腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ治療

腰椎椎間板ヘルニア(lumbar disc herniation:LDH)のリハビリ治療に関して、わかりやすく解説していきます。

腰椎椎間板ヘルニアの概要

LDHは椎間板の髄核や線維輪が後方に膨隆または脱出することにより、神経根や馬尾を圧迫し、神経症状を引き起こす疾患です。

人口の約1%が罹患するといわれ、手術患者は人口10万人あたり年間46.3人、好発年齢は20-40歳代で、男女比は2:1で男性に多いです。

椎間板ヘルニアが後方に起こる理由として、前方は幅広く前縦靭帯に覆われていること、椎間板は後方のほうが構造的に弱いことが挙げられます。

椎間板ヘルニアの患者では、MRIで以下のような画像所見となります。

 矢状面からみた画像 水平面からみた画像 
椎間板ヘルニア|矢状面図 椎間板ヘルニア|水平断面図

脊椎(椎間板)の構造

椎間板(椎間円板)

脊椎には椎間板と呼ばれるクッションのようなものがあり、背骨にかかる荷重を分散する役割を持っています。

その椎間板が退行性変化にて膨隆することにより、後方に位置する硬膜(馬尾)や神経根を圧迫して様々な症状を引き起こします。

ちなみにL2の高さで脊髄は終了し、馬尾(硬膜に包まれた神経根の束)へと移行します。

脊髄は中枢神経であるため、障害されると中枢性麻痺が起こりますが、馬尾は末梢神経なので障害されると末梢性麻痺が起こります。

中枢性麻痺 末梢性麻痺
筋緊張
深部反射
病的反射
筋萎縮
筋線維束攣縮

馬尾は硬膜内に存在しており、健常者では、その配置は規則正しく並んでいることがわかっています。

前方の外側から順に上位の神経根が位置しており、後方の内側にいくに従って下位の神経根が位置します。

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腰椎椎間板ヘルニアの原因

椎間板内圧②

LDHの原因としては、椎間内圧の高まりにより、椎体内に位置する椎間板が潰れて髄核が後方に飛び出してくることで起こります。

そのため、中腰姿勢での作業や不良姿勢でのデスクワークなど、椎間内圧を高める姿勢は避けることが大切です。

椎間板が最も潰れやすい不良姿勢がフラットバックであり、骨盤が後傾かつ後方変位しており、腰椎が屈曲しやすい状態にあります。

また、脊椎が平坦化しているので彎曲によるクッション作用が消失しており、椎間板症や椎間板ヘルニアを誘発しやすくなっています。

腰椎屈曲の姿勢を持続的に行うスポーツや仕事などでは、姿勢を修正するためのトレーニングが必要となります。

好発部位

椎間板ヘルニアは腰椎の4番目と5番目の間(L4/L5)、腰椎の5番目と仙骨の間(L5/S1)に発生しやすく、両者で全体の95%を占めます。

一般的にL4/5間のヘルニアでは、下位のL5の神経根が圧迫されますが、外側ヘルニアの場合は上位の神経根(L4)が圧迫を受けます。

椎間板ヘルニア,部位,割合

健常者においても椎間板の変性を認める場合は多く、調査では平均年齢40歳で約4割に無痛性の椎間板ヘルニアを認めたとの報告があります。

また、線維輪断裂や椎間板膨隆はさらに多くの人でみられ、脊髄変形に関しても約3割に認められるといったことがわかっています。

この結果からも、LDHが極めて一般的な所見であることが明らかになっており、画像所見だけで障害を判定するのは困難としています。

椎間板ヘルニアの割合2

椎間板ヘルニアの神経根症状

腰椎椎間板ヘルニアは、L4/5間(L5神経根障害)とL5/S1間(S1神経根障害)の発生が圧倒的に多いです。

そのため、以下にその代表的な症状をまとめます。

  L4神経根 L5神経根 S1神経根
腱反射 膝蓋腱反射↓ 膝蓋腱反射→ 膝蓋腱反射→
アキレス腱反射→ アキレス腱反射→ アキレス腱反射↓
筋力低下 足部背屈 足趾背屈 足部底屈
感覚障害 大腿前面から下腿内側 下腿外側から前足部 足底から下肢後面

分類①:傍正中ヘルニア

傍正中ヘルニア2

最も多い腰椎椎間板ヘルニアのタイプで全体の約8割を占めています。

椎間板の後方は後縦靭帯によって保護されているので、真後ろに髄核が飛び出すことは少なく、ほとんどはその傍から飛び出すことになります。

その状態を傍正中型ヘルニアと呼んでおり、方向的には斜め後方に飛び出した状態で、L5/S1レベルではS1の神経根を圧迫します。

外側型ヘルニアのように椎間関節部分で挟み込まれることはなく、後方にスペースが残っているために強い圧迫を受けることはありません。

そのため、疼痛は自制内である場合が多く、椎間板内圧を高める姿勢を継続することで症状が悪化していきます。

分類②:正中ヘルニア

正中ヘルニア2

二番目に多い腰椎椎間板ヘルニアのタイプで全体の2割弱を占めています。

椎間板の後方は後縦靭帯によって保護されていますが、膨隆した椎間板によって後縦靭帯ごと後方へ押し出された状態になります。

そうすると後方に位置する硬膜を前方から圧迫するような力が加わり、脊柱管が狭窄している場合は馬尾障害をきたすこともあります。

正中型ヘルニアは髄核よりも線維輪の膨隆が原因であるため、他のヘルニアと比較して吸収されづらく、治りにくい傾向にあります。

そのため、すでに膀胱直腸障害などの馬尾障害が発生しているケースでは、早期の手術が必要となります。

後縦靭帯を突き破って髄核が外(脊柱管)に飛び出してしまった状態を穿破脱出型ヘルニアとも呼びます。

穿破したあとはこれまで圧迫を受けていた硬膜が解放されるために、それまでの重苦しい痛みが一気になくなります。

また、飛び出した髄核は吸収されやすいため、その後は症状が緩解するケースが多いといわれています。

ただし、飛び出したヘルニアが脊柱管内に詰まってしまうこともあり、その場合は詰まった場所より下位の神経はすべて麻痺するため、脊髄損傷に類似した症状をきたします。

ヘルニアの症状を繰り返し、椎間板に負担のかかるような力仕事をしている場合に発生しやすいと考えられます。

分類③:椎間孔内外側ヘルニア

椎間孔内外側ヘルニア2

発生頻度としては少数ですが、最も症状が強いタイプのヘルニアです。

外側型ヘルニアは神経が最も強く絞扼されるために、神経に炎症が起きやすく、そこに刺激が加わることで激痛を訴えるのが特徴です。

通常、神経を圧迫されて起こるのは感覚障害や筋力低下ですが、神経に炎症が起きている場合は痛みが起きることがわかっています。

L5/S1レベルの椎間板ヘルニアにおいて、傍正中型はS1の神経根が障害されるのに対して、外側型はL5の神経根が障害されます。

外側型ヘルニアは髄核が飛び出しているために吸収されやすく、症状がおさまりやすい型ではありますが、激痛のために手術を希望する患者が多いです。

神経根を強く圧迫しているため、神経支配領域に限局した知覚障害や筋力低下などが起こります。

分類④:椎間孔外外側ヘルニア

椎間孔外外側ヘルニア2

発生頻度としては少数であり、椎間孔内外側ヘルニアと比較して症状が乏しいタイプのヘルニアです。

椎間孔で強く絞扼されることがないため、神経は後方に逃げることができ、あまり強い神経症状はきたしません。

L5/S1レベルの椎間板ヘルニアにおいては、L5神経に障害が現れます。

分類⑤:椎体内型ヘルニア(シュモール結節)

一般的に椎間板ヘルニアは後方に突出しますが、稀に椎体内に飛び出していくことがあり、それをシュモール結節と呼びます。

椎体と椎間板の間には軟骨終板が存在していますが、その軟骨終板に亀裂が入り、椎間板内の成分が椎体内に漏れ出すことで起こります。

痛みの性質は椎間板障害にちかく、主症状は腰痛であり、硬膜や神経根を圧迫してはいないので神経症状はありません。

椎間板内圧を高める姿勢で腰痛は悪化し、長時間の座位が困難となるといった訴えが聞かれます。

シュモール結節MRI画像

MRI画像では素人が見てもはっきりと問題部位がわかりますが、単純X線画像では特定が難しい場合も多いです。

ただし、しっかりと見ていくとレントゲンでも椎体が削れてることが微かにわかりますので、見落とさないように注意が必要です。

シュモール結節単純X線画像

ヘルニアが自然治癒する過程

腰椎椎間板ヘルニアが自然治癒することはよく知られていますが、飛び出した髄核などが自然縮小する機序はいまだ明らかにされていません。

しかし、ヘルニア塊の辺縁に新生血管を伴う肉芽組織の形成とマクロファージを主とした炎症反応が起こることから、吸収には貪食作用が関与していると考えられています。

線維輪や軟骨終板よりも髄核に強い吸収反応は起こりやすく、線維輪から脱出した髄核は約3ヶ月ほどで消失するといわれています。

手術の適応と効果

保存的治療が奏功せずに3ヶ月以上症状が継続する場合や、馬尾障害が認められる場合は観血的治療(手術)の適応となります。

手術に至る症例は全体の10-30%で、再発率は術後10年で3-8%とされており、最適な椎間板切除量などについては一致した見解はみられません。

保存的治療と観血的治療の予後を比較すると、短期的な臨床成績は観血的治療が優れていますが、長期成績や復職率には大差がないようです。

ヘルニアで腰痛は起こるのか

ここまで読んでくれたのなら理解もしやすいかと思いますが、重要なのはヘルニアがどの組織を圧迫しているかです。

神経根のみを圧迫しているなら基本的に腰痛は起こらず、下肢の知覚障害や筋力低下などの神経症状が主となります。

しかし、神経根に炎症が生じている場合は腰部に激痛を訴えることもあり、体幹を屈曲・側屈(健側)させて歩きます。

椎間板症で痛みが生じている場合は、脊椎洞神経の支配を受けているため、腰の中心に痛みを訴えることになります。

椎間板の支配神経|脊椎洞神経

リハビリテーション

フラットバックやロードシスなどの不良姿勢は、腰椎屈曲モビリティが高いために椎間板ヘルニアをきたしやすい状態にあります。

簡単な検査として、座位で片脚ずつ膝関節の伸展運動(または股関節の屈曲運動)をしてもらうと、腰椎から屈曲しようとする傾向のヒトがいます。

腰椎の前弯を保つことができず、常に腰椎から動こうとするため、椎間板への負担が非常に高くなってしまいます。

それは結果的に椎間板症や椎間板ヘルニアを引き起こしやすくなるので、普段の動き方を修正するうえでも重要な所見となります。

普段の生活で腰椎の生理的前弯(伸展位)を保つように意識し、前述した膝関節の伸展運動なども姿勢を保持してできるように練習していきます。

腰椎の前弯を作るうえで脊椎伸展運動(マッケンジー体操)も効果的で、椎間板症のあるレベルの椎間関節をたわませるように伸展します。

立位姿勢では踵に体重が乗りやすいため、足底のやや前方に荷重をかけ、腰椎を伸展させるように意識してもらいます。

マッケンジー体操の方法

①うつ伏せになり、深呼吸をして完全に力を抜き、2-3分間この姿勢のままでいます。
脊椎伸展①
②両肘が肩の下に来るようにして、前腕で上半身を支える姿勢をとります。この姿勢をとったら深呼吸をして完全に力を抜き、2-3分間この姿勢のままでいます。
脊椎伸展②
③両手を肩の下に置き、手は腕立て伏せをするときの位置に置きます。両肘を伸ばしながら上半身を持ち上げていきます。この姿勢を1-2秒保持してから最初の姿勢に戻ります。
脊椎伸展③
④両腕をまっすぐに伸ばすことができたら、腰がたわんだ状態を確認しながら1-2秒保持します。これらの運動を10回1セット、1日6-8セットで実施していきます。
脊椎伸展④

マッケンジー体操(脊椎伸展運動)は即時的な効果を認める文献は多くありますが、長期的な効果を認める文献はほとんどありません。

しかし、内容が簡単でひとりでも取り組めるため、ホームエクササイズとしては非常に有効な手段です。

椎間板ヘルニアが改善(吸収)されるまでの間、在宅での疼痛コントロールの手段として活用することができます。

椎間孔内で神経絞扼している場合は、椎間関節が伸展することで椎間孔が狭窄し、痛みやしびれが増悪する可能性もあります。

そのため、脊椎伸展運動は症状が増悪しない範囲で行うようにしてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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