脊柱管狭窄症による馬尾障害を軸として、膀胱障害の発生機序と関与する支配神経と筋肉について解説していきます。
膀胱障害について
脊柱管狭窄症などが原因で馬尾障害をきたしている症例では、膀胱の知覚や排尿筋の収縮を支配している骨盤神経や陰部神経に障害が出現します。
馬尾障害による膀胱障害の訴え方は様々であり、排尿障害を訴える症例もいれば、蓄尿障害を訴える症例もいます。
また、自覚的な膀胱障害と他覚的な膀胱障害が異なる場合もあるため、他覚的な膀胱機能の評価(膀胱鏡や膀胱内圧測定など)を行う必要があります。
排尿や蓄尿に関わる筋肉と支配神経
膀胱と尿道は、骨盤神経(S2-4)や下腹神経(Th10-L2)、陰部神経(S2-4)によって支配されています。
筋肉 | 支配神経 | 備考 |
排尿筋 | 骨盤神経 | 膀胱を収縮させて排尿を助ける不随意筋。尿がある容量に達すると反射性収縮を行う |
内尿道括約筋 | 下腹神経 | 別名:膀胱括約筋。平滑筋で蓄尿に働いている |
外尿道括約筋 | 陰部神経 | 尿道を絞扼する陰部神経支配の随意筋。蓄尿と排尿に働いている |
これらの神経により膀胱にある排尿筋や尿道にある尿道括約筋と尿道周囲筋とが協調し合って働くことにより、蓄尿と排尿が支障なく行われます。
尿が膀胱内に充満した際の刺激は、骨盤神経と下腹神経の求心路を通り大脳皮質に伝達されます。
その後、橋の排尿中枢と仙髄の排尿中枢を通過して、骨盤神経を介して排尿筋の収縮を促すように働きます。
脊柱管狭窄症による膀胱障害の発生機序
脊柱管狭窄症では、主に馬尾障害によって膀胱障害が出現します。そのため、仙髄にある排尿中枢の障害に加えて、骨盤神経や陰部神経が障害されます。
これらの障害は、膀胱の知覚と排尿筋の収縮を障害を引き起こすため、脊柱管狭窄症による膀胱障害は、基本的には排尿障害が主訴になります。
しかし実際は、膀胱の知覚障害に加えて、一部の蓄尿に関わる筋肉も障害されるため、蓄尿障害を訴えるケースも存在します。
調査によると、脊柱管狭窄症による膀胱障害の割合は、残尿感や排尿困難といった排尿障害が50%、歩行時の催尿感や頻尿といった蓄尿障害が20%、症状なしが30%だったと報告されています。
手術で膀胱障害は改善するか
いくつかの研究によると、脊柱管狭窄症に伴う膀胱機能障害は、手術により70-75%の症例で改善することが報告されています。
ただし、こちらも自覚的な改善と他覚的な改善が異なる場合があるため、必ずしも満足した結果が得られるとは限りません。
馬尾神経の圧迫を取り除いているにも関わらず、膀胱障害が改善しない理由として、神経そのものに不可逆的な変化が起きていることが推察されます。
とくに感覚神経は運動神経よりも圧迫による障害を受けやすいので、自覚的な改善が感じられにくいといった弊害もあるのかもしれません。
脊柱管狭窄症によって膀胱障害が出現している場合は、基本的に自然治癒はありませんので、早期の手術を検討するようにしてください。