神経系モビライゼーションの考え方について解説していきます。
この記事の目次はコチラ
神経系モビライゼーションの概要
神経の滑走性および伸張性の改善を目的とした手技であり、直接的に神経系へアプローチする方法です。
椎間板ヘルニアを例にして、その具体的な考え方について解説していきます。
椎間板ヘルニアとSLRテスト
椎間板ヘルニアではSLRテストが陽性となりますが、それはヘルニアで圧迫を受けている余裕のない神経が滑走・伸張されることで、刺激を受けることにより発生します。
SLRテストが70度以下で痛みや痺れなどの制限が起こる場合は、神経の滑走性や伸張性が障害されている可能性が考えられます。
滑走性障害と伸張性障害
下肢を挙上していく際に神経は滑走していきますが、ヘルニアで圧迫を受けている場合は神経が摩擦を受けて、うまく滑走することができません。
この状態を「滑走性障害」と呼びます。
SLRテストで35度以下にて症状が発生する場合は、滑走性障害の可能性が高いと考えられます。
滑走が終了して神経が伸びきってしまったあと、その位置からさらに神経を伸張させることで、神経の伸張性を確認することができます。
坐骨神経の遊びがなくなるのが35度あたりなので、それ以上の角度で制限される場合は伸張性の低下が考えられます。
確認テストとしてブラガード徴候がありますが、これはさらに神経を伸張することで症状の憎悪が認められるかを確認しています。
神経は頭から足先まで続いている
上記のブラガード徴候がどうして起こるかについては、神経を絵で書いてみると理解がしやすいです。
脳から脊髄、末梢神経とすべての神経はつながっていますので、足首を背屈させることで坐骨神経をさらに伸張させることが可能になるという理屈です。
ただし、この方法では同時に筋膜(深筋膜や浅筋膜)も伸張されることになるので、必ずしも神経痛とは判断できません。
神経系モビライゼーションの方法
方法については、スライダーとテンショナーといった二つ方法がありますが、前者が滑走性を高める方法で、後者が伸張性を高める方法になります。
治療においては、神経の圧迫による障害を扱うため、テンショナーのように神経に持続的な伸張を与える方法は逆効果となります。(遠位部には可能)
そのため、ほとんどの場合は反復刺激を加えるスライダーで対応し、症状の憎悪がないように注意しながら実施していきます。
アプローチは障害部位の遠位から実施することが基本であり、頚部の屈曲といった頭側方向からや、足首の背屈といった尾側方向から開始します。
そこから股関節屈曲位での膝関節伸展や、膝関節伸展位での股関節屈曲といったように徐々に障害部に向けてポイントを移していきます。
治療の効果について
スライダーの効果として、炎症性滲出液を絞りとることによって静脈流を高め、神経の炎症や低酸素状態の改善が期待できます。
テンショナーの効果として、神経組織の粘弾性を改善することにより、神経を伸張することが期待できます。
人工股関節全置換術後の神経障害
THAの約1%に神経障害が出現しますが、これは長期にわたる下肢長の短縮やROM制限によって短縮していた坐骨神経が術後に急激に引き延ばされることが原因と考えられています。
坐骨神経はとても太い神経であり、椎間板ヘルニア以外にも様々なところから障害を受けるリスクを持っています。
治療では、神経系モビライゼーションを加えながら坐骨神経の滑走性や伸張性を高めることを目標に、繰り返しの関節運動にて神経の伸張と弛緩を適度に反復することが求められます。