肩峰下滑液包炎のリハビリ治療

肩峰下滑液包(肩峰下三角筋下滑液包)

滑液包は、摩擦や圧縮から組織を保護する「潤滑クッション」の役割を担います 。その中でも**肩峰下滑液包(subacromial bursa: SAB)**は人体で最大級の規模を持ち、三角筋下滑液包と連続しています 。

豊富な神経分布: SABには痛みを感じる自由神経終末(侵害受容器)が非常に高密度に分布しており、肩関節周囲の組織の中で最も痛みに敏感な部位の一つです 。

主な役割: ①挙上運動時における棘上筋腱の滑走性の確保、②上腕骨頭が上方へ変位した際のクッション(緩衝材)としての作用です 。

痛みの起こり方(メカニズム)

肩関節を外転・挙上する際、大結節は烏口肩峰アーチ(肩峰や烏口肩峰靭帯)の下を通過します
  • Painful arc(疼痛弧): 特に外転60~120°付近は肩峰下スペースが最も狭くなり、SABや腱板が圧縮・摩擦ストレスを受けやすくなります
  • 二次的要因: 姿勢不良(胸椎後弯/肩甲骨前傾・外転位)、腱板の機能低下による求心位の喪失、後方関節包のタイトネスなどがあると、上腕骨頭が相対的に上方へ押し上げられ、インピンジメント(衝突)を助長します
  • 臨床的特徴: 純粋な滑液包炎よりも、棘上筋腱の変性や炎症(腱板炎)を併発しているケースが多く認められます。痛みは**肩上面から外側(三角筋付着部付近)**にかけて広く放散しやすいのが特徴です

徒手検査

1.Neer impingement test
意義)肩峰下インピンジメントの判定
方法)患者は座位にて、前腕を回内位に保持し、検査者は患者の肩甲骨を固定した状態から他動的に肩関節を外転させる
判定)肩に痛みがある場合やクリックサインを認めた場合に陽性
2.Hawkins impingement test
意義)肩峰下インピンジメントの判定
方法)患者は座位にて、肩関節を外転90度に保持し、検査者は他動的に患者の肩関節を内旋させる
判定)肩に痛みがある場合やクリックサインを認めた場合に陽性

※上記はいずれも**“肩峰下インピンジメントの兆候”**をみる検査で、腱板炎との厳密鑑別は困難です。

画像診断とテスト

  • 超音波(エコー): 滑液包の肥厚や血流増加、挙上時の「滑り込み」不全(動的評価)をリアルタイムで観察できます 。

  • MRI:T2強調像にて滑液包内の**高信号(液体貯留)**や肥厚を確認します。同時に腱板断裂の有無も精査可能です 。

  • サブアクロミアル注射テスト:肩峰下に局所麻酔薬を注入し、疼痛が著明に改善すれば、SABまたは肩峰下組織が痛みの原因であると裏付けられます 。


リハビリ(保存療法)の流れ

※基本的には腱板損傷に準じたアプローチを行い、力学的ストレスの軽減を図ります。

1) 痛みのコントロール・負荷再設計

  • 炎症期は、痛みが誘発される角度(60-120°)での反復動作を回避します。作業高さは肩より低い位置が推奨されます。

  • 睡眠時は患側を上にし、枕等で腕を支えて肘が下がらない(肩関節が伸展しない)ように、肩峰下圧を下げることが有効です。

2) 軟部組織の滑走性改善(リリース)

  • SABと棘上筋の癒着を剥がすような徒手操作を行い、組織の柔軟性を回復させます。

  • 肩甲下筋・烏口上腕靱帯周囲のリリースにて、肩関節外旋が出やすくすることで大結節との衝突を防ぎます。」

  • 小胸筋のストレッチや胸椎伸展可動域の改善を図り、肩甲骨が正しく動く(肩甲骨後傾)土台を作ります。

3) 関節モビライゼーション

  • 拘縮した関節包(特に後方・下方)を柔軟にし、上腕骨頭がスムーズに下方へ滑り込めるようにします。

4) 筋機能の再学習(フォースカップルの確立)

  • 腱板促通:挙上初期に上腕骨頭を関節窩に引きつける(求心位を保つ)機能を再学習させます 。

  • 三角筋“引き上げ”の過活動抑制:側臥位で棘上筋を優位に働かせた状態での肩関節外転運動(自動介助)を行います。

  • 肩甲骨の安定化: 前鋸筋や僧帽筋下部を活性化させ、挙上時の肩甲骨の「上方回旋・後傾」を助けます 。

5) 物理療法・注射の併用(状況に応じて)

  • 急性炎症にはステロイドやヒアルロン酸の注射が検討されます。

  • 慢性期で難治性の場合は、体外衝撃波(ESWT)が選択肢に入ることもあります。


手術

保存療法を3~6ヶ月続けても改善せず、日常生活に支障がある場合に検討されます。

鏡視下肩峰下除圧術(ASD): 内視鏡下で肥厚した滑液包の切除や、衝突の原因となる肩峰下の骨棘を削る(アクロミオプラスティ)手術です 。 腱板断裂が合併している場合は、腱板修復術が同時に行われるのが一般的です 。


よくある質問(Q&A)

Q1. 痛む角度だけ避ければ動かしていい?
A. はい。痛みの少ない範囲で“毎日動かす”ことが回復を早めます。完全安静は推奨されません。

Q2. 腱板炎とどう見分ける?
A. 症状は重なります。超音波やMRI、注射テストで総合判断します。現場では両者を想定して介入します。

Q3. どのくらいで良くなる?
A. 軽症なら数週、慢性化や併存病変があると数か月負荷設計+運動学習の遵守が近道です。

Q4. 注射はクセになる?
A. 適切な間隔・回数を守れば多くは安全です。反復し過ぎは腱質へ悪影響の可能性があるため医師の指示で。

Q5. 予防は?
A. 作業高さの調整、胸椎伸展・肩甲骨後傾の習慣化、外旋可動の維持、練習量の段階増加が有効です。


最終更新:2026-04-07