膝関節前面の痛みの原因とリハビリ治療

膝関節前面に起こる痛みの原因とリハビリテーションによる治療方法について解説していきます。

①膝蓋下脂肪体の損傷

膝蓋下脂肪体炎

膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の下方に貯留している組織で、膝蓋大腿関節(膝蓋骨と大腿骨の間)の滑りを良くし、クッションとしての役割を持ちます。

膝蓋下脂肪体は、膝関節伸展時には前方(膝蓋靭帯側)に押し出され、屈曲時には上方の膝蓋骨後方に滑り込んでいきます。

膝蓋下脂肪体が損傷する原因としては、膝関節の変形や下肢のアライメントが崩れることで、脂肪体の滑りが悪くなることによる影響が大きいです。

具体的には、内反変形(O脚)や下腿外旋症候群(脛骨の過外旋)、膝蓋骨周囲組織の拘縮などがあります。

治療方法としては、不良姿勢の修正や膝蓋下脂肪体の柔軟性を取り戻すためのダイレクトマッサージが有効です。

②滑膜の炎症

滑膜の炎症

滑膜(関節包の内側を構成する膜)の主な役割は関節液の分泌で、この液があることで関節はスムーズに動かすことができます。

変形性膝関節症では、半月板や関節軟骨が磨り減ってしまい、軟骨の破片が関節内を浮遊しています。

その破片が関節を包んでいる滑膜を刺激することにより、滑膜に炎症が起こり、関節液を多量に生産することになります。

これがいわゆる関節に水が溜まった状態であり、炎症の影響や関節内圧の上昇、破片の刺激によって膝に痛みが生じます。

膝関節の痛みの多くは、前述した膝蓋下脂肪体か滑膜が原因ですので、どちらの影響が強いかを鑑別するかは非常に重要です。

滑膜の炎症が原因による痛みは、膝全体の痛みとして訴え、炎症所見(腫脹や熱感)を伴い、歩行時は荷重痛が強く跛行が出現します。

それに対して、膝蓋下脂肪体が原因の痛みは起立時などの膝蓋大腿関節症の痛みがメインで、歩き始めると痛みが消失することが多いです。

治療方法として、炎症が強い間は跛行を伴いますので歩くのを控え、股関節や足部などの不良姿勢をきたした原因部位を修正します。

内側広筋は関節液がわずかにでも増量すると(10ml〜)、容易に機能が抑制されることから、炎症が落ち着いてからの運動が大切です。

③膝蓋上包の拘縮

膝蓋上包のリリース

膝蓋上包とは膝関節を包んでいる膜の上側のことで、中間広筋の深層線維が分岐した膝関節筋が付着しています。

膝蓋上包が硬いと膝蓋骨の動きが悪くなり、結果的に膝蓋下脂肪体の滑りを悪くすることにつながります。

治療方法としては、親指と人差指で膝蓋上包を挟み込み、左右に揺らすようにしながら力を入れてマッサージしていきます。

なるべく深部まで指を沈めるようにし、大腿骨に張り付いている組織を根こそぎリリースするような気持ちでやると良いです。

膝蓋上包は膝関節筋(中間広筋の深側から分岐した線維)と繋がっており、膝関節筋が収縮することで関節包を持ち上げます。

そのため、中間広筋が硬結していると膝蓋上包や膝蓋骨の動きを制限することになるので、上方までマッサージしておくことが大切です。

④オスグッド・シュラッター病

オスグッド・シュラッター病

オスグッド・シュラッター病は、骨端線が閉じていない12〜13歳のサッカーや陸上競技をしている男児に好発する脛骨結節部の疼痛疾患です。

脛骨近位端には骨端軟骨板が存在しており、そこに大腿四頭筋の収縮による牽引ストレスが繰り返し加わることで損傷します。

治療方法としては、基本的に過用症候群(オーバーユース障害)ですので、安静にして大腿四頭筋に過度な収縮がないような動作指導を行います。

骨端軟骨板が骨化する15歳頃にはほとんどの痛みが消失するので、それまでは必要に応じて練習量をセーブします。

⑤ジャンパー膝

ジャンパー膝

ジャンパー膝は、骨端線が閉じた15歳以降に発生する大腿四頭筋腱および膝蓋靭帯の障害になります。

バレーボールやバスケットボールなどのスポーツ選手では、その約30%に発生すると報告されており、そのうちの半数ちかくは両側に発生します。

治療方法としては、基本的にオーバーユース障害ですので、安静にして損傷部に負荷が加わらないような生活動作を指導します。

大腿四頭筋が硬い人では再び損傷しやすいため、在宅指導としてストレッチを指導することも必要です。

予後は比較的に良好ですが、一部は慢性化して治癒までに長期間を要することもありますので、初期の対応が重要となります。

⑥滑膜ヒダ障害(タナ障害)

滑膜ヒダ障害:タナ障害

胎生期に関節包ができる過程で、関節包には一時的な膨らみが起こりますが、それが膨らんだまま残り続けた状態が滑膜ヒダになります。

膝関節の関節包内側には約半数の人に滑膜ヒダが存在しており、このヒダが挟み込まれて炎症を起こすことにより痛みが起こります。

思春期から青年期に好発しやすく、階段などで急に引っかかりを感じ、そこから膝の屈伸時に痛みが発生します。

治療方法として、原因は滑膜ヒダの炎症にあるので、安静にして炎症が落ち着くのを待つことで痛みは軽減していきます。

炎症を繰り返して滑膜ヒダが肥厚している場合は、痛みを繰り返す難治性となりやすいので、関節鏡での切除術が行われます。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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