腸脛靭帯炎(ランナー膝)のリハビリ治療

腸脛靱帯(ITB)の概要

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  • 正体:大腿筋膜の肥厚部(厳密には靱帯ではなく筋膜)。

  • 連結筋:大殿筋/中殿筋(表層束)/大腿筋膜張筋(TFL)。

  • 遠位付着:7本前後の線維束に分岐し、膝蓋骨周囲〜ガーディ結節へ広く付着(表層=前方線維/中間層/深層=後方線維)。

層ごとの要点

  • 表層線維(前方):膝蓋骨外側・近位外側へ牽引 → 膝蓋骨外側偏位やPF痛を助長。

  • 中間層:外側上顆前方を走行。45–90°屈曲で緊張(深屈曲でやや弛緩)。Oberテストは主にここを評価。

  • 深層線維:外側上顆後方を走行。伸展位で緊張、屈曲で弛緩。背臥位で股軽屈曲・外旋+膝伸展のまま股内転で緊張評価。


病態生理:圧縮と張力の2モデル

  • 圧縮モデル(多数派):立脚中期(膝屈曲20–30°)でITB深部の脂肪層が外側上顆に圧縮
    典型フォーム:骨盤ドロップ+股内転/内旋+膝外反(ニーイン)、オーバーストライド。

  • 張力モデル(少数派だが重要)内反モーメント増大や片斜面走行でITB張力↑→外側痛。
    典型シーン:下り坂・路肩(カンバー)・回外寄り接地の多用。

実務では「外反(ニーイン)で圧縮内反で張力」と覚えて所見に応じて処方。


よくある訴え(臨床像)

  • 走行距離の増加・下り坂・スピード練習で増悪

  • 押さえると外側上顆近位の圧痛

  • 走っているときは痛いが、安静時痛は軽いことが多い


鑑別とテスト

  • グラスピング(Noble変法):外側上顆近位を圧迫しつつ屈伸。約30°屈曲付近で痛みなら陽性。

  • Oberテスト:ITB中間層のタイトネス指標。

  • 鑑別:外側半月板障害、LCL損傷、膝蓋大腿関節痛、ITB遠位付着部炎 など。

  • 画像:必要に応じてエコー(脂肪層肥厚・血流)/MRI

  • 慢性の所見:脛骨粗面外側の牽引骨化がみられることも。


原因(メカニクスとフォーム)

  • ITBのタイトネス(中間層/深層)

  • 脂肪滑走層の拘縮・線維化

  • 外転モーメント↑を招く走り

    • 骨盤外方位/対側下制(骨盤ドロップ)/COM外側偏位

    • 股内転位荷重、接地が体幹の外側、歩幅過大(オーバーストライド)

    • 下り坂・片斜面の走り込み


動画で見る評価ポイント(30秒チェック)

  1. 正面:接地時、**膝中心が母趾より内側(=外反)**に入っていないか。骨盤が沈んでいないか。

  2. 側面:足が重心より前で着いていないか(オーバーストライド)。

  3. 路面:いつも**片斜面(路肩)**ばかり走っていないか。

  4. シューズかかと外側の偏摩耗・過度な硬さ。


リハビリの考え方(段階別)

フェーズ0:痛みが強い(急性〜亜急性)

  • 相対的安静+局所冷却。外側上顆直上の強圧は避ける。

  • 痛みの出ない範囲のROM

  • 等尺性から開始:大殿筋/中殿筋/TFL(軽い出力、痛み0–3/10)。

  • 足部過回内が強ければインソール検討。

フェーズ1:原因修正(痛み小〜中)

A. フォーム再教育(その場のキュー)

  • 膝はつま先の真上」「足幅=こぶし1個(線路走り)」

  • 接地は腰の真下」「接地音は静かに」

  • **ケイデンス+5–10%**でオーバーストライド抑制

  • 下り坂・片斜面は一時回避

B. 筋機能リトレーニング

  • 中殿筋・大殿筋:サイドブリッジ/クラム/ヒップヒンジ/モンスターウォーク

  • 骨盤水平保持:ヒップヒッチ(片脚支持で遊脚側を1–2cm上下)

  • 体幹側方安定:サイドプランク系

C. 軟部組織アプローチ(痛み0–3/10)

  • 脂肪層:外側上顆直上の“挟まれる層”を軽圧で縦横へ(強圧摩擦は悪化因子)

  • ITB中間層:側臥位で股外転+膝屈曲で短縮→3秒等尺(PIR様)→股内転でゆっくり伸張

  • ITB深層:背臥位、患側膝伸展・股軽屈外旋→外転方向に軽い等尺→求心性で可動域拡大

  • 周辺組織:TFL/外側広筋/ITB遠位部は丁寧に

フェーズ2:ラン復帰と再発予防

  • 痛み0–2/10&翌日持ち越しなしウォーク→ジョグ→ビルドアップ

  • 片脚スクワット10回で膝トラッキング良好を目安にスピード・距離を漸増

  • 週の距離は前週比+10%以内。まずは平地、次に短い坂上り、最後にビルドアップの順


週3回・8分で回せる“核ドリル”

  • ヒップヒッチ:左右10–12回×2

  • モンスターウォーク(バンド膝上):左右各5歩×3往復

  • メトロノームラン:いつものペースでケイデンス**+5–7%**で1km(静かな接地)

  • 大殿筋ヒンジ:10回×2(腰椎過伸展に注意)


セルフケア

  • ラン後10–15分のアイシング(外側上顆周囲)

  • フォームローラー:ITBそのものを強圧で“ゴリ押し”しない。外側広筋/TFL/大殿筋をメインに。

  • シューズ:接地が硬すぎる・偏摩耗が強いならミッドソフト寄りへ更新。


よくある質問(Q&A)

Q1. 走ってもいい?
A. 痛み0–2/10で翌日に残らなければ可。超えるなら**クロストレーニング(バイク/水中)**へ。

Q2. ストレッチだけで治る?
A. 一時軽快はあるが、フォーム(外転モーメント)の是正と殿筋強化なしでは再発しやすい。

Q3. 注射は?
A. 炎症が強い場合、滑膜/脂肪層へのステロイドが効くことも。運動療法と併用が前提。

Q4. 受診の目安は?
A. 2–4週で改善乏しい/安静時痛・夜間痛・腫脹/他の外側膝病変が疑わしいときは整形外科へ。


まとめ

  • ランナー膝の痛源は**ITB深部の滑走層(脂肪層)**が多い。

  • **外反(圧縮)でも内反(張力)**でも痛みは出るが、実地では外反パターンが多数派

  • 介入はフォームの即時修正+殿筋強化+滑走層ケアを核に、段階的復帰で再発を防ぐ。