振動刺激療法の方法と治療効果について解説していきます。
振動刺激療法の歴史
身体に対する振動刺激による治療は、古代ギリシャ時代にはすでに徒手的なマッサージ手技のひとつとして用いられていました。
その後、19世紀末に振動刺激装置が登場し、1950年代にはRoodやBrunnstromが神経筋促通手技のアプローチ手段として取り入れるようになりました。
物理療法として用いられる振動刺激装置は、局所的な身体部位に振動刺激を加える機器と、全身を振動させる機器とに大別されます。
前者は簡易的なマッサージ器を用いて筋肉の弛緩や促通に使用され、後者は振動する台座上に乗ることで筋力やバランス能力などを鍛えます。
ここでは局所的に振動刺激療法を用いる方法について解説していきます。
振動刺激療法の概要
リハビリの治療において、局所的な振動刺激療法の使用により期待される効果は、①筋緊張の緩和、②筋収縮の促通のふたつです。
これらは相反した作用であり、使用法を間違うと悪化させるリスクもあるため、目的に応じた刺激量と刺激部位については正しく理解しておく必要があります。
刺激量は周波数(振動数)と振幅のふたつの要素から計算することができます。
ヒトが体性感覚として知覚できる振動刺激の周波数は「0.1-500Hz」の範囲内とされています。
以下に振動刺激療法における目的別の使用法をまとめた表を記載します。
筋緊張の緩和 | 筋収縮の促通 | |
周波数 | 100Hz未満 | 100-150Hz |
振幅 | 1㎜以上 | 1㎜以上 |
部位 | 筋全体 | 腱部 |
筋肉 | 中間位 | 軽度伸張位 |
筋緊張が緩和するメカニズム
筋緊張が緩和する機序としては、振動刺激による微小な筋長の変化を筋紡錘が感知し、その情報がⅠa線維やⅡ線維に伝えられます。
それらの情報は抑制介在ニューロンを介して、α運動神経の興奮性を抑制する方向に働くことになります。
この反応は振動刺激の周波数が低く、振幅が大きい時に顕著に現れます。
例えば、徒手的なマッサージでは筋肉をゆっくり(1Hz以下)と大きく動かしながら揉んでいきますが、その方が緩みやすくなっています。
注意点としては、痛みを伴う状態では緊張が高くなってしまうため、なるべく痛みのない強さ(イタ気持ちいい程度)で行うことがコツです。
筋収縮が促通するメカニズム
筋収縮が促通する機序としては、伸張反射と同じ原理であり、腱部に急激な伸張が加わると筋肉は収縮する方向に働きます。
この反応は振動刺激の周波数が100Hz程度(素早い刺激)で、振幅が大きい時に顕著に現れます。
例えば、膝蓋腱反射を出現させるときは強めに腱を叩くほうが起こりやすいですが、その方が振幅(腱伸張)が大きくなりやすいからです。
筋肉は軽度伸張位で収縮しやすくなるため、軽度伸張位に保持した状態で刺激を入れながら収縮運動を実施してもらうと効果的です。
注意点としては、腱部に1Hz以下の周波数(持続的な圧迫刺激)を加わると、Ⅰb抑制が働いて筋緊張が緩んでしまうことになります。
呼吸理学療法への応用
振動刺激療法は呼吸理学療法の手段としても用いられており、電動式振動法(バイブレーション)と呼ばれています。
方法としては、胸壁に200Hz程度の振動刺激を加えることで肺内および気管支内の痰の粘性を低下させ、排痰作用を促進します。
また、胸壁に2-20Hzの振動刺激を加えると、気道内の空気振動により肺のガス交換が促進されるとしています。