殿筋(前部) |
2位 | 腸骨筋 | 大殿筋(上部) | 小殿筋(前部) |
3位 | 大腿直筋 | 大腿筋膜張筋 | 大内転筋 |
4位 | 大腿筋膜張筋 | 小殿筋 | 恥骨筋 |
※大腿筋膜張筋は股関節の「屈曲+内旋+外転」に複合的に働く筋であり、個別の屈曲や外転に働く貢献度としては低くなっています。
大腿筋膜張筋の作用の変化
大腿筋膜張筋の膝関節への作用は軽度屈曲位では伸展作用、深い屈曲角度では屈曲作用へと変化します。
これは大腿筋膜張筋の移行先である腸脛靭帯が軽度屈曲位では膝関節軸の前方を、深い屈曲位では後方を走行することに起因しています。
腸脛靭帯は膝関節が45度屈曲位を境界として、その作用方向が変化します。
大腿筋膜張筋の触診方法
浅層に位置している筋肉なので触診は容易で、上前腸骨棘のすぐ後方にて起始部を触知することができます。
写真では、大腿筋膜張筋の固有の動きである股関節の屈曲・外転・内旋の複合運動を行ってもらい、筋肉の収縮を触知しています。
スレッチ方法
立位で両脚を交差させ、後ろの足に向けて上体を傾けます。
大腿筋膜張筋を選択的に伸張するために、股関節の伸展・外旋の動きを入れながら実施します。
ストレッチ側の膝関節を伸展してベッドの端から垂らし、股関節を内転します。
その際に骨盤の回旋が起こらないように注意します。
筋力トレーニング
大腿筋膜張筋の固有の動きである股関節の屈曲・内旋・外転の動きを入れながら、側臥位で下肢を挙上していきます。
トリガーポイントと関連痛領域
大腿筋膜張筋の圧痛点(トリガーポイント)は起始付近に出現し、関連痛は大腿外側に放散します。
大腿筋膜張筋に短縮が存在すると骨盤は前傾し、さらに強い短縮では股関節の外旋運動が制限されて骨盤の動きが誇張され、お尻を振りながら歩いているように見えます。
緊張を増大させる原因としては、過度なウォーキングやランニングが影響します。
重い荷物を持って歩いたり、凸凹道を歩くことで負担が増大し、さらに摩耗した靴やモートン足で足首が不安定な場合は助長します。
アナトミートレイン
大腿筋膜張筋はLL(ラテラル・ライン)の筋膜経線上にあり、体幹の側屈や股関節の外転、足の外反といった運動機能に関与します。
姿勢保持では前後左右のバランスをとっており、他の浅層ライン(SFL・SBL・SPL)を仲介する役割を担います。
歩行時の筋活動
上図では、歩行における股関節の屈曲角度と大腿筋膜張筋が活動する時期をまとめています。
大腿筋膜張筋は遊脚終期(TSw)から立脚終期(TSt)まで、非常に長い間にわたって活動する筋肉になります。
遊脚終期は膝関節が0度となって接地に備えるため、腸脛靭帯を緊張させて股関節の外旋を防ぎ、膝関節を安定させるために働いています。
接地後も適度な緊張状態を保つことで片脚立位を支持し、立脚終期の後半より緊張が抜けていくといった流れを示します。
関連する疾患
- 腸脛靱帯炎
- Osgood-Schlatter病
- 上前腸骨棘裂離骨折
- 思春期脊椎分離症
- 仙腸関節障害 etc.
腸脛靭帯炎(ランナー膝)
腸脛靭帯は膝関節伸展時には大腿骨外側上顆の前方に位置し、屈曲時には後方に移動します。
そのため、膝の屈伸動作が繰り返されると大腿骨外側上顆で腸脛靭帯が擦れてしまい、それが繰り返されると腸脛靭帯が炎症を起こします。
腸脛靭帯炎はマラソン選手やランニングを習慣にしている人たちに発生しやすいことから、別名でランナー膝とも呼ばれています。
昨今は健康ブームの影響からランニングをされている人が増えているため、ランナー膝は増加傾向にあります。
以前に疼痛性跛行にて下肢外旋位で来院された方がいましたが、大腿筋膜張筋をリリースすることで跛行が消失しました。
おそらくは外旋位にすることで大腿外側へのストレスを軽減させていたと考えられ、そのようなケースには著効する場合もあります。
Osgood-Schlatter病
オスグッド・シュラッター病は、まだ骨端線が閉じていない10代前半のスポーツ習慣保持者に好発する脛骨結節部の疼痛疾患です。
発生機序としては、大腿四頭筋が強い収縮を繰り返すことで骨端軟骨板に牽引ストレスが加わり、損傷することで発症します
オスグッド・シュラッター病のほとんどのケースにおいて、大腿直筋や外側広筋、大腿筋膜張筋の拘縮が合併しています。
前述したように大腿筋膜張筋は外側広筋と筋連結を持つことから、柔軟性を保つことで大腿四頭筋の過剰な緊張を抑えることができます。