殿部に起こる痛みの原因とリハビリテーションによる治療方法について解説していきます。
①仙腸関節障害
仙腸関節とは、仙骨と腸骨から構成される平面関節で、周囲を仙腸靭帯と腰多裂筋の表層線維によって覆われています。
女性の30歳代に多く発症することがわかっており、産後にて靭帯が緩むことにより、関節部に過剰な負荷が加わって起こります。
治療方法としては、痛みを起こしている原因が腰多裂筋か仙腸靭帯かによって異なりますが、どちらも伸張性を改善することが必要です。
腰多裂筋が原因の場合は、腰背部に圧痛を認めることが多く、軽い筋収縮を誘導させることでリラクゼーションが図れます。
②梨状筋症候群
梨状筋は大殿筋の深層で坐骨神経を覆うように走行しており、何らかの原因で過緊張や浮腫が起こると、坐骨神経を圧迫してしまいます。
そうすると殿部から下肢にかけて痛みやしびれが発生し、いわゆる坐骨神経痛を起こします。この状態を梨状筋症候群といいます。
原因は梨状筋の過緊張や浮腫なので、梨状筋をリラックスさせて伸張することにより、坐骨神経への圧迫を軽減することが期待できます。
治療方法としては、過緊張の梨状筋にて対して母指にて圧迫刺激を加えていき、十分に緊張が抜けるまで押し続けます。
リラクゼーションが完了したら柔軟性を高めるためにストレッチを実施し、再発を予防していきます。
自主エクササイズとして、仰向けの状態から殿部でテニスボールをはさみ、梨状筋をじんわりと圧迫する方法も効果的です。
③股関節外旋筋群の血流障害
股関節深層に位置する外旋筋は、①梨状筋、②内閉鎖筋、③外閉鎖筋、④上双子筋、⑤下双子筋、⑥大腿方形筋の6つがあります。
変形性股関節症の患者では、しばしば膝関節が内向きになっており、大腿骨を内旋位に保持した状態となっています。
そうすると股関節外旋筋群が強制的に伸張された状態となり、虚血状態となって痛みを起こすことになります。
④上殿皮神経麻痺
上殿皮神経は、T11-L4の神経から成り、腸骨稜を乗り越える際に胸腰筋膜を4,5本の神経枝が貫通して殿部領域の感覚を支配しています。
そのため、胸腰筋膜に短縮や捻れが発生したり、神経損傷によって癒着が起こることによって上殿皮神経麻痺が起こります。
坐骨神経痛のように下肢に痛みが放散することはなく、基本的に痛みは神経支配領域のみに出現します。
治療方法としては、神経を圧迫している筋膜に対して持続的な伸張圧迫を加えていき、緩めるようにしてリリースを加えていきます。
⑤腰部脊柱菅狭窄症
上図は腰椎の断面図ですが、脊柱管の中には脊髄(腰椎以下は馬尾)が通過しており、狭窄して圧迫されることにより痛みが起こります。
痛みは腰部や殿部に起こりやすく、しびれは殿部から下肢にかけて生じ、長い距離を連続して歩けなくなる間欠性跛行が出現します。
下位腰椎に狭窄が起こりやすいことから、それより下位の神経が障害されやすく、いわゆる坐骨神経痛を引き起こします。
治療方法としては、まずはどの組織が変性して脊柱管を狭めているのかを特定する必要があります。
髄核の脱出(ヘルニア)が狭窄の原因であるなら吸収作用によって改善も望めますが、骨や靭帯の肥厚が原因なら自然治癒は望めません。
重度の間欠性跛行や神経麻痺が存在しているなら、早急に手術をすることが予後を良好に保つことにつながります。