続・オステオパシーとは何か|読書レビュー|平塚晃一 著

オステオパシーは、アメリカの外科医であるアンドリュー・テイラー・スティル(1828-1913)により創始された治療法です。

日本ではあまり普及していない技術ですが、発祥地であるアメリカやイギリスではオステオパシー医として資格も存在しています。

私もこれまでに何度も聞いたことがある言葉でしたが、今回はしっかりと意味を理解したいと思い、本を購入することにしました。

そんな知ってそうで知らないオステオパシーについて解説していきます。

オステオパシーが生まれた背景

スティル医師はヴァージニア州の出身で、カンザスに住んでいた1864年、全域を襲った流行性髄膜炎によって3人の娘を亡くしました。

医師でありながら娘たちを救えなかった後悔と、水銀などを用いる当時の薬剤治療に疑問をもったことから、彼は健康と病気について深く考えることになりました。

スティル医師の求める治療法は東洋医学にちかい部分があり、自然治癒力を高めることに基づいたものでした。

彼は研究を続けるうちに、どんな病気の患者もその多くが必ず筋骨格系に異常があることに気づきました。

また、血液循環や神経支配機能がバランスを崩して不調になると、さまざまな症状を引き起こすこともわかりました。

そして、この循環系や神経系の働きを妨げる主たる原因が、体の各部分をつなぐ関節の動きの低下といった構造的機能の問題と、軟組織である筋膜の機能的問題であると結論づけました。

つまり、あらゆる病気を快復させるには、関節の動きの低下と筋膜のゆがみを治して、循環系や神経系の働きをスムーズにすればいいわけです。

スティル医師は、この理論に基づいた徒手療法をオステオパシーと命名し、1874年に発表しました。

オステオパシーは「アメリカ医学」と呼ばれることもあり、ヨーロッパ生まれの西洋医学や東洋医学とも異なったアメリカ生まれの治療法になります。

日本には明治時代に伝えられた

オステオパシーが誰がどのように日本に伝えたかは今ではわかりませんが、大正10年に発行された「山田式整体術講義録」の中にオステオパシーの原理や定義について記されています。

早い時期に伝わってきたオステオパシーですが、日本に普及しなかった理由として、著者の山田信一氏が「山田式整体術」として発表したからです。

山田式整体術講義録(復刻版)は3冊存在し、①プラナ療法、②オステオパシー、③精神療法で構成されています。

これらの治療法を元にして生み出したのが山田式整体術であり、オステオパシーはその中のひとつの要素に過ぎませんでした。

そのせいでオステオパシーが日本で脚光を浴びることがなく、現在に至っているものと推察されます。

本書に掲載されてる時点(2003年)では、日本全国で認定されたオステオパスはわずか122人しかいません。

オステオパシーの技術

オステオパシーは筋骨格系に対する徒手療法であり、①関節のゆがみを矯正する、②軟部組織の滑走不全を改善することを目的とします。

関節のゆがみを矯正する場合、直接法と間接法の2つの方法があり、直接法は異常のある部分に直接働きかけて矯正する方法です。

たとえば、頚椎の1ヶ所が左へずれている場合、この部分を右に動かして正常な位置にもっていきます。牽引も直接法のひとつです。

これに対して、左へずれた頚椎をもう少し左へもっていき、自然治癒力を働かせて右に戻す方法を間接法といいます。

前述したように骨のゆがみは血液を滯らせ、神経を圧迫して感覚や運動の障害、自律神経の失調などを招くとされています。

とくに脊椎では神経が豊富に存在しており、脊椎に変性が存在するなどするとゆがみが生じやすくなります。

そのため、同じアメリカ医学でもあるカイロプラクティックなどにおいても、脊椎に対する治療はとても重要となってきます。

関節に対する治療としてAKAなどの関節モビライゼーションなどがあり、軟部組織に対してはマッサージや筋膜リリースなどがあります。

これらの治療法はオステオパシーと通ずるものがあり、現在の徒手療法においても中核に存在する考え方となっています。

オステオパシーの適応

オステオパシーの適応は大変に広く、具体的には以下の症状に効果があるとされています。

  • 目:眼精疲労、白内障、緑内障、斜視
  • 鼻:鼻詰まり、蓄膿症、鼻炎、鼻アレルギー、鼻風邪、鼻中隔弯曲症
  • 耳:中耳炎、耳鳴り、難聴、めまい
  • 口:味覚異常、顎関節症、口内炎
  • 歯:歯槽膿漏、虫歯以外の歯痛
  • 頭:頭痛、偏頭痛、脳貧血、めまい、頭のしびれ、顔面麻痺、三叉神経痛、高血圧、低血圧、はげ
  • 頚・腕・手:肩こり、寝違い、頚痛、むちうち症、手や腕のしびれ・痛み、胸郭出口症候群、捻挫、腱鞘炎、テニス肘、ばね指
  • 喉から胸:吐き気、乗り物酔い、扁桃腺炎、喘息
  • 胸部:心臓の問題(不整脈、頻脈、心悸亢進、脈の結滞など)、肺の問題(慢性化した結核・胸膜炎・気胸など)、肋間神経痛、背部痛
  • 上腹部:肝臓の問題、偽食道裂孔ヘルニア、胆嚢の問題
  • 胃・十二指腸:胃の問題(胃痛、胃炎、胃下垂、胃潰瘍など)、十二指腸潰瘍、幽門狭窄
  • 小腸・大腸:便秘、下痢、初期の虫垂炎、盲腸炎、結腸炎
  • 骨盤内臓:子宮後屈、子宮筋腫、痔(痔核、脱肛、切れ痔など)、初期の前立腺肥大、慢性膀胱炎
  • 脊柱:脊柱のゆがみ、椎間板ヘルニア、椎間板症、肋間神経痛、腰痛、ぎっくり腰、側弯症
  • 骨盤から下肢:骨盤のズレやゆがみ、股関節炎、坐骨神経痛、膝の痛み、足の痛み、足首のねんざ
  • 精神:そう病、うつ病、自閉症、ノイローゼ、多動症

おわりに

日本における徒手療法はオステオパシーの影響を受けており、知らない間に我々もその技術を習っていることが多々あります。

自分もそのうちのひとりで、あの先生が言っていたことはオステオパシーが由来だったのだと気づくことが本を読むうちに何度かありました。

カウンターストレインや頭蓋仙骨治療(クレニオ・セイクラル・セラピー)などもオステオパシー医が開発した技術です。

オステオパシーを学ぶことで臨床に活かせることはまだまだありそうなので、今後も少しずつ勉強してみます。皆さんもぜひ参考にしてみてください!


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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