烏口上腕靱帯の概要

- CHLは烏口突起から上腕骨大・小結節へ扇状に走行し、ローテーター・インターバル(RI:棘上筋腱と肩甲下筋腱の間)と上関節包の前上部を補強するキーストラクチャ。
- 主な役割は、肩関節の下方不安定性の抑制、および外旋(とくに0°外転=内転位)・伸展終末域・水平伸展の制動。
- 凍結肩ではCHLの肥厚・短縮が高頻度で、外旋・屈曲(および水平内転・伸展)制限に関与しやすい。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 起始 | 烏口突起 基部(外側〜後外側縁) |
| 停止 | 上腕骨 大結節・小結節 前上方(棘上筋腱・肩甲下筋腱と連続し、RIを補強) |
| 構成の補足 | 一部で小胸筋からの腱線維が合流しCHLを構成する報告あり |
| 緊張肢位 | 内転+外旋/水平伸展(後方到達)、伸展末期で緊張が高まる |
| 弛緩肢位 | 外転・屈曲・水平屈曲で相対的に弛緩(ただし凍結肩では広範に高緊張化しやすい) |
| 下方安定 | 下垂位での外旋時に骨頭の下方移動(inferior translation)へ抵抗 |
| 関係構造 | CHL直下に上腕二頭筋長頭腱が位置し、biceps pulley複合の一部として前上方逸脱を抑制 |
動態の理解(平面別)
- 矢状面:下垂位から伸展すると、小結節側(前方)停止部の距離が開大、大結節側(後方)は短縮。屈曲では逆に前方が短縮、後方が開大。
- 前額面:内転で両停止部の距離が開大(緊張↑)、外転で短縮(緊張↓)。
- 回旋:外旋でCHLが強く緊張し、RIは前後方向に狭小化して骨頭の求心性に寄与。内旋で弛緩・RI拡大。
機能(要点)
- 上方安定化:骨頭の下方引き出しに抵抗(下垂位で明瞭)。
- 回旋制御:外旋・伸展終末域で前上部関節包と協働し求心位を確保。
- Biceps pulleyの一部:長頭腱の前上方逸脱を抑制、前肩痛の予防に関与。
- 挙上初期の前上方不安定性に対するブレーキ。
画像所見のポイント
- MRI:RI部の線維性バンドとして描出。癒着性関節包炎では肥厚・信号変化が目立ちやすい。
- 超音波:烏口突起—大/小結節間の高エコー帯。長頭腱短軸像でプーリー連続性や肥厚、動態(内外旋)での伸張性低下を評価。
臨床での意義
- 癒着性関節包炎(凍結肩):CHL肥厚・短縮が典型。0°外転位の外旋や水平内転・伸展で端域痛+硬いエンドフィール。
- 投球障害肩/前方不安定性:上腕二頭筋長頭腱を含むローテーター・インターバル損傷(rotator interval lesion)を併発しやすい。
- サルカスサイン(Sulcus sign):下垂位で上腕を下方牽引し肩峰‐骨頭間の陥凹を観察。内旋/中間/外旋の3肢位で比較。外旋位で陽性ならCHLを含む前上方支持組織の弛緩を疑う。
触診・評価のコツ(実践)
- ランドマーク:背臥位で肩を軽度伸展。大・小結節上面を確認。
- 外旋で緊張を捉える:大・小結節上面に指を置いたままゆっくり外旋→CHLの張力増加を触知。
- 内転・伸展を加える:外旋位を保ちつつ内転+伸展するとさらに緊張↑。分かりにくい場合は一度屈曲・外転で緊張を抜いてから再セット。
- 機能テスト:0°外転位外旋の終末痛+硬いエンドフィールはCHL/前上部包の関与を示唆。0°と90°外転位外旋の差が大きければ前上要素短縮を疑う。二頭筋溝テストでプーリー機能も確認。
セルフケア・運動(炎症期でない想定)
- 外旋ストレッチ(0〜30°外転):15–30秒×3–5回/日。痛み残存なしで終了。
- 水平内転+外旋の小可動域反復:RI滑走の改善。
- 壁スライド:肩甲骨上方回旋・後傾を意識した軽負荷挙上で反応性を整える。
- 腱板アクティベーション:低負荷等尺性ER/IR→短可動域ダイナミックERへ段階的に。
理学療法の実践ポイント
- 温熱 → I–IIグレードの前上関節包モビライゼーション → 可動域確保後にIII–IVへ。
- 後下方包の硬さ(内旋制限)は併存しやすい。前上だけに固執しない全体設計を。
- 端域反復のやり過ぎは炎症再燃・夜間痛のリスク。症状反応ベースで用量調整。
関連疾患
- 癒着性関節包炎(凍結肩)
- 上腕二頭筋長頭腱プーリー損傷/腱炎/サブラクセーション
- 腱板部分断裂(棘上筋・肩甲下筋前上方)
- 反復性前方不安定症に伴う前上方疼痛
- 肩峰下インピンジメント症候群(前上方組織の高緊張が寄与)
Q&A(よくある質問)
Q1. CHLが硬いと何が起こる?
A. 外旋・伸展・水平内転の端域が硬く痛い/衣服の着脱困難/夜間痛。凍結肩で典型的です。
Q2. マッサージで柔らかくなる?
A. 靱帯自体は揉んでも変化しにくい。前上部包モビライゼーション+外旋系ROM、肩甲帯の姿勢再学習を軸に。
Q3. 効くストレッチは?
A. 0〜30°外転位の外旋ストレッチが第一選択。15–30秒を痛み残存なしで反復。強い反応日は用量を減らす。
Q4. 手術でCHLを切っても大丈夫?
A. 難治性の凍結肩で鏡視下関節包解離(CHLリリースを含む)が行われることがある。術後早期のROM維持リハが予後を左右します。
Q5. 二頭筋の不安定と関係ある?
A. あります。CHLはbiceps pulleyの一部で、破綻すると長頭腱の前上方逸脱→前肩痛・クリックの原因になり得ます。
まとめ(臨床要点)
- CHL=前上部包の要:上方安定化・外旋/伸展制動・二頭筋プーリーに関与。
- 凍結肩では肥厚・短縮が典型。0°外転位の外旋制限が強ければまずCHLを疑う。
- 介入は温熱→前上包モビライゼーション→外旋系ストレッチ→腱板活性化を段階的に。
- Sulcus signは3肢位比較。外旋位で陽性ならCHLを含む前上方支持組織の弛緩を疑う。
最終更新:2025-11-06