この記事では、棘下筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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棘下筋の概要
棘下筋は肩甲骨の棘下窩から起始し、上腕骨の大結節中部と関節包に停止している肩関節外旋の主力筋になります。
上腕骨頭を深層で覆う回旋筋腱板(①棘上筋、②棘下筋、③小円筋、④肩甲下筋)を構成する筋肉のひとつです。
肩関節外旋の作用以外にも、上部線維(横走線維)は肩関節の外転に、下部線維(斜走線維)は肩関節の内転に作用します。
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従来の考え方では、棘下筋は大結節の中部に停止するとされていますが、近年は前部にまで広範囲に付着していることがわかりました。
棘上筋に関しては、停止の一部は小結節に付着しているとされています。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 肩甲上神経 |
髄節 | C5-6 |
起始 | 肩甲骨の棘下窩 |
停止 | 上腕骨の大結節中部、肩関節包 |
栄養血管 | 肩甲上動脈、肩甲回旋動脈 |
動作 | ①上部:肩関節の外旋,外転
②下部:肩関節の外旋,内転 ※肩関節90度屈曲位では水平外転に作用 |
筋体積 | 225㎤ |
筋線維長 | 6.8㎝ |
速筋:遅筋(%) | 54.7:45.3 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
肩関節外旋 |
1位 | 棘下筋 |
2位 | 小円筋 |
3位 | 三角筋(後部) |
※肩関節の外転や内転への貢献度は低いです。
棘下筋の触診方法
①棘下筋上部線維
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棘下筋の上部線維(横走線維)は、肩関節下垂位(1st:ファースト・ポジション)で筋出力を発揮します。
②棘下筋下部線維
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棘下筋の下部線維(斜走線維)は、肩関節外転90度(2nd:セカンド・ポジション)で筋出力を発揮します。
ちなみにですが、肩関節屈曲90度(3rd:サード・ポジション)では棘下筋のベクトルが変化し、外旋ではなく水平外転に作用します。
3rdにおける外旋の主力筋は小円筋になります。
ストレッチ方法
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肩関節を100度屈曲・内旋位、肘関節は軽度屈曲位にして、反対の手で肘を斜め上方に引き寄せることで棘下筋を伸張できます。
注意点として、棘下筋に短縮や癒着が生じているケースでは、上腕骨頭が前方に変位して肩前面の痛みを引き起こします。
その状態でストレッチングを実施すると肩を痛めてしまう原因となるため、肩前面に痛みがないことを確認してから行ってください。
筋力トレーニング
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1〜2kgの重り(ペットボトルなど)を手に持ち、肘関節を90度屈曲した状態で肩関節を外旋させながら持ち上げていきます。
この方法は、1stでの肩関節外旋となるため、棘下筋の横走線維を中心に鍛えることになります。
アナトミートレイン:筋膜連結
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棘下筋はアナトミートレインの中で、DBAL(ディープ・バックアーム・ライン)に属しています。
筋膜の繋がりとしては、近位は菱形筋と、遠位は上腕三頭筋と連結します。
DBALの一部に硬結が生じているケースでは、頚部・肩甲骨内側から上肢後内方・小指に向かっての痛みやしびれ感が生じます。
棘下筋と癒着しやすい場所
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棘下筋は肩甲骨の棘下窩の広範囲から起始していますが、棘下窩の遠位(上腕骨付近)には付着していません。
そのように本来は付着していない部分に癒着が生じると、筋肉が伸張できずに骨頭のブレを引き起こす原因となります。
癒着を剥離するためには、2枚の貼り付いた紙を剥がすような意識で摩擦を加えたり、指を間に押し込んで亀裂を入れるようにしていきます。
棘下筋が関連する疾患
- 肩関節不安定症
- 腱板損傷
- 棘下筋単独萎縮
- 肩甲上神経麻痺
- 肩関節周囲炎 etc.
肩関節不安定症
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棘下筋は硬くなりやすい筋肉のひとつであり、短縮があると上腕骨骨頭を関節窩前方に押し出そうとする力がかかり、次第に肩関節後方の関節包にも短縮が生じます。
棘下筋や関節包後方に短縮が生じている場合は、上肢を対側の肩に持っていく動き(水平内転)をすると上腕骨頭が前方に押し出されてしまいます。
そうすると肩関節前方にインピンジメントが発生し、肩関節前方の痛みを引き起こす原因になります。
棘下筋にトリガーポイントがあると、背臥位で寝ているときに圧迫されるため、夜間の肩関節痛として訴えることもあります。
腱板損傷
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腱板の中で最も断裂しやすいのは棘上筋(または肩甲下筋の舌部)で、棘下筋にまで至る断裂は大断裂に該当し、手術が適応となります。
術後は棘下筋の短縮を伴うことになるので、できる限りに関節可動域を拡大するようにアプローチしていきます。
棘下筋単独萎縮
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肩甲上神経は棘上筋と棘下筋を支配していますが、棘下切痕部で圧迫を受けているケースでは棘下筋に限局した萎縮が生じます。
棘下筋のみに発生する筋萎縮は他の障害ではあまりみられない特徴であるため、若年のスポーツ習慣者では確認が必要です。
とくにバレーボールや野球などの腕を上げる動作を繰り返すスポーツでは、肩甲上神経が伸張ストレスを受けるために発生しやすいです。