この記事では、縫工筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
この記事の目次はコチラ
縫工筋の概要
縫工筋は骨盤外側から脛骨内側にかけて斜めに走行する二関節筋であり、人体で最も長い筋肉になります。
縫工筋は胡坐(あぐら)をかくときに働く筋肉ですが、昔は裁縫職人が胡坐で作業をしていたので、そこから縫工筋と名付けられました。
縫工筋は結合組織の帯により数カ所で分割されているため、筋組織は短くなっており、各部位の筋には独自の膨らみを持っています。
卓球やバスケットのような左右の動きを繰り返すスポーツで受傷しやすく、仕事では立ち座りを繰り返す動作が負担の原因となります。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 大腿神経の前枝 |
髄節 | L2-3 |
起始 | 上前腸骨棘 |
停止 | 脛骨粗面の内側で下腿筋膜に停止(鵞足を形成) |
栄養血管 | 大腿動脈 |
動作 | 股関節の屈曲,外旋,外転、膝関節の屈曲,内旋 |
筋体積 | 140㎤ |
筋線維長 | 48.4㎝ |
速筋:遅筋(%) | 50.4:49.6 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
股関節屈曲 |
股関節外転 |
1位 | 大腰筋 | 中殿筋 |
2位 | 腸骨筋 | 大殿筋(上部) |
3位 | 大腿直筋 | 大腿筋膜張筋 |
4位 | 大腿筋膜張筋 | 小殿筋 |
※縫工筋は股関節の「屈曲+外旋+外転」に複合的に働く筋であり、個別の屈曲や外転に働く貢献度としては低くなっています。
縫工筋の触診方法
縫工筋は股関節において「屈曲+外転+外旋」に作用する唯一の筋肉です。
そのため、これらの複合的な動きを実施して収縮を促すことで、容易に触診が可能となります。
スカルパ三角
縫工筋と鼡径靭帯と長内転筋の3つでスカルパ三角(大腿三角)を構成しており、中には大腿動静脈と大腿神経が通過しています。
怪我などで止血をする場合はスカルパ三角を強く圧迫することにより、大腿動脈の血流を止めて大量出血を防ぐことができます。
大腿の断面図
大腿中央を断面でみた場合、縫工筋は個別に仕切られていることがわかりますが、この筋間中隔があることで股関節の屈曲・外転・外旋といった特徴的な動きが可能となっています。
縫工筋の前方は内側広筋と仕切られていますが、ここの筋間中隔は滑走不全を起こしやすく、膝関節内側の痛みを引き起こす原因となります。
とくに大腿骨内旋(ニーイン)しているケースでは、内側広筋と縫工筋の筋間は必ず触診することが大切です。
ストレッチ方法
下肢をベッドに乗せて膝関節を屈曲位とし、体重を反対側に移動して体幹と骨盤を回旋しながら、股関節を伸展・内旋するように下腿を引き上げます。
アナトミートレイン
縫工筋は同側ファンクショナル・ラインの筋膜経線につながる筋肉であり、このラインは短いですが、とても機能的であるとされています。
例えば、体操選手が吊り輪を行っているときなどは、広背筋上で身体を支えることになり、このラインが積極的に活躍します。
歩行時の筋活動
上図では、歩行における股関節の屈曲角度と縫工筋が活動する時期をまとめています。
縫工筋は前遊脚期(PSw)の後半から遊脚初期(ISw)にかけて活動し、この時期は股関節が屈曲していくと同時に膝関節の屈曲も増加します。
縫工筋は膝関節の屈曲が最大値を示したあたりで筋活動が終了します。
関連する疾患
- 鵞足炎
- 上前腸骨棘裂離骨折
- 外側大腿皮神経麻痺(鼡径靱帯症候群)
- 平泳ぎ膝 etc.
鵞足炎
縫工筋と薄筋と半腱様筋の3つは、脛骨粗面内側に停止しており、その形状が鵞鳥の足のように見えることから鵞足と呼ばれています。
鵞足は共同して、下腿を内旋させる方向に働いています。
膝関節痛の患者において、他動的に下腿を外旋させた際に膝関節が屈曲する場合は、鵞足構成筋や腓腹筋内側頭の拘縮が疑われます。
上前腸骨棘裂離骨折
走り幅跳びや短距離走の選手においては、縫工筋に急激かつ強力な牽引力が加わります。
それが繰り返されると縫工筋の起始である上前腸骨棘が裂離し、骨折することになります。
外側大腿皮神経麻痺
外側大腿皮神経は、鼡径靭帯の下を通過して、縫工筋の内側を折れ曲がる(約80度)ように出ていっています。
そのため、縫工筋に炎症が起きて腫れたり、股に食い込むような窮屈なズボンや下着を付けることで容易に圧迫されてしまいます。
この部位での圧迫は前枝と後枝に枝分かれする前ですので、外側大腿皮神経の支配領域すべてに知覚異常が生じます。