橈骨遠位端骨折(Colles骨折/Smith骨折)のリハビリ治療について解説していきます。
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橈骨遠位端骨折の概要
橈骨遠位端骨折は高齢者に多い骨折のひとつであり、転倒して手をついた際に手首のところで折れる骨折をいいます。
基本的に手根骨を介した遠位からの外力によって生じ、前腕や手関節の位置によって様々な骨折形態をとります。
橈骨遠位は手根骨(舟状骨と月状骨)と橈骨手根関節を、尺骨遠位端と遠位橈尺関節を構成しています。
受傷時に手関節を背屈位でついたら「Colles骨折(コーレス骨折)」、掌屈位でついたら「Smith骨折(スミス骨折)」の形態をとりやすいです。
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※赤色:茎状突起、青色:橈骨粗面、緑色:橈骨頭
橈骨遠位端骨折の発生率
年間の発生率は10万人あたり250人程度であり、女性の方が男性よりも3倍ほど多いとされています。
高齢になるほど発生率は上昇しますが、逆に80歳以降になると発生率は低下します。
これは転倒する際には反射的に手が出るのが普通ですが、高齢になって反射機能が低下し、手が出なくなってしまった可能性を示唆しています。
なので、手が出ているうちは反射的に身体を守ろうといった正常な反射が出ているとも言い換えられます。
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橈骨遠位端骨折の危険因子としては、以下の4つが挙げられます。
- 骨粗鬆症
- 転倒歴
- 過度の飲酒
- 歩行頻度が多い etc.
骨折の分類
骨折型は大別すると「関節外骨折」と「関節内骨折」があり、後者の方が予後不良となりやすい傾向にあります。
以下に、橈骨遠位端骨折AO分類を掲載します。重症度はAからC、1から3に向かって増していきます。
AO分類
A.関節外骨折
A1 | A2 | A3 | ||
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- A1:尺骨関節外骨折で橈骨骨折はない
- A2:橈骨関節外骨折で骨折線は単純
- A3:橈骨関節外骨折で骨折線は粉砕
B.関節内部分骨折:骨折線は関節面にかかっているが骨幹端部や骨端部の連続性は保たれている
B1 | B2 | B3 | ||
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- B1:橈骨関節内部分骨折(sagittal)
- B2:橈骨関節内部分骨折(背側Barton)
- B3:橈骨関節内部分骨折(掌側Barton,Smith骨折Thomas分類Ⅱ型)
C.関節内完全骨折:骨折は関節面と骨幹端部にあり骨幹部と連続性が保たれている
C1 | C2 | C3 |
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- C1:橈骨関節内完全骨折で関節面および骨幹端部の骨折線は単純である
- C2:橈骨関節内完全骨折で関節面の骨折線は単純だが骨幹端部の骨折は粉砕している
- C3:橈骨関節内完全骨折で関節面および骨幹端部の骨折線は粉砕している
関節外骨折について
関節外骨折は、橈骨の骨片が背側へ転位する「Colles骨折」と橈骨の骨片が掌側へ転位する「Smith骨折」に大別できます。
コーレス骨折 | スミス骨折 | ||
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関節外骨折なので、どちらも予後は良好とされており、受傷時に手をついた向きで転位する方向が分かれます。
下図のように後方に倒れた場合は手関節掌屈位となりやすく、手の甲をついた衝撃でSmith骨折を起こしやすいといわれています。
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しかし実際は、転倒時に手関節背屈・前腕回内位で手を着いた場合や、バイクでの衝突による橈骨遠位に加わる剪断力で骨折するほうが多いです。
そのため、スミス骨折はコーレス骨折よりも若年層に多く、高エネルギー外傷であるために軟部組織の損傷が大きく、拘縮をきたしやすい傾向にあります。
関節内骨折について
関節内骨折は、AO分類において関節内部分骨折に分類され、骨折は関節面にかかっているが骨幹端部や骨端部の連続性は保たれていることが条件です。
代表的なものに「Barton骨折(バートン骨折)」があり、背側Barton骨折と掌側Barton骨折に分けられます。
掌側Barton骨折ではコーレス骨折と同様に背側に骨折遠位部が転位し、掌側Barton骨折ではスミス骨折と同様に掌側に骨折遠位部が転位しています。
前者では主に掌屈動作で、後者では主に背屈動作で離開が生じやすいので、動作に関しては慎重に行う必要があります。
関節内骨折は関節外骨折と比較して、再転位や変形治癒を起こしやすいので、十分な管理が求められます。
橈骨遠位端骨折の合併症
合併症 | 内容 |
複合性局所疼痛症候群(CRPS) | 重度の疼痛、腫脹、発汗異常、皮膚の色調変化が生じて手指や手関節を動かせなくなる |
手指手関節の拘縮 | MP関節の伸展拘縮、PIP関節の屈曲拘縮が生じやすい |
手根管症候群 | 骨折部が掌側に突出したり、不良肢位の固定で手根管内圧が上昇することで生じる |
手根不安定症 | 舟状月状骨解離が最も多く発生する |
長母指伸筋腱断裂 | 骨折線がLister結節に及ぶ場合、骨折後数週から数ヶ月後に断裂する場合がある |
遠位等尺関節障害 | 変形治癒により、遠位等尺関節の不適合が生じ回旋制限を引き起こす |
尺骨突き上げ症候群 | 橈骨が骨折により短縮し、尺骨が相対的に長くなり手関節尺側の疼痛が生じる |
治療方法の選択
以下には、代表的な橈骨遠位端骨折であるコーレス骨折の治療法について解説していきます。
保存療法
転位のない安定型骨折は保存療法の適応となります。
ギプスでの固定期間は平均4-6週で、固定姿位はコットンローダー姿位(前腕回内-掌屈-尺屈位)と背屈位固定があります。
骨折形態によって使い分けることが多いですが、後者が機能的に予後良好とされています。
生活指導としては、①下垂のまま放置しない、②定期的に高挙する、③指を動かすの3点を指導して、生活で積極的に患肢を使用するように心がけてもらう必要があります。
手術的治療
関節内骨折では予後不良となりやすいため、手術が適応となります。
橈骨遠位端骨折では、掌屈プレート固定法を使用する場合が多いですが、関節内骨折のようにズレやすい部位に関しては、固定力の高い創外固定が実施されます。
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その他として、背側プレート固定法、鋼線固定法などが適応されます。
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リハビリテーション
時期別のリハビリ方法
1.保存療法の場合
期間 | 内容 |
0-6週 | キャスト固定、指のROM運動(自動・他動)、指の動きが悪ければスプリントで矯正 |
6-8週 | キャストオフ、手関節の愛護的ROM運動 |
8-10週 | 低負荷の筋力強化、手関節のROM運動、手関節の動きが悪ければスプリントで矯正 |
10週以降 | 筋力強化、手関節のROM運動、必要に応じてスプリント使用 |
2.手術療法(掌屈プレート固定法)の場合
期間 | 内容 |
術後3日 | 愛護的な前腕及び手関節自動運動、ダーツスローモーション |
1-2週 | 手関節自動運動、ダーツスローモーション、家事動作開始 |
2-3週 | リストラウンダーを用いた手関節運動、手関節他動運動、軽度の握力訓練 |
3週以降 | 筋力強化、自重を利用した他動可動域訓練(6週~) |
キャスト固定
保存療法の場合、固定期間は約4-6週間、キャストはMP関節フリーにて対応します。
ただし、手根管症候群の兆候が出現した場合は巻き直します。
掌屈30度以上または背屈10度以上は伸筋腱への影響が大きいとされており、背屈10度以上では痛み、握力低下が長期に継続します。
また、橈骨の短縮が10mm以上、回内障害が47%、回外障害が27%と報告されています。
キャスト固定中の注意点として、前腕にバッグをかけるなどすると肘関節の屈曲筋である腕撓骨筋に収縮が入り、その張力で骨片が近位へ転位するので注意します。
”【キャストとは】ギプス(石膏で固める)と同義語であり、近年では石膏ではなくプラスチックを使用するため、名前との剥離を埋めるためにCAST(注型・鋳造)という言葉に置き換わっている。 |
患部外トレーニング
外固定期間中から肩や肘、手指関節のROM運動を実施した群では、未実施群と比べて固定除去後の手関節可動域が良好で、手指拘縮が予防されたという報告があります。
しかし、セラピストが個別で実施するリハビリテーションは、自宅での自主練習群と比較して、臨床成績には有意な差を認めなかったという報告が数多くあります。
なので、自主練習の重要性を伝えて、自己管理できるように指導することが大切になります。
固定による不動や浮腫による末梢循環障害は、骨萎縮を促進させる原因になります。
浮腫や骨萎縮、拘縮などの予防のためにも、キャスト固定中からの手指の運動は必要不可欠です。
ROM運動の方法
コーレス骨折では手関節の強制背屈により、掌側の支持組織である橈側側副靭帯(RCL)、橈骨舟状有頭靭帯(RSC)、橈骨舟状月状靭帯(RSL)が損傷します。
損傷した靭帯を治癒させるために、上述した靭帯は短縮位のポジションで固定され、癒着や瘢痕化が進行して舟状骨は動きが乏しくなります。
靭帯の癒着を剥離するためには、手関節背屈時には牽引をかけながら月状骨を背側から押し込む操作と、舟状骨結節を遠位に押し出す操作とを同時に行います。
靭帯以外にも深指屈筋腱や浅指屈筋腱の滑走性が障害されている場合も多いため、無理のない範囲でしっかりと動かしておくことが大切です。
また、長期間の固定に伴って背側の支持組織である背側橈骨手根靭帯(DRC)、橈骨舟状靭帯(RS)の短縮が起こり、手関節掌屈の制限が起こります。
掌屈制限に対しては、掌側より舟状骨を押し込みながら、手関節を牽引しつつ掌屈させていきます。
予後について
可動域改善までにかかる期間
受傷後、手関節の可動域が正常までに回復するには、手術的治療を実施した場合に3-6ヶ月以上、保存療法では1年以上を要するという報告が多くあります。
しかしながら、高齢者では必ずしも手術的治療の方が有効であるともいえません。改善には関節外骨折の方が良好であり、関節内骨折で転位が大きい場合は不良となります。
【論文】可動域がほぼ正常に回復するまでには,回内外動作が術後約1ヵ月,掌背屈動作は術後3-4ヵ月間要した.握力は術後3ヵ月で健側の57%,術後6ヵ月では69%まで回復した.(安部幸雄.1999.) |
ROM運動の開始時期は、受傷後早期より自動可動域訓練を開始することで回復までの時間を短縮することができます。
しかしながら、早期の運動は転位を助長してしまう可能性も高く、長期的にはROMに大差がないことを重々に理解して実施する必要があります。
【論文】ギプス固定を行った橈骨遠位端骨折22例について,受傷後早期(平均4.5日)から手指,肘,肩関節の自動可動域訓練の作業療法を行った8例と対照群としてギプス固定(平均27.8日)除去後から作業療法を行った14例を比較した。 |
【結論】早期作業療法実施群は非実施群と比較して,ギプス除去後の手関節可動域が有意に大きく,手指拘縮は早期作業療法実施群で8例中1例,早期作業療法非実施群で14例中11例に認めた.(大野英子. 2006.) |
握力の回復について
握力は関節可動域より回復が遅くなることが知られており、受傷後6ヵ月で70-90%と言われています。完全な回復までには、1年から10年近くまで要したと報告は様々です。
なお、変形治癒した症例では、可動域制限や握力の低下が生じ、正常までの回復が困難なケースもあります。
【論文】保存的治療87例において,受傷後6ヵ月まではROMのほうが握力と比較して回復が早かった.受傷後6ヵ月の握力は健側の77%,ROMは健側の86%まで回復していた.最終的に健側までの回復には,握力とROMともに9-13年間要していた.(Foldhazy Z.2007.) |
再転位のリスクについて
再転位の予測因子は、①年齢、②背側粉砕、③橈骨短縮(尺骨変異の増大)、④背屈転位、⑤橈骨傾斜の低下、⑥尺骨骨折の合併、⑦関節内骨折などが挙げられています。
その他に可能性があると考えられている因子として、利き手、転倒歴、骨粗鬆症、靭帯損傷などの合併症の有無があります。
手根管症候群を併発する場合
手関節の掌屈位固定では、正中神経が横手根靭帯と屈筋腱の押し潰される状態にあり、手根管内圧の上昇に伴って、一過性の手根管症候群を生じる場合があります。
その場合は、掌屈位の角度を緩めるようにして固定し直します。
また、骨折による腫脹や血腫、疼痛による手指屈筋腱の緊張なども手根管症候群の原因となるので注意して観察してください。
疼痛の原因と対処法
前腕回外時の痛み
前腕回外時に尺側部痛がある場合、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷が疑われます。
TFCCが損傷している場合、遠位橈尺関節は不安定となっていますので、装具やテーピングで固定することにより負担を減らします。
また、日常生活でTFCCの圧迫が強まる動作(尺屈,掌屈肢位で力を入れる)を避けてもらい、回外や回内を強制しないようにすることが大切です
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手関節背屈時の痛み
手関節掌屈時に痛みがある場合、手関節背側の靭帯や関節包の拘縮が疑われます。
拘縮にて月状骨の掌屈が妨げられ、有頭骨との間に圧迫する力が加わり、月状骨と橈骨でインピンジメントが生じていると考えられています。
この場合、背側橈骨手根靱帯をストレッチすることで症状の改善が期待できます。
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尺骨突き上げ症候群の痛み
尺側の手関節掌側部痛がある場合、橈骨の短縮に伴う尺骨と三角骨間もしくは尺骨と月状骨間の圧力が高くなっている可能性があります。
手関節の掌屈運動では、TFCCの掌側に圧が集中しますので、疼痛肢位は避けるように指導を行います。
骨アライメントの変化に伴う痛みですので、治療は理学療法の範囲外になります。
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