鼡径部の痛みで来院された60歳代の女性において、腰部の問題が原因になっているケースを経験したので報告します。
具体的になにが問題かというと、腰椎の屈曲が乏しいために、隣接関節である股関節が過剰に屈曲している状態にありました。
関節の痛みを考えていくうえで、「不安定な関節が痛みを起こす」ということが臨床的には非常に重要な部分になります。
不安定な関節というのは、関節に拘縮や緩みが発生することにより、正常な関節運動から逸脱することで起こります。
逸脱した骨頭は周辺組織の挟み込み(インピンジメント)を起こし、激しく鋭い痛みを訴えます。
基本的に股関節は後方組織が短縮しやすいため、骨頭が前方偏位する不安定性が生じ、前方組織にインピンジメントを起こします。
股関節の前方組織で重要なのは腸腰筋であり、後方組織は股関節の深層外旋六筋や関節包の硬さが発生しやすい傾向にあります。
たとえ拘縮が軽度の場合でも、可動性を大きく求められるような状態にあると、結果的に偏位が生じて痛みを発生することになります。
冒頭で書いたように、今回のケースでは腰椎の屈曲可動性が低下しており、股関節が過剰に屈曲して代償している状態にありました。
そのため、股関節の負担を減らすためには腰椎にアプローチすることが重要であり、屈曲が出現するように調整することが必要です。
話を詳しく聞いてみると、4〜5年ほど前から腰痛は存在しており、慢性的に腰のだるさを感じている状態にあることがわかりました。
腰椎の屈曲が出ない最大の原因は多裂筋の拘縮であり、そこを緩めて伸ばすことで屈曲域を引き出すことができます。
方法としては、側臥位にて両股関節を軽く屈曲させ、脊柱起立筋の深層に存在する多裂筋を押圧してマッサージしていきます。
その後に拘縮している椎間関節を引き離すように牽引操作を加え、最後は腰椎の屈曲を引き出すようにストレッチングします。
ちなみに腰椎の屈曲が出ているかどうかは、立位前屈ですぐわかりますので、股関節前方の痛みがある場合はぜひチェックしてみてください。