認知症精神行動症状/BPSDのリハビリ治療

認知症精神行動症状/BPSDのリハビリ治療に関する目次は以下になります。

認知症精神行動症状/BPSDの概要

BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、認知症の中核症状に伴って現れる二次的な精神症状や行動障害です。

中核症状とは、脳機能の直接的な低下を示すものであり、記憶障害や見当識障害、理解力の低下、失行・失認などの症状を指します。

中核症状に伴う精神症状には、抑うつや不安、幻覚、妄想などがあります。

行動障害としては身体的攻撃性、叫び声、不穏、焦燥性興奮、徘徊、不潔行為、罵る、収集癖、異食などが含まれます。

アルツハイマー病におけるBPSDの出現頻度

順位 症状 出現頻度
1位 アパシー(無気力) 97%
2位 妄想 62%
3位 易刺激性 60%
4位 不快感 53%
5位 不安 51%
6位 異常行動 47%
7位 興奮 45%
8位 脱抑制 31%
9位 幻覚 26%
10位 快活/多幸 14%

BPSDを改善させることは可能か

経験上ですが、BPSDを改善させることはそれほど難しいことではなく、正しく介入することである程度の改善は可能です。

なぜなら、BPSDを悪化させている要因のほとんどが「環境」や「ケアの方法」なので、それらの要因を整えることによって改善が望めるからです。

その具体的な対処方法として、認知症ガイドラインに記載してある以下の5原則が有用になります。

  1. 介護者や治療者となじみの人間関係を作って、信頼・依存関係を構築する
  2. 患者のペースやレベルに合わせて、無理のない課題を与える
  3. 理屈による説得よりも共感的納得をはかって自主性を促す
  4. 廃用を防ぐために、生活リハビリと合わせて十分な運動量を確保する
  5. 高齢者は変化に弱いので急激な変化を避け、パターン化して教える

介護者との関係は非常に重要で、ここで適当にあしらうような対応や、身体を拘束するような行動があるとBPSDは急激に悪化していきます。

そのため、スタッフ全員がどうしてそのような行動が起こるのかを知っておかなければ、正しいケアも環境作りもできません。

BPSDにおいては、改善するべきは患者ではなく、こちら側といったことになります。

問題行動には必ず理由がある

認知症の方々が問題となるような行動をとったとき、そこには必ず理由が存在します。

便を漏らしたことが恥ずかしくて、それを隠そうとしたいがために汚物をまき散らしている場合もありますし、もしかしたら怒られてしまう恐怖を持っているのかもしれません。

人間はすべて、なにかをする時には動機が存在しています。それを見つけて調節していくことが私たちの仕事であり、BPSDの治療法です。

そのため、「認知症だから」の一言で片付けるようなことだけは絶対にないようにお願いします。

BPSDを精神病薬で抑えるという愚行

一昔前は、認知症に伴うBPSD(不穏や暴力行為など)と精神疾患との区別がつかずに、すべてのケースが鎮静剤を処方されて片付けられていました。

しかし、現在はBPSDの原因の大半が周りの環境にあることがわかってきており、まずは環境を整えることが第一選択となっています。

それにも関わらず、いまだに薬などにて症状を抑えようとしている施設が多いように感じています。

重要なことなので何度も同じことを書きますが、BPSDを改善するために必要なことは、患者を教育することではなく、こちら側が正しい知識を学ぶことです。

それだけは是非とも覚えておいてほしいところです。

精神病薬には副作用がある

興奮状態を抑えるために処方される抗精神病薬などは、強い効果が期待できる反面、強い副作用を持っています。

代表的なものとしては、自律神経障害(起立性低血圧、頻脈、流涎など)や錐体外路症状(パーキンソン症状、急性ジストニアなど)があります。

環境が悪いために不穏となっているのに、根本的な原因を無視して薬で症状を抑えるなんて恐ろしいとしかいえませんよね。

ここからはフィクションの話として聞いてほしいのですが、私が昔に勤めていた施設にAさんという男性が入居されていました。

Aさんはアルツハイマー病の進行に伴って、床のゴミを拾って食べてしまうといった問題行動が出現するようになりました。

それを見つけた職員は、「汚いでしょ!床に落ちてるゴミを食べないで!」と怒鳴りつけていました。

しかし、Aさんのゴミを拾って食べる行動はなおるどころか悪化していき、その職員はさらに苛立って注意の仕方も次第にひどくなっていきました。

それに反抗するように、Aさんには「暴力行為」が出現するようになりました。

医者に報告したら注射された

暴力行為に困った施設の職員は医者に報告したところ、その医者は環境の問題などについて一切聞くこともなく、抗精神病薬の注射を実施しました。

注射剤は効果が強く、一般的に2-4週間の効果が期待できるとされています。

しかし、効果が強いということは副作用も強いということであり、Aさんはそれから数日の間、完全な無気力状態に陥りました。

これはあくまで一例であり、このような事例は山ほど存在しています。介護施設で働いているにも関わらず、BPSDを知らないという職員も大勢います。

現在は介護職が壊滅的に足りない状況であり、資格なんて持たなくても、誰でも簡単に現場で働くことができます。

そのような質を無視した状態が、悪化させる介護につながっているのだと思います。何度も書きますが、BPSDは周りの対応で治すことができます。

今後は、リハビリ職だけではなく、介護職などにも「治す」という気持ちを持っていただくことが大切だと考えています。

そういった意識を持つことにより、仕事に対してよりやりがいを持つことができ、誇りを持って介護という仕事に従事できるはずです。

そして、それを誘導していけるのが国家資格を有するコメディカルではないでしょうか。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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