今回は筋・筋膜が原因の肩関節の痛みについて解説していきます。
まず最初に、受傷機転のない肩関節痛のほとんどは、①筋・筋膜性肩痛、②腱板性肩痛、③肩関節周囲炎の3つに大別できます。
肩関節は、狭義の意味では肩甲上腕関節を指しますが、肩甲胸郭関節や肩鎖関節も含めた複合関節であるという点に留意してください。
身体の動きは大まかに、①前方(屈曲)、②後方(伸展)、③外方(外転)、④内方(内転)、⑤外旋、⑥内旋の6つに分けられます。
肩関節においては、前方・外方・内旋の方向に働く筋肉が硬くなりやすい傾向にあります。
上肢における前方の機能的な筋膜連結は、DFAL(ディープ・フロントアーム・ライン)に該当します。
筋緊張が増大する原因には、①支持、②過用、③防御、④損傷・癒着などの要素が影響しています。
支持とは、身体の変位した部位を引き戻すために筋肉が緊張した状態で、頭部前方位に伴う僧帽筋の緊張増大などが該当します。
過用とは、特定の筋肉を過度に使用し続けた状態で、純粋なテニス肘などが該当します。
防御とは、痛みがある関節を動かさないように周囲の筋肉が防御性収縮した状態で、五十肩に伴う腱板構成筋の緊張増大などが該当します。
損傷・治癒とは、怪我などが原因で筋・筋膜に損傷や癒着(滑走不全)が生じた状態で、捻挫後遺症などが該当します。
上の画像は、上肢における機能的な筋膜連結を示した図で、アナトミー・トレイン理論におけるDFALになります。
筋肉の連結としては、小胸筋から上腕二頭筋、前腕外側を橈骨骨膜を経由して母指球筋へと繋がります。
このライン上に滑走不全が生じると、母指の腱鞘炎や上腕骨外側上顆炎、上腕二頭筋長頭炎などを引き起こします。
上の画像は肩甲骨の動きと主な動筋を示したもので、硬くなりやすい筋肉には赤いライン、弱化しやすい筋肉には青いラインを引いています。
肩甲骨に付着する筋肉の中では、小胸筋や僧帽筋上部線維、肩甲挙筋が硬くなりやすい筋肉なります。
小胸筋は肩甲骨を前傾させる主動作筋でもあり、肩甲骨を外転させる作用と合わせて、緊張が高い場合に巻き肩を引き起こす筋肉でもあります。
肩甲骨を正常な位置に戻すには、硬くなっている筋肉をリリースすることに加えて、その拮抗筋を促通することが必要です。
筋膜制限は最終的には分節末端で代償することから、分節末端(手・足・頭部)に感覚異常がないかの確認も重要です。
例えば、母指に異常感覚を訴えるようなら前方ラインの問題が疑われるので、前方運動配列を中心に調べていきます。
この繋がりを理解しておくことで、効率的に問題のある場所を見つけることができます。
身体には運動パターンというものが存在しており、例えば、仙骨が前傾すると腰椎屈曲、胸椎伸展、頸椎屈曲といった具合に動きます。
胸椎は肩甲骨に影響を与えることになり、胸椎伸展では肩甲骨内転となり、肩甲骨内転は肩関節伸展・外転・外旋に連動します。
さらに肩関節の動きは肘関節に影響を与え、肘関節は手関節に、手関節は手指に影響します。
仙骨後傾は仙骨前傾と逆の動きをすることになるので、どちらの運動パターンを促通すべきかを考えながらアプローチすることが求められます。
例えば、小胸筋が硬くなっている場合は肩甲骨外転(仙骨後傾)の運動パターンが強くなっているので、反対の肩甲骨内転パターンを促通します。
このことを理解できるようになると、手指から肩関節を誘導したり、仙骨から肩関節を誘導するようなことが可能となります。
この運動パターンは入谷式カウンター理論がベースになっており、例えば、仙骨が前傾すると仙骨上方は前方に、仙骨下方は後方に動きます。
仙骨上方が前方に動くと第5腰椎は後方に動くことになり、隣接する部分が逆方向(カウンター)に動くことが由来となっています。
運動パターンを促通する方法はいくつもありますが、まずはどの組織に対してアプローチしていくかを明確にしておく必要があります。
肩関節疾患には筋・筋膜に対してアプローチすることが多く、組織リリースや自動運動(自動介助運動)、テーピングなどを利用していきます。
筋・筋膜性肩痛(前方型)の治療では、上肢前方の「攣縮した筋肉」や「高密度化した筋膜」のリリースを行っていきます。
組織の硬さを調べる方法として、徒手的に正常なアライメントに修正したうえで、その抵抗感や伸張された側の硬さを中心に触診していきます。
具体的には、患側を上にした側臥位をとってもらい、施術者は肩甲骨を後傾・内転させて小胸筋の硬さをみます。
肩甲骨がスムーズに動く場合は肩甲胸郭関節の問題は除外し、次に肩甲上腕関節を正常な位置に誘導し、上腕二頭筋や三角筋前部の硬さをみます。
肩甲上腕関節のほとんどは上腕骨頭が前方に変位(一部は上方にも変位)するので、骨頭を後方に押し込んだ位置でチェックします。
とくに筋間は硬くなりやすいポイントなので、筋膜の滑走不全がないかを確認し、見つけたら引き剥がすイメージでリリースしていきます。
筋膜リリースは誘導する方向も重要であり、前方からアプローチする場合は末端方向に、後方からの場合は中枢方向に誘導します。
わかりやすく書くと、緊張を抑制した筋肉は停止方向に、促通したい筋肉は起始方向に触れていくことが必要です。
テーピングによる誘導も効果的であり、例えば、上腕骨を外旋させる方向にテープを貼り付けたとします。
上腕骨外旋は、肩甲骨内転および肩関節伸展パターンと同じなので、結果的に小胸筋や上腕二頭筋の緊張を抑制します。
テーピングは即時に動きの変化が起こるので、貼付後に肩を動かしやすくなるようなら誘導する方向は正しいと判断できます。
他にも、運動パターンを促通する方法として関節の自動運動が有効で、促通したい方向に反復運動を行います。
運動パターンを整えるために負荷をかける必要はなく、重要なのは定期的(一時間置き)に意識して実施することです。
それは結果的に患者教育にも繋がるので、どのような姿勢や運動を意識したほうがいいかを説明し、患者自身で整えられるようにしていってください。