理学療法士は治療手技やエビデンスを学ぶべきか

昔に勤めていた回復期病院では、平日に交替しながら休みをとっていたこともあり、患者のリハビリ代行が非常に多い職場でした。

そのため、施術者によって効果にムラが出ないように、また、患者が人によって良し悪しを判断しないように、特別な手技は用いないようにプログラムを組んでいました。

先輩はこれを「金太郎飴方式」なんて呼んでいましたが、今になって考えてみると、これは非常に大切なことだと思います。

誰が実施しても同じように効果を出せること、それがいわゆるエビデンスに基づいたリハビリ治療ではないでしょうか。

エビデンスは治療に必要か

この問いに関しては当然ながらイエスなのですが、いくつかの条件があります。

例えば、腰痛症に対する治療を考えた場合に、エビデンスがある治療なんてほとんど存在しません。なぜなら、まず腰痛の原因が特定できていないことが多いからです。

原因が様々であるのに対し、それらを引っくるめてひとつの方法の効果を検証しても、効果がある人にはあるし、ない人にはないとしか言えません。

これはエビデンスを示す以前の話なので、しっかりと対象を絞っていない論文をいくら読んだところで、根拠のある治療とはとても呼べないでしょう。

それに対して、前十字靭帯損傷のように原因がはっきりとしている障害などに対しては、エビデンスがある治療を実施することが必要不可欠です。

予後を説明する上でも、何ヶ月後には筋力の左右差がこれだけに縮まって、スポーツ復帰が可能となるといったことまで予測ができます。

アメリカでは試験もエビデンスが出題

理論よりもエビデンスを重視するアメリカでは、この運動をこれだけやったら、どれだけの効果があるといった内容を重視します。

実際の理学療法士の試験においても、そのようなエビデンスに関する問いが多いようです。

ただし、前述したようにエビデンスを示すことに適していない疾患も存在していますので、その場合はシングルケーススタディを多く勉強するほうが効果的だと思います。

運動療法ナビゲーションのシリーズでは、そのようなケーススタディを数多く記載してくれているので、エビデンスのみで対処できない疾患に関しては勉強になります。

臨床で経験を蓄積する

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があるように、本などを読んで勉強することはとても大切なことです。

しかし、本の中には個別で成功した事例しか書かれていませんので、それを実際に活用してみて本当に効果があるのかは自分で確かめるしかありません。

そういった経験を蓄積していくことにより、エビデンスが乏しい疾患に対しても、徐々に効果的な方法が選択できるようになっていくはずです。

いずれは確立した治療法が報告されてくるかもしれませんが、現状は個々のセラピストが手探り状態で実施している状況であるため、それらの情報を共有することが求められます。

治療手技にエビデンスはあるのか

世の中には数多くの治療手技が存在していますが、そのほとんどはひとつの手技を万能のような書き方がなされていたりします。

前述したように、エビデンスが出しにくい疾患というのは、そもそも原因が多く存在しているものであり、ひとつの手技で対応できるほど容易ではありません。

そのため、手技の根拠とされる痛みの原因や治療法の考え方にも疑問が残る場合が多く、根拠としては乏しいことがほとんどです。

それなら勉強する必要がないかと言われたらそうではなく、これもシングルケーススタディの一種で、その方法で改善する症例も当然ながらいます。

2chの創設者である西村博之氏は、「嘘を嘘と見抜けないと(掲示板を使うのは)難しい」と言っていましたが、これに通ずることがあると私は考えています。

すべてを鵜呑みにしてひとつの手技にこだわるのは危険ですが、視野を広げるためにそのエッセンスを取り込むという意味では有用です。

治療手技を鵜呑みにしないためには

もしも私たちが解剖学や運動学、生理学をしっかりと勉強しているのなら、本来は特定の治療手技というものは必要ではないはずです。

しかし、そのようなメカニズムがよくわかっていないからこそ、即時的にでも効果を出すために治療手技を勉強しているのだと思います。

これは決して悪いことではなく、どれだけ勉強しても痛みの原因がわからない疾患は多くありますし、不確かなものに頼りたくなるのは言わば当然の結果です。

ただしその時に、基礎的な知識が欠けていると相手の言うことを疑うことができず、すべてを鵜呑みにして間違った方向に進むことすらあります。

だからこそ、手技と同時に基礎的な部分を勉強し続けていくことが大切で、それを怠ってはいけないと今では痛感しています。

理学療法はエビデンスに基づくべきです。しかし、確立されていない疾患に関してはシングルケースを学んだり、自分でデータを蓄積することが大切です。

そして、視野を広げるための補助的な手段として、手技などを学んでみると効果的ではないかと思います。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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