橈骨遠位端骨折のリハビリ治療について解説していきます。
橈骨遠位端骨折の概要
橈骨遠位端骨折は高齢者に発生しやすい骨折のひとつで、転倒して手をついた際に発生します。
年間の発生率は10万人あたり約250人であり、女性の方が男性よりも3倍ほど多いとされています。
手術をしたとしても長期の入院となるケースは少ないので、基本的に外来リハビリでフォローすることが多い骨折のひとつです。
橈骨遠位端骨折の危険因子としては、①骨粗鬆症、②転倒歴あり、③歩行頻度が多いことが挙げられます。
骨折の分類
骨折の重症度および予後は、③関節内完全骨折、②関節内骨折、①関節外骨折の順に不良となります。
③は関節面と骨端部の骨折が合わさったもので、①と②を複合した骨折です。
コレス骨折では掌屈動作で、スミス骨折では背屈動作で離開が生じやすいので、動作に関しては慎重に行う必要があります。
また、関節内骨折は再転位や変形治癒を起こしやすいので、より慎重な管理が求められます。
橈骨遠位端骨折の合併症
合併症 | 内容 |
複合性局所疼痛症候群(CRPS) | 重度の疼痛、腫脹、発汗異常、皮膚の色調変化が生じて手指や手関節を動かせなくなる |
手指手関節の拘縮 | 手関節の背屈・掌屈の制限、MP関節の屈曲制限、PIP関節の伸展制限が生じやすい |
手根管症候群 | 骨折部が掌側に突出したり、不良肢位の固定で手根管内圧が上昇することで生じる |
手根不安定症 | 手根骨の捻挫や脱臼後に骨配列がずれたり緩みが生じて痛みや握力低下が生じる。舟状骨と月状骨の解離が最も多い |
尺骨突き上げ症候群 | 橈骨が骨折により短縮し、尺骨が相対的に長くなり手関節尺側の疼痛が生じる |
尺側の手関節掌側部痛がある場合、橈骨の短縮に伴う尺骨と三角骨間もしくは尺骨と月状骨間の圧力が高くなっている可能性があります。
手関節の掌屈運動では、TFCC(三角線維軟骨複合体)の掌側に圧が集中しますので、疼痛肢位は避けるように指導を行います。
骨アライメントの変化に伴う痛みですので、治療リハビリの範囲外になります。
保存療法の適応
転位のない安定型骨折は保存療法の適応となります。
キャストでの固定期間は平均4-6週で、固定姿位はコットンローダー姿位(前腕回内-掌屈-尺屈位)と背屈位固定があります。
生活指導としては、①下垂のまま放置しない、②定期的に高挙する、③指を動かすの3つを徹底してもらいます。
手術療法の適応
関節内骨折では予後不良となりやすいため、手術が適応となります。
橈骨遠位端骨折ではプレート固定法を選択する場合が多いですが、解放骨折で患部が汚染されている場合は創外固定法が選択されます。
術後創傷の治癒過程として、血管新生やコラーゲン合成が起こる増殖期が進行し、3-6週間で瘢痕により治癒に至ります。
組織が修復されて一定の強度を得るには、真皮では4週間、筋膜では6週間以上を要します。
リハビリテーション
怪我や手術などの修復過程で瘢痕化した組織には滑走不全が生じ、長期にわたって可動域制限をきたすため、徒手的にリリースを加えていきます。
方法としては、制限のある方向に関節を動かして、滑走不全がみられる組織を触診にて探し出します。
瘢痕化している組織に対しては、マッサージ(摩擦)による熱刺激を加えていき、滑走性を引き出すようにアプローチしていきます。
次いで、ROMを拡大するために他動的な関節運動や関節モビライゼーションを行います。
橈骨遠位端骨折では、拘縮しやすい手関節(主に背屈・掌屈)や手指(主にMP関節の屈曲)に対してアプローチしていきます。
治療順序としては、①組織リリース、②関節モビライゼーション、③ROMexの順に行います。
理由としては、関節包などが硬い状態で関節運動を行うと、骨頭のブレ(トランスレーション)に伴うインピンジメントが起こるからです。
そのため、まずは組織リリースや関節モビライゼーションを行い、トランスレーションが起こらない状態で関節運動を行う必要があります。
橈骨遠位端骨折では、拘縮しやすい手関節(主に背屈・掌屈)や手指(主にMP関節の屈曲)に対してアプローチします。
関節モビライゼーションの方法としては、傾斜や引き離しなどを用いて、関節包などの軟部組織を伸張するイメージで行います。
手関節の背屈時には、手根骨(凸側)を背側から押し込む操作を加えていくことで、正常の関節運動にちかい動きを再現します。
手関節の掌屈時には、手根骨(凸側)を掌側から押し込む操作を加えていくことで、正常の関節運動にちかい動きを再現します。