橈骨遠位端骨折の術後に肩が挙がらなくなった原因

橈骨遠位端骨折術後の患者を担当したときに、「手術をしてから2週間ぐらいして肩が挙がらなくなった」との訴えがありました。

母指は屈曲した状態で固まっており、どうやら術創(手首の上)で長母指屈筋腱の癒着が生じているようでした。

もしも筋膜の視点を持っているなら、これだけの情報で肩が挙がらなくなった理由が推察できるのですが、知らないと何故かはわかりませんよね。

今回は、なぜ筋膜を覚える必要があるのかも含めて、超簡単に理解する方法を解説していきます。

全身の運動は、①前方運動(屈曲)、②後方運動(伸展)、③外方運動(外転)、④内方運動(内転)、⑤外旋運動、⑥内旋運動に分類されます。

上肢の前方運動は手を挙げる動作ですが、そのときに筋膜はなにをするのかというと、肩から指先までを包むテープの役割を持ちます。

そのようにして上肢を固定することで挙げやすくなり、それに加えて各筋肉の屈曲力を伝達することでパワーを増強しています。

実際に筋線維の一部は深筋膜に入り込んでいるため、筋肉が収縮することで筋膜を引っ張ることになるわけです。

前方筋膜:親指の痛み

 

上記の画像は、上肢の前方運動配列に関与する筋肉(右側)と関連痛が出現する場所(左側)になります。

赤丸は筋肉と筋膜が癒着しやすい場所であり、押すと圧痛が認められるため、治療ではここを入念にほぐすことが必要です。

どうして問題のある場所と痛む場所が異なるかですが、筋肉の役割は関節を動かすことであり、関節に最も引っ張られる力が加わります。

そのときに筋膜の問題が生じていると過剰な収縮(攣縮)が発生し、侵害受容器を豊富に持つ関節包が刺激されます。

それが関節に痛みをきたす原因のひとつであり、関連痛が関節に起こりやすい理由でもあります。

話を戻しますが、冒頭の患者で問題となっている筋肉は長母指屈筋であり、名前の通りに前方運動に関与する筋肉です。

その腱が手関節前内方の術創で癒着しているため、長母指屈筋に加えて、橈側手根屈筋の伝達力も低下していることが考えられます。

元々あまり筋力が強くない患者だったので、筋膜の癒着に伴う固定力と屈曲力の低下が肩の挙上困難を招いたと推測できました。

手術をしてから2週間ぐらいして肩が挙がらなくなった理由としては、癒着が進行したか、または廃用が進行したのかのどちらかです。

上肢は下肢よりも廃用しにくく、さらに屈筋は伸筋よりも廃用しにくいため、今回のケースは「癒着の進行」が主因と考えられます。

手術をしなくても筋膜の癒着は日常的に起こるので、どの方向で痛みが強くなるか、どの動きの筋出力が落ちているかは確認するようにしてみてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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