この記事では、長掌筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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長掌筋の概要
長掌筋は前腕前面の浅層に位置しており、上腕骨から起始し、手の平の付け根に広がる手掌腱膜に停止する二関節筋です。
長掌筋の役割は手掌腱膜を緊張させることであり、人類がまだ木の上で生活していた400万年前に、木にぶら下がるために活躍していました。
しかし、現代はそのような習慣がないために筋肉が退化しており、日本人の5%、白人の20%で欠損しています。
長掌筋は手関節掌屈や肘関節屈曲、前腕回内にも補助的に作用しますが、その役割は非常にわずかなものでしかありません。
そのため、欠損していても日常生活で不利になることはなく、腱損傷時などの移植腱として使用されることも多いです。
手掌筋は屈筋支帯を通過せず、表層の手掌腱膜につながるため、拳を握りながら手関節を掌屈した際に手首中央に腱が浮き上がります。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 正中神経 |
髄節 | C7-T1 |
起始 | 上腕骨の内側上顆 |
停止 | 手掌腱膜 |
栄養血管 | 尺骨動脈 |
動作 | 手関節の掌屈 |
拮抗筋 | 尺側手根伸筋、短橈側手根伸筋、長撓側手根伸筋 |
筋体積 | 10㎤ |
筋線維長 | 7.1㎝ |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
手関節掌屈 |
1位 | 浅指屈筋 |
2位 | 深指屈筋 |
3位 | 尺側手根屈筋 |
4位 | 橈側手根屈筋 |
5位 | 長掌筋 |
※主に手関節の掌屈に働く筋肉ですが、その貢献度は低いとされています。
前腕の断面図
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前腕中央を断面でみた場合、長掌筋は最背面の中央部に位置しているのがわかります。
長掌筋の触診方法
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写真では、指を曲げて手掌腱膜を緊張させ、手関節の掌屈させることで長掌筋腱を浮き上がらせて触診しています。
前述したように長掌筋は日本人の約5%で欠損しているため、腱が浮き上がらないことも考慮しておくようにしてください。
手首で浮き出ている腱
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拳を握りしめたときに手首に浮き上がっている腱は、中央部が手掌筋、親指側が橈側手根屈筋、小指側が尺側手根屈筋になります。
長掌筋のすぐ隣りで浅指屈筋腱の動きが触知できますが、やや深部を通過して屈筋支帯によって抑えられているため、長掌筋ほど浮き出ません。
ストレッチ方法
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長掌筋を伸張するためには、肘関節伸展・前腕回外・手関節背屈位とし、もう片方の手を手指MP関節に置きます。
その状態から手関節背屈、第2-5指MP関節伸展を増大させていきます。
筋力トレーニング
長掌筋は手掌腱膜を緊張させる筋肉なので、鉄棒にぶら下がるような運動をすることで鍛えることができます。
その際に手関節を掌屈させるように力を入れることで、より強く長掌筋を収縮させることも可能です。
関連する疾患
- 長掌筋腱断裂
- 正中神経麻痺
- 投球障害肘
- 再建術の移植
- 陳旧性肘関節不安定症 etc.
再建術の移植
長掌筋は欠損しても困らない筋肉なので、靱帯断裂後の再建術などにおいて移植腱として使用されることが多い筋肉です。
例えば、野球選手に多いトミー・ジョン手術では、断裂した肘関節の内側側副靱帯に、本人の長掌筋の腱を移植することがあります。