関節リウマチのリハビリ治療に関する目次は以下になります。
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関節リウマチの概要
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)は、罹患者の免疫系に異常が生じることにより、全身の関節に炎症が起きる疾患を指します。
家族内や一卵性双生児内での発症率が高いことから、遺伝的因子に環境因子が加わって発症すると考えられています。
以前は、「慢性関節リウマチ」と呼ばれていましたが、実際は急性発症する例もあるため、2006年より関節リウマチという名称で統一されています。
人口の0.4-0.5%、30歳以上の1%にあたる人がRAを発症します。好発年齢は、30-50歳代で、男性より女性の方が多く、約3倍と報告されています。
発生頻度は加齢とともに男女差が縮まっていき、60歳以上ではほぼ同数となります。
15歳以下で発病するものに若年性特発性関節炎がありますが、これは成人の関節リウマチとは症状も検査所見も異なるもので、分けて理解する必要があります。
関節リウマチの症状
約40%の症例が再燃と寛解を繰り返しながら慢性的な経過をたどります。関節の初発症状は手部に生じやすく、左右対照的に認めるケースが大半です。
主な症状は痛みであり、滑膜の炎症が起こり、滑膜の増殖がみられます。炎症の持続によって骨や軟骨が破壊され、関節に変形をきたします。
症状は関節以外にも現れる場合があり、関節外症状(心臓や肺などの血管炎)は身体機能や生命の予後に大きく関わります。
RAとの鑑別が必要な疾患
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 乾癬生関節炎
- リウマトイド因子陰性脊椎関節症 etc.
関節リウマチと全身性エリテマトーデスの鑑別
RA | SLE | |
白血球 | 増加 | 減少 |
CRP | 上昇 | 不変 |
補体価 | 上昇 | 低下 |
合併症 | 間質性肺炎、シェーグレン症候群 | 腎臓障害 |
関節リウマチの症状
発症初期の関節の痛みは、1つ又は少数の関節から始まりますが、進行後は左右の同じ部位の関節に起こることになります。
有名な症状として、「朝のこわばり」が挙げられますが、これは昼寝をするなどの長時間の不動後にみられる症状であり、朝に必ずしも起きるというわけではありません。
進行すると徐々に関節が変形する
病気が進行すると、関節の骨や軟骨が破壊されて関節の変形が起こり、関節を動かせる範囲が徐々に狭くなっていきます。
手指が小指側に曲がる尺側偏位、足の親指が外側に曲がる外反母趾、膝や肘が十分に伸ばせなくなる屈曲拘縮などが特徴的です。
環軸関節亜脱臼を起こすと後頭部が痛んだり、上肢に麻痺が起こる可能性もあります。
引用画像(1) |
リウマチの症状は変形だけではない
全身症状として、易疲労性、脱力感、体重減少、食欲低下などがみられます。
また、肘の外側、後頭部、腰骨の上など圧迫が加わりやすい部位に皮下結節(リウマトイド結節)が発生します。
胸部エックス線写真では、胸水や肺線維症と呼ばれる影がみられたり、涙や唾液が出にくくなるシェーグレン症候群もしばしば合併します。
引用画像(2) |
悪性関節リウマチは特定疾患
RAの中でも、心臓や肺、消化管などの血管炎症状が強いものを「悪性関節リウマチ」と呼んでおり、RAと同様に原因は不明とされています。
RA全体の0.6%と頻度としては少ないですが、難治性であり、厚生省の特定疾患の一つに指定されています。
予後は、軽快/不変が約50%、悪化が約35%、死亡が約15%です。死亡の原因は呼吸不全、感染症、心不全、腎不全などです。
1987年米国リウマチ学会の分類基準
近年は治療薬の進歩により、大幅に進行を抑えることが可能となっています。そのため、発病してなるべく早い時期に診断し、治療を始めることがより重要となっています。
診断では長い間、以下の「1987年の米国リウマチ学会による分類基準」が使われてきました。以下の7項目のうち、4項目以上を満たすと関節リウマチと診断されます。
1 | 1時間以上の朝のこわばりが、少なくとも6週以上あること |
2 | 3ヶ所以上の関節腫脹が、少なくとも6週以上あること |
3 | 手関節、MP関節、PIP関節の腫脹が、少なくとも6週以上あること |
4 | 対称性関節腫脹が、少なくとも6週以上あること |
5 | RAに典型的な骨びらん又は明確な骨脱灰像を含む手のX線所見 |
6 | リウマトイド結節(皮下結節) |
7 | 健常人の5%以下が陽性となる方法での血清リウマトイド因子陽性 |
2010年に最新版が出ました!
しかし、この基準では早期の罹患者をRAと診断できないことが多く、早期診断には適していませんでした。
このような状況から、2010年に米国および欧州リウマチ学会が合同で新しい分類基準を発表しました。こちらでは、スコアが6点以上で関節リウマチと診断されます。
1 | 1関節以上で臨床的に滑膜炎(関節の腫れ)を認める | |
2 | 滑膜炎の原因が他の疾患で説明がつかない | |
罹患関節 | スコア | |
大関節1ヶ所 | 0 | |
大関節2-10ヶ所 | 1 | |
小関節1-3ヶ所 | 2 | |
小関節4-10ヶ所 | 3 | |
11ヶ所以上(1ヶ所以上の小関節) | 5 | |
血清学的検査 | スコア | |
リウマトイド因子陰性かつ抗CCP抗体陰性 | 0 | |
いずれかが低値陽性 | 2 | |
いずれかが高値陽性 | 3 | |
急性期反応物質 | スコア | |
CRP正常かつ赤沈正常 | 0 | |
CRP、赤沈のいずれかが異常 | 1 | |
症状の持続 | スコア | |
6週未満 | 0 | |
6週以上 | 1 |
RAの早期診断
上記の基準では、少なくとも1つ以上の関節で腫れを伴う炎症がみられ、その原因として関節リウマチ以外の病気が認められない場合に適用されます。
症状がある関節数、RF又は抗CCP抗体の値、CRPまたは赤沈の異常、持続期間、の4項目をスコア表に沿って集計していきます。
6点以上であれば関節リウマチと診断し、抗リウマチ薬による治療を開始することができます。
リウマチ学会でもこの基準が検証され、早い時期での関節リウマチの診断に役立つことが示されています。
ただし、RA以外の病気でも合計6点以上になってしまう可能性があるため、点数をつける前に他の疾患がないか十分に検討する必要があります。
関節リウマチの検査
RAの診断をする際に役立つ検査は、血清のリウマトイド因子、赤沈、CRP、手のエックス線写真などがあります。リウマトイド因子(RF)は、RAの80-90%で陽性となります。
早期では陰性となる場合もありますが、抗CCP抗体はRFよりも早期から陽性になるとされており、診断のつかない早期例には抗CCP抗体の方が有用とされています。
関節リウマチの進行や関節症状の進み方の検査として、関節及び胸部のレントゲン写真やMRIを定期的に撮影する必要があります。
手術療法
近年の薬物療法の開発は、RAと診断されてから手術までの期間を明らかに延ばしていることが最近の疫学調査からも明らかになっています。
また、薬の開発は著しいものですが、手術自体も近年目覚しく進歩しています。
以前は約10年と言われていた人工関節の寿命も、現在では20年以上の安定した成績が期待できるようになっています。
また、手術機種や手技の開発改良により入院期間も短縮され、これまで困難とされていた関節の手術も可能となっています。
一方で、手術のタイミングを逸したために期待される効果が得られない場合や、手遅れになり手術そのものが出来なくなってしまうケースもみられています。
確立された術式であれば、術後評価は満足すべきものであることはエビデンスの上からも明らかです。
手術によりそれまで困難であった日常生活が著しく改善したケースは少なくありません。なので、無理に手術を引き延ばさず、適切なタイミングで手術に踏み切ることも大切です。
手術方法について
関節リウマチの手術法は大きく分けて4種類あり、①人工関節置換術、②関節固定術、③滑膜切除術、④関節形成術です。これらの手術法は、関節毎で施行される術式は異なります。
高度に破壊された関節の手術であれば、人工関節置換術が行われます。
正常な関節には、「無痛性」「可動性」「支持性」の3要素が必要になりますが、人工関節は僅かな動きの制限を残すことはあるものの、3要素の全てを獲得出来る術式です。
しかしながら稀に術後の感染や肺塞栓症などの重篤な合併症が出現することもあるため、適応は専門医と十分に相談して行う必要があります。
血液透析による治療
近年では、血液中の活性化した白血球を取り除き、炎症を鎮める「白血球除去療法(LCAP療法)」も実施されています。
LCAP療法では、一旦体外に血液を取り出し、特殊なフィルターに通して活性化した白血球を取り除いた後、再び体内に戻します。
イメージとしては、腎不全患者の血液透析のような方法ですが、腎不全の透析のように何時間もかかることはなく、約1時間で治療は終了します。
また、血液透析のように血液中の水分や栄養成分には影響を与えないので、副作用は少ないことが特徴です。
リハビリテーション
関節リウマチの理学療法の目的は、疼痛の緩和、ROMの維持・改善、筋力強化、変形の予防、傷んだ関節の修復、日常生活指導などになります。
傷んだ関節があるのに運動負荷をかけることは逆効果のように思われますが、関節軟骨の新陳代謝に必要な栄養は関節を運動させることによって関節へ届けられます。
よって、安静にしすぎるとかえって悪化する可能性もあります。そのような理由から、傷んだ関節を修復させるためにも適度な運動が必要となります。
運動の強度及び頻度について
自転車エルゴを週2回、1回45分の訓練を3ヶ月続けた後に疾患活動性を調査した研究では、赤沈亢進が認められないことから、個別的な積極的訓練の重要性が示されています。
また、長期的な経過を観察した調査では、身体活動をより積極的に行った群の方がADL能力が優れていたとされています。
RA患者は最大酸素摂取量の計測から健常者に比べ体力低下が大きいことがわかっており、特に自転車エルゴなどの有酸素運動は有効であると考えられます。
しかし、運動療法の後にかえって痛みが増したと訴えられることもあるため、負荷量は翌日に疲れや痛みが伴わない範囲が望ましいと考えられます。
関節はとにかく伸ばしておくことが大切
関節に痛みがあると動かすことが億劫となり、いざ動かそうという時にこわばって動かなくなってしまいます。
RAでは関節が伸びにくくなり、体全体がうずくまるような姿勢をとりやすいのが特徴です。そのため、関節を伸ばすストレッチ運動を早期から習慣づけておくことた大切です。
また、ROM訓練による機能維持効果は、特に上肢で発揮され、継続的な実施は心理的効果もあると報告されています。
関節別の変形に対する装具療法
1.頸椎
関節リウマチでは第1,2頸椎間が脱臼しやすく、下位頸椎では階段状変形が出現しやすいので神経症状や痛みの原因となります。
そのため、頸椎の過度の前屈運動を制限し、急な外力から頸を守るために頸椎カラーが使用されます。
2.肘関節
肘関節では、動揺性や疼痛が著しい場合に支柱付きサポーターや保温用サポーターが利用されます。
3.手関節
手関節装具には安静による疼痛腫脹の軽減を目的とした装具と、尺側偏位の矯正を目的とした装具があります。
4.手指関節
手指のスワンネック変形やボタン穴変形には指輪型装具が使われることが多く、変形の予防に効果があります。
指輪型装具は整容に優れますが、指の変形が矯正されたり腫脹が軽減したりするとサイズが合わなくなるといった欠点もあります。
ボタン穴変形 | スワンネック変形 |
引用画像(3)
プールでの運動について
浮力により負荷を減らしたプールでの運動は、痛みの誘発も少なく、関節を保護しながら練習できます。
股関節の体重負荷は、首までつかって9割、胸で7割、臍で5割まで下げることが可能です。
プールの水温は一般に33-36度ですが、この温度で水中歩行を実施すると末梢血管が開いて血圧を下げ、鎮痛効果も期待できます。
自助具を活用して自立した生活を送る
重症例では、自助具や家屋改造により最低限の身の回り動作を獲得しておく必要があります。
代表的な自助具である「リーチャー」や「マジックハンド」は、体から離れた物を取ったり、靴下を楽な姿勢で履いたりすることができます。
また、ボタンエイドは不自由な指でもボタン賭けを楽にできます。
症状の軽いうちは 、一般的なステッキタイプやT字杖が使われますが、下肢の術後には松葉杖が用いられます。
握力のないヒトでも持ちやすく握りの部分を手の形にしたフィッシャー杖、手首の負担を軽減できるロフストランド杖なども有効です。
前腕プラットフォーム杖は手首に加え肘関節の負担を軽減できます。
日常生活動作の指導
日常生活においても、なるべく関節に負担をかけないようにすることが大切です。ポイントとしては、変形しやすい小さな関節(手や指)に強い力を入れないことです。
避けるべき動作
推奨される動作
荷物などを持つ際は、手で持つのではなく、腕や肩にかけるようにして大きな関節で受け止めるようにすることが大切です。
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仕事や肉体労働に関して
RAの好発年齢は、働き盛りの30-50歳代ですので、仕事や今後について心配される方が多くおられます。
エビデンスに基づいて考えると、軽症の方はあまり過度に心配せずに、これまで通りの生活を送っていただいて構わないと思います。
仕事や肉体労働に関しても、関節に強い力が加わらないように工夫し、できる範囲で続けていただいて大丈夫です。
しかし、痛みが強い時期(炎症期)は、変形を助長させる可能性が高いため、関節に負担がかかる動作は控えるようにすることが大切です。
引用画像/参考資料
- http://ganbare-meron.dreamlog.jp/archives/1506627.html
- http://www.drnasu.com/ra/ra.htm
- 理学療法士国家試験~第40,41,42回~
- 日本整形外科学会発行のパンフレット「関節リウマチ」