腸骨筋(iliacus)

腸骨筋の概要

腸骨筋の起始停止

腸骨筋は股関節屈曲の主力で、腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)を構成する一筋。腸骨窩から起こり、大腰筋腱と合流して小転子〜その遠位に停止する。骨盤縁で**“折れて滑る”(滑車様に走行が変わる)ため、股関節屈曲トルクを効率よく発揮できる。主作用は股関節屈曲**、肢位により軽い外旋を助ける。

基本データ

項目 内容
支配神経 **大腿神経(L2–L3)**を主とし、腰神経叢枝が混在することあり
髄節 L2-4
起始 腸骨窩、腸骨翼内面(+内側は前仙腸靭帯・腸骨稜内唇に連続)
停止 大腿骨小転子〜小転子遠位の骨皮質(大腰筋腱と合流)
栄養血管 内側大腿回旋動脈、腸腰動脈の腸骨枝
動作 股関節屈曲軽い外旋(肢位依存)
筋体積 234
筋線維長 10.0
速筋:遅筋(%) 50.050.0

触診・評価(MMTのコツ)

  • 体位座位または仰臥位股関節屈曲を誘導。

  • 触診ポイント大腿直筋内側というより“鼡径部外側(縫工筋の内側)”の深部腸腰筋腱の緊張を拾うイメージ。

  • 抵抗股関節屈曲90°前後大腿遠位前面下方へ押し戻す。

  • 代償体幹前傾や骨盤後傾膝関節の持ち上げでごまかしやすい→骨盤・体幹を固定して股関節から動かす。

ストレッチ方法

  • Thomas位(ベッド端垂らし)

    • 非ストレッチ側膝を抱え骨盤を後傾、ストレッチ側大腿を自然落下股関節伸展で腸腰筋を伸張。

    • 腰椎前弯を増やさない腹圧=軽いポスターリアティルド)のがコツ。

  • ハーフニー(片膝立ち)

    • 後脚(ストレッチ側)で骨盤後傾+体幹軽前傾股関節伸展

    • 必要に応じてわずかな内転+外旋を加え腸骨筋寄りにテンションを合わせる。
      ※痛みが出る角度は回避反動は不可

筋力トレーニング

  • シーテッド・ヒップフレクション:椅子で骨盤中立大腿を胸へ腰椎前弯の過増に注意。

  • スタンディング・マーチ(バンド)骨盤水平を保ち、80–100°屈曲域で等尺→等張。

  • SLR(仰臥位)骨盤後傾+腹圧腰椎固定し、振り上げずにコントロール

  • NG:体幹反り/骨盤すくい上げ。→腹圧と呼気でコア連携。

トリガーポイントと関連痛領域

  • 主訴:みぞおち〜臍よりやや外側の深部の刺すような腰腹部痛で、同側腰背部・鼠径部・大腿前面に抜けるような重だるさを伴うことがある。

  • 誘因:長時間の座位や前屈み作業、股関節屈曲位での睡眠・車移動、過度な腹筋/脚上げトレで大腰筋が短縮したとき。

歩行時の筋活動

  • 遊脚初期(ISw)で股関節屈曲の立ち上げに寄与。

  • **立脚終期(TSt)**の“引き戻し”後、下肢の振り出し方向づけに大腰筋と協調。

関連する臨床像・疾患

  • 股関節屈曲拘縮変形性股関節症の二次的防御収縮

  • 慢性腰痛腸腰筋短縮→骨盤前傾/腰椎前弯の増加が疼痛を増悪し得る)

  • 腸腰筋膿瘍(化膿性腸腰筋炎):発熱・疼痛・可動域制限→医療機関へ

  • 脊柱管狭窄症:腰椎前弯の増強が症状に影響し得るが、成因は多因子腸腰筋短縮改善で症状が軽減するケースはある(保存療法の選択肢)。


Q&A

Q1:腸骨筋と大腰筋、どちらを優先して鍛える?
A:機能単位(腸腰筋)として協調が大切。骨盤中立・腹圧を整え、股関節からの屈曲を学習する。

Q2:ストレッチが腰に響く
A:骨盤後傾と腹圧が不足。肋骨を下げる呼気を先に入れてから伸ばすと腰椎伸展を抑えられる。

Q3:股前面が詰まる感じがある
A:前方インピンジ腸腰筋腱の摩擦の可能性。可動域を減らし痛みのない範囲で実施し、股関節内外旋の調整を加える。

Q4:どの角度で最も効く?
A:80–100°屈曲域で腸腰筋の寄与が高まりやすい。反復は低振幅でコントロールを最優先。

Q5:触診が難しい
A:鼡径靭帯直下・縫工筋内側の深部で腱緊張の変化を探す。**表層筋(TFL・大腿直筋)**の活動を落としてから行う。


最終更新:2025-10-07