脳卒中のリハビリ治療

脳卒中の要点

脳卒中の部位別割合

  • 脳卒中は病型(梗塞/出血/くも膜下出血)と病巣で症状もリハ方針も大きく変わる。

  • 急性期から安全を担保しつつ早期離床・早期リハが原則(合併症予防とADL回復を促進)。

  • 回復期は装具+反復・目的志向型練習で歩行/上肢/ADLを集中的に。

  • 維持期は有酸素+筋力で活動性・QOLを保ち、再発予防を最優先。

  • バイタル基準と中止基準を明確化し、チームで包括的に進める。

脳卒中のリスク因子と再発・死亡率

  • 主なリスク因子:加齢(55歳以上で増加/超高齢では性差縮小)、低出生体重(<2,500g)、家族歴(肉親の既往で+約30%)、高血圧(≥140/90)、喫煙、糖尿病、脂質異常、心房細動(脳梗塞リスク4–5倍)など。

  • 再発:全体の約25%。5年で26%、10年で39%。発症から年数が経つと再発リスクは低下傾向。

  • 再発予防の基本:血圧コントロール(目安120/80mmHg以下)、禁煙、運動習慣、基礎疾患の管理。

  • 死亡率:30日死亡は全体12%(梗塞6%、出血16%、くも膜下28%)。5年生存は約65%。痴呆合併の有無で生存に差。

冠状断から見た脳動脈の位置と潅流領域(栄養部位)

1.冠状断から見た場合
脳動脈の還流領域
2.水平断から見た場合
脳動脈の潅流領域|水平断
3.矢状断から見た場合
脳矢状断②

脳出血の好発部位と主症状

脳出血の部位別割合
脳出血の図

被殻出血

対側の片麻痺や感覚障害、意識障害、失語症(優位半球)が出現する。被殻に栄養を供給するレンズ核線条体動脈の破裂によって起こる。

脳画像診断|被殻出血

視床出血

対側の片麻痺や感覚障害、意識障害、視床痛、不随意運動、失語症(優位半球)が出現する。

後視床穿通動脈および視床膝状体動脈の破裂によって起こる。脳室へ穿破すると正常圧水頭症、覚醒障害を起こすことがある。

脳画像診断|視床出血

皮質下出血

対側の片麻痺や感覚障害が出現する。出血部位で症状が大きく異なり、優位半球では失語症や失行、劣位半球では左半側空間無視や病態失認が起こる。

脳画像検査|大脳皮質下出血

小脳出血

頭痛、嘔吐、回転性めまい、運動失調、構語障害が出現する。脳幹の圧迫で急激な意識障害が起こる場合がある。

脳画像診断|小脳出血

脳幹(橋)出血

運動失調(四肢麻痺)、呼吸障害、複視、嚥下障害、血圧低下などが出現する。脳幹は呼吸・循環など生命維持活動の中枢であるため、生命の危険がある。

脳画像検査|脳幹出血

脳梗塞の好発部位と主症状

脳梗塞の図
脳梗塞の部位別割合

血栓性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)

脂質が動脈内膜に蓄積して狭窄を招き、進行して閉塞した状態。脳動脈の血流量が正常時の1/3以下になると神経症候が明らかとなる。

血圧が下がることで閉塞状況は悪化して重症化する。皮質や島回、放線冠など広範な梗塞に及ぶことが多い。

塞栓性脳梗塞(心原性脳塞栓症)

心臓や動脈に生じた血栓が遊離して脳血管に流入して突発的に閉塞した状態。血栓性脳梗塞と比較して死亡率や予後が不良となりやすい。

皮質や島回、放線冠など広範な梗塞に及ぶことが多い。

発症後2-14日以内に閉塞血管の自然再開通が約40%に認められるが、この現象が出血性脳梗塞などの原因となる。血栓性より安静期間を長くとり、徐々に座位を獲得していく。

多発性脳梗塞(ラクナ梗塞)

血栓性脳梗塞の一種で、15mm以下の小梗塞が複数存在している状態。大脳基底核、視床、内包、放線冠、橋などの穿通枝領域に生じる。

脳血管性認知症や排尿障害、歩行障害、嚥下障害を伴うことが多い。比較的に状態が良好である場合が多く、階段状にゆっくりと進行していく。

脳卒中,種類,脳梗塞,ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,脳出血,くも膜下出血

引用画像(1)

くも膜下出血

原因として最も頻度が高いのが脳動脈瘤の破裂で75%を占める。脳動脈瘤破裂の好発年齢は40-60歳、脳動静脈奇形は20-40歳となる。

日本ではやや女性に多く、近年は増加傾向にある。死亡につながる可能性も高いが、救命がかなった場合では予後良好な症例が多い。

くも膜下出血の図
脳画像検査|くも膜下出血

一過性脳虚血発作(TIA)

24時間以内に症状が完全に消失する一過性の血流障害。症状は突発性で2-15分ほど続いて回復するケースが多い。

症状は、一過性黒内障、構音障害、片麻痺症状、同名半盲、感覚障害、失語、平衡障害、複視、回転性めまい、嚥下障害などが出現しやすい。

脳梗塞、脊髄梗塞、網膜虚血症を発症する危険性が極めて高い状態である。

一過性脳虚血発作

急性期リハ(おおむね発症~約1週間)

目的:廃用予防・合併症予防・早期ADL回復
コア介入

  • ポジショニング/体位変換:褥瘡、肺炎、拘縮、浮腫、肩痛の予防。

  • 呼吸管理:早期離床、必要時の呼気介助。

  • ベッドアップ段階付け:30°→60°→端座位→車椅子。各段階20–30分以上耐久を確認。

  • 関節可動域運動(ROM):痛みなし・可動域の50–70%で愛護的に。肩は肩甲帯~体幹経由で管理。

  • 早期離床・基本動作:坐位保持→立ち上がり反復(100–200回/日)→歩行の素地作り。

  • 併行して:神経筋再教育、非麻痺側筋トレ、ADL、嚥下、必要に応じ高次脳機能。

急性期の医療処置(概念)

  • 発症数時間以内(施設プロトコルに従う)のアルテプラーゼ静注、奏効しない場合は機械的血栓回収の適応評価。

  • 1週間は再発・病巣拡大・合併症の徹底予防。リハ開始条件は神経症状の進行がないこと(内頚動脈系24h/椎骨脳底動脈系72h目安)。

エビデンス抜粋

  • A:可能な限り早期・集中的リハ、下肢訓練量の確保、頻度増は歩行能力改善に有効。

  • B:急性期合併症(高血糖・DVT・誤嚥・褥瘡など)に注意。回復期病棟での継続リハを推奨。

  • C:各種ファシリテーションは「やってよいが優越の根拠は乏しい」。三角巾/スリングは亜脱臼予防として考慮可。経口困難なら7日以内の経管栄養を検討。

実施・中止の目安(例)

  • 実施中の脈拍≤120/分、血圧≤250/115mmHg、強度≈5METs程度を目安。

  • 中止:胸痛/強い息切れ、SpO₂低下、神経症状の新規出現・増悪、著明な血圧変動、不整脈、強い頭痛や悪心など。


回復期リハ(約9–12週):歩行・上肢・ADLの集中的回復

よく使うメニュー

  • 装具:膝支持性低下や屈曲パターン強→LLB。内反尖足主体→SLB

  • 膝立ち~膝歩き:股関節支持性・姿勢矯正に有効(装具待機中も可能)。

  • ROM/ストレッチ/マッサージ:痙縮と拘縮の二次障害予防。

  • 歩行練習:装具装着後は麻痺側荷重を集中的に。台踏みで健側挙上→患側下肢伸展を促通。

  • エアロバイク:下肢の緊張低減・振り出し改善に有効(20–30分)。

  • 物理療法:手関節背屈筋の筋トレ補助に電気刺激、痙縮に高頻度TENS、肩の亜脱臼・ROMにFES(持続効果は限定的)。

上肢リハの要点

  • A:目的志向型・反復のリーチ、両上肢協調(メトロノーム利用)、イメージ訓練を積極的に。

  • B:軽症では**強制使用療法(CIMT)**を適応選択して実施可。

  • C:ファシリテーションは優越根拠乏しい。尖足が強ければ腱移行術や伸長装具/FES装具を検討可。

回復の見通し(抜粋)

  • 回復期入棟時のADLレベルで「起き上がり・移乗・病棟歩行」の自立到達日数が推定可。

  • ADLのプラトー到達は軽症ほど早く、概ね80%到達は~6週、95%は~12.5週


維持期(慢性期):生活に根差した改善と再発予防

推奨

  • A:有酸素運動±下肢筋力強化で、体力・歩行・活動性・QOL・耐糖能の改善。

  • B:訪問/外来/地域リハの活用で退院後の機能低下を防ぐ。骨量維持のため荷重立位や歩行を継続。

  • C:間欠入院リハは状況により考慮。

  • ポイント:漫然と続けず、目的=社会参加/自立度の向上を明確に。就労希望は職リハも検討。


麻痺側上肢は「使うほど良い」

  • 反復運動や全身活動は痙縮を悪化させない。むしろ緊張を下げる所見が多い(上肢エルゴ10分や歩行30分など)。

  • 生活環境を調整し、麻痺側を使わざるをえない状況設定を行う(安全最優先)。


介護者プログラムの導入時期

  • 介護者教育は負担軽減や抑うつ低減に有用だが、入院超早期からの導入は費用対効果が乏しい報告も。

  • 具体的な退院時期が見えた段階で実践的な指導を集中実施するのが現実的。


よくある質問(Q&A)

Q. リハはいつ始める?
A. 医師が神経症状の進行停止を確認でき次第、超早期から開始します(施設基準に従う)。

Q. 装具は必須?
A. 膝支持性低下や尖足が歩行獲得のボトルネックなら早期に装具を。タイプは症状で選択(LLB/SLB)。

Q. 上肢の回復が止まった気がする…
A. 目的志向型の課題(物を取る/置く/操作する等)と反復量の確保が鍵。CIMTは適応を選んで短期集中で。

Q. 痙縮が強い時は?
A. ストレッチ・ROM・姿勢調整が基本。必要に応じTENS/FES、装具、ボツリヌス治療や整形外科的介入をチームで検討。

Q. 再発予防の運動は?
A.3–5回20–60分の有酸素(歩行/自転車/水中)+下肢筋力強化安全基準内で継続。

Q. いつ歩行に移る?
A. 端座位・立位の耐久がつき、血圧や症状が安定、必要装具が整い次第段階的に歩行へ。

Q. 家族は何を準備?
A. 転倒・誤嚥対策の環境整備(手すり、段差、食姿勢)、通院/介護サービス導線、退院前カンファで具体策の合意形成を。


最終更新:2025-09-10