大腿骨寛骨臼衝突症候群(FAI)のリハビリ治療

FAIの概要

  • **FAI(Femoroacetabular Impingement)は、股関節を動かしたときに大腿骨頭‐頚部と臼蓋縁がぶつかる(インピンジ)**ことで痛みや関節唇損傷を起こす状態。

  • 原因の多くは骨形態の軽い異常(大腿骨頚部の出っ張り=カム、臼蓋の過被覆=ピンサー)に、関節包・筋のタイトネス運動フォームが重なって発生。

  • 若年アスリートの鼡径部痛の主要原因。深屈曲や**FADIR(屈曲・内転・内旋)**で痛みが誘発されやすい。

  • 放置すると関節唇損傷→軟骨摩耗→変形性股関節症へ進行するリスクがあるため、早期の動作調整とリハが大切。


タイプ(骨形態による3分類)

  • カム型:大腿骨頚部前外側の肥厚で引っかかる。10–30代男性に多い。深屈曲・内旋で関節唇/軟骨を“削る”ように損傷しやすい。

  • ピンサー型:**臼蓋過被覆(CE角≳40°)**で臼蓋縁に当たる。女性に相対的に多い。しばしば反対側の臼蓋縁にも二次的負荷。

  • コンバインド型:両者併存。臨床ではカム>コンバインド>ピンサーの順に多いという報告が一般的。

参考:CE角(成人)のおおよその目安は25–40°。25°未満は臼蓋形成不全、40°超は過被覆の目安。


症状と誘発所見

  • 主症状:鼡径部痛(前上方の関節唇損傷が典型)、引っかかり感、可動域低下。

  • 立ち上がり、階段昇降、しゃがみ込み(深屈曲)、長時間座位後の初動で悪化。

  • 誘発:FADIRテストで痛み再現/可動域の詰まり。伸展・外旋末期で前方不安定感や前方痛を訴えることも。


画像診断のポイント

  • X線(骨盤前後像+大腿骨軸位像):

    1. 頚部の“のっぺり化”(カム徴候)、2) CE角増大(過被覆)、3) 臼蓋前捻角の評価。

  • MRI関節唇損傷・軟骨損傷の有無と範囲を確認。疑い例では撮像推奨。

  • X線で関節裂隙が保たれていても痛みは起こる(早期病変に合致)。


保存療法(基本原則)

1) 痛みのコントロールと動作回避

  • 急性炎症期深屈曲・内転・内旋の複合動作を回避(しゃがみ込み、低い椅子、あぐら・片足抱え込みなど)。

  • 座位は股関節軽度外転・外旋で骨頭を前上方に詰めない。椅子はやや高め

2) カム型に多い後下方関節包・外旋筋群のタイトネス

  • 後下方関節包のモビライゼーション

    • 背臥位で股屈曲90–100°、**骨頭を背尾側へ“押し込む”**方向に関節包ストレッチ(セラピスト主導)。

    • 自主練:四つ這いで大腿骨に荷重→お尻を後方へ引く(痛みが出ない範囲で)。

  • 外旋筋群(深層外旋六筋)・ハムストリングの柔軟性を整える。

3) ピンサー型/不安定傾向に対するスタビリティ強化

  • 中殿筋・小殿筋・大殿筋の段階的強化(側方荷重で骨盤水平保持):

    • クラムシェル→サイドブリッジ→片脚立位ヒップヒッチ→サイドランジへ進行。

  • 歩行・スクワット時の骨盤水平・膝トラッキングを徹底(股関節内転・内旋を抑える)。

  • 腸腰筋の機能回復(座位での軽負荷ヒップフレクション、マーチング)で前方不安定を抑制。

4) 体幹・股関節協調の再学習

  • ヒンジパターン(股関節主導の屈曲)を習得し、腰丸まり+股深屈曲の代償を回避。

  • スクワットは可動域を浅めから開始、外旋・外転を少し入れて股関節前上方の詰まりを避ける。

目安:2–3か月の保存療法で痛みの低下・機能改善が見られるかを評価。悪化/停滞なら専門医で再評価。


手術療法(関節鏡)

  • 適応:保存療法で改善乏しい痛みスポーツでの機能制限進行性の損傷

  • 目的:頚部出っ張り(カム)や臼蓋縁過被覆(ピンサー)の整形関節唇修復

  • 予後:早期ほど良好裂隙狭小化を伴う変形性股関節症例では改善が限定的。

  • リハ:多くは部分荷重→5–8週で全荷重競技復帰4–5か月以降が目安(術式・所見で変動)。


よくある質問(Q&A)

Q1. しゃがむと鼡径部が刺すように痛い。FAI?
FAIで典型的ですが、股関節唇損傷や大腿直筋起始部、スポーツヘルニア等の鑑別も必要。FADIR陽性+画像で判断します。

Q2. ストレッチは何でもやっていい?
痛みや詰まりが出る深屈曲・内旋は避ける。後下方関節包ストレッチ殿筋群の柔軟性改善を主に。痛み誘発はNG。

Q3. 走ってもいい?
痛み0–2/10で翌日悪化しなければ平地ジョグから再開。坂道・方向転換・深いストライドは段階的に

Q4. 手術は必須?
多くは保存療法でコントロール可能。ただし競技目標が高い・痛みが続く・画像で明確な形態異常と唇損傷があるなら鏡視手術が選択肢。


最終更新:2025-10-05