死腔換気量についてわかりやすく説明

死腔とは?

死腔は、吸い込んだ空気のうちガス交換(O₂/CO₂)に参加しない部分を指します。
もっと平たく言えば、「吸ったけど、そのまま出ていく空気」—肺胞まで酸素が届かない空気、というイメージです。

死腔の種類

  • 解剖学的死腔:鼻腔〜気管支などの導管部(ガス交換面がない部分)。成人でおよそ150 mL(体重あたり目安:約2.2 mL/kg)。

  • 肺胞死腔:肺胞まで届くが血流が乏しく、実質的にガス交換できない空気。肺血栓塞栓症などで増加。

  • 生理学的死腔解剖学的死腔+肺胞死腔(健常ではほぼ解剖学的死腔に等しい)。

  • 装置死腔:マスク・スノーケルなど器具により増える“余分な容積”

ポイント:死腔“量”そのものは1回呼吸ごとにほぼ一定(=解剖学的死腔)。一方で、分時の“死腔換気量”は呼吸数が増えるほど大きくなります。


肺胞換気の式(VA)

肺胞換気量は、死腔を引いた分だけがガス交換に寄与します。

VA=(VT−VD)×f\textbf{VA}=(V_T – V_D)\times f

  • VTV_T:1回換気量(tidal volume)

  • VDV_D:死腔量(dead space ≈ 150 mL)

  • ff:呼吸数(/分)

例(1回の換気量が500mlの人)

  • VT=500V_T=500 mL、f=15f=15 回/分、VD=150V_D=150 mL
    → 分時換気量:500×15=7,500500\times15=7{,}500 mL/分
    死腔換気150×15=2,250150\times15=2{,}250 mL/分
    肺胞換気(500−150)×15=5,250(500-150)\times15=\mathbf{5{,}250} mL/分 ✅

“虫の息”が危険な理由

もし VT≈150V_T\approx150 mL(=死腔量)まで浅くなると、
(VT−VD)≈0(V_T – V_D)\approx0 となり 肺胞換気はほぼゼロ
呼吸しているのに酸素が取り込めないため、急速に低酸素へ。


深呼吸が効率的なワケ

  • 深く・ゆっくり吸うと VTV_T が増え、死腔の割合(VD/VT)が低下

  • 同じ分時換気量でも、浅く速い呼吸は「150 mL分の無駄」を何度も繰り返すため非効率

ミニ比較(同じ分時換気=6 L/分)

  • ゆっくり深くVT=600V_T=600 mL、f=10f=10VA=(600−150)×10=4,500VA=(600-150)\times10=4{,}500 mL/分

  • 浅く速くVT=300V_T=300 mL、f=20f=20VA=(300−150)×20=3,000VA=(300-150)\times20=3{,}000 mL/分
    → 同じ6 L/分でも肺胞換気は①の方がはるかに多い


よくある誤解の修正

  • :「死腔量は呼吸回数で増える」
    :1回あたりの解剖学的死腔量はほぼ一定。増えるのは分時の死腔換気量(VD×f)

  • :「深呼吸は死腔量自体を減らす」
    絶対量はほぼ不変。ただし VTV_T を増やすことで**死腔“割合”**が下がり、肺胞換気が増える


臨床メモ(知っておくと強い)

  • Bohrの式:死腔比 VD/VT=(PaCO2−PECO2‾)/PaCO2V_D/V_T = (PaCO_2 – \overline{P_ECO_2})/PaCO_2

  • 病態で増える死腔:肺血栓塞栓症、重症肺気腫、低心拍出、陽圧換気の過伸展など。

  • 装置死腔:リザーバーマスクやスノーケルで増大し、浅速呼吸で悪化しやすい。

  • 指導:**“ゆっくり長く”**の呼気で落ち着かせ、その後に穏やかな深吸気へ。過度努力は逆効果。


まとめ

  • 死腔は「ガス交換に参加しない空気」。成人で1回約150 mL

  • 肺胞換気は (VT−VD)×f(VT-VD)\times f

  • 浅く速い呼吸は非効率深くゆっくりが有利。

  • 病的条件では生理学的死腔が増え、酸素化がさらに不利になる。


よくある質問(Q&A)

Q1. 死腔はいつも150 mLですか?
A. 体格で変わります(目安2.2 mL/kg)。また病的条件では生理学的死腔が大きくなり得ます。

Q2. 浅い速い呼吸が苦しくなるのはなぜ?
A. 1回ごとの死腔割合が増え、実際の肺胞換気が不足するためです。

Q3. 深呼吸は本当に有効?
A. はい。**VT↑・f↓VD/VT↓**となり、肺胞換気が増えます(同じ分時換気なら特に有利)。

Q4. マスクやスノーケルは影響しますか?
A. します。装置死腔が増えるため、浅速呼吸だとさらに非効率。ゆっくり深くが基本です。

Q5. 病気で死腔が増えるケースは?
A. 肺血栓塞栓症、重症肺気腫、低心拍出、機械換気での過伸展などで肺胞死腔が増加します。

Q6. 計算は難しい?
A. 公式はVA=(VT−VD)×fだけ覚えればOK。例:VT=500VT=500 mL、VD=150VD=150 mL、f=15f=15 → VA=5.25 L/分


最終更新:2025-09-05