肩関節前方に起こる痛みの原因とリハビリテーションによる治療方法について解説していきます。
①筋膜性疼痛:DFAL
肩関節前方の痛みで最も多いのは、DFAL(ディープ・フロントアーム・ラインの筋膜性疼痛です。
この筋膜上に問題を起こしている場合は、小胸筋や上腕二頭筋に圧痛が認められ、重度の場合は母指にしびれを伴います。
小胸筋に過緊張が存在すると肩関節は前下方に偏位してしまい、肩関節の挙上制限やインピンジメント障害を起こすことにつながります。
筋膜性疼痛は受傷機転がないことが多く、疼痛は日によって波があり、長期にわたって有している場合が多いです。
治療方法としては、筋膜上に圧痛点や筋膜の滑りにくさが確認できるため、徒手圧迫を加えながら前後左右と斜めに動かしていきます。
マニピュレーションを実施して3〜4分ほど経つと筋膜の硬さがとれて滑りがよくなり、圧痛が半減することを確認できます。
そこで徒手圧迫を解除し、2日ほど筋肉痛(炎症)が起きることを伝えて治療は終了とします。
②烏口突起インピンジメント
烏口突起インピンジメントとは、肩関節を水平屈曲することで烏口突起と上腕骨が衝突し、肩関節前方に痛みが出現する状態です。
烏口突起インピンジメントが起こる主な原因は、肩関節後方組織の短縮によって、上腕骨頭が前方に偏位することです。
具体的には、三角筋後部線維や棘下筋、肩関節後方関節包があり、触診や動きから原因組織を特定していきます。
治療方法としては、原因が筋肉の場合はリラクゼーションとストレッチング、関節包の場合は関節モビライゼーションが有効です。
③上腕二頭筋長頭腱の損傷
上腕二頭筋の長頭腱は上腕骨の大結節と小結節の間にある結節間溝を通過し、肩甲骨の関節上結節および上方関節唇に付着しています。
長頭腱は小転子の上を滑車のようにして走行しているため、筋収縮する度に腱が擦れやすい構造となっています。
損傷する原因としては、若年者なら投球動作などのスポーツ障害、高齢者なら重いものを持ち上げる動作の反復で起こります。
上腕二頭筋は肘関節屈曲と前腕回外に作用するため、炎症が存在するとそれらの動きで痛みをきたします。
治療方法としては、組織の修復作業が完了するまでは筋への負担をなくし、安静を保つことが大切です。
前述した筋膜性疼痛(DFALの硬さ)が発生の原因になっている場合もあるため、柔軟性を獲得しておくことが重要です。
④石灰沈着性疼痛
石灰沈着性疼痛とは、腱にリン酸カルシウム結晶(石灰)が沈着して炎症を起こした状態をいいます。
肩関節では一般的に棘上筋腱や棘下筋腱といった腱板構成筋に発生しますが、稀に上腕二頭筋長頭腱にも生じることがあります。
その場合は肩関節前面の結節間溝に圧痛を認め、夜間痛などの強い痛みを生じることになります。
上腕二頭筋長頭腱の損傷よりも強い痛みを訴えるため、治療では局所へのステロイドホルモン注射が行われます。
激しい痛みが落ち着いてからは、前述した長頭腱の損傷と同様のリハビリプログラムを提供していきます。
⑤上方関節唇の損傷
上腕二頭筋の長頭腱が上方関節唇に付着していることは前述しましたが、強い遠心性収縮が加わることで関節唇が損傷します。
肩関節唇の遠位1/2には自由神経終末が存在するため、損傷することで痛みが起こる可能性があります。
よく見られるパターンとしては、肩関節の内旋や水平内転といった動きで関節唇が挟み込まれ、神経を刺激することにより痛みます。
治療方法としては、筋損傷と同様で組織の修復作業が完了するまでは関節唇への負担をなくし、安静を保つことが大切です。
ただし、肩関節唇の前上方は血流が乏しい部位であるため、難治性となりやすい傾向にあります。
肩関節後方関節包が拘縮している場合は、水平内転時に骨頭が後方へ移動できず、前方に変位して関節唇への圧迫を強めます。
また、肩甲下筋の筋出力が低下していると骨頭が関節窩に固定されず、大胸筋の作用で骨頭が前方に変位してしまいます。
これらの理由から、肩関節後方関節包の柔軟性と肩甲下筋の筋出力を向上させることがリハビリでは重要です。
⑥肩甲下筋の攣縮
肩甲下筋は上腕骨頭前面の小結節に付着しており、肩関節周囲炎などで過度な緊張(攣縮)をきたしやすい筋肉でもあります。
肩甲下筋に攣縮が存在すると、肩関節外旋時(肩甲下筋の伸張時)に肩関節前面に痛みが起こります。
治療方法としては、攣縮を取り除くために筋肉のリラクゼーションを図り、過度な緊張を取り除く必要があります。
ただし、肩甲下筋は肩甲骨の前面に付着しているため、施術者は筋肉の一部にしか触れることができません。
そのため、肩関節の内旋運動を軽い力で反復させることにより、筋収縮を利用したリラクゼーションが効果的となります。
⑦大胸筋炎
大胸筋は筋断面積が非常に広く、強力な筋肉であるため、日常生活において損傷する頻度はあまり多くありません。
大胸筋に痛みが起きるときは、過度なトレーニングなどで損傷している場合や、肩関節周囲炎などで攣縮が生じている場合です。
表層に位置する筋肉なので触診もしやすく、攣縮が認められる際はマッサージも容易に実施することができます。
治療方法としては、損傷の場合は組織の修復作業が完了するまでは筋への負担をなくし、安静を保つようにします。
損傷が治癒しているにも関わらず過緊張が残る場合は、リラクゼーションを図ることで痛みを緩和させていきます。