頸椎症性筋萎縮症(Keegan型頸椎症)について解説していきます。
Keegan型頸椎症の概要
頸椎症による神経障害では、感覚機能と運動機能が同時に障害される場合が多いですが、稀に運動麻痺を主症状とする頸椎症が存在します。
それを頸椎症性筋萎縮症といい、最初に症例を報告したKeegan氏の名前をとって、キーガン型頸椎症と呼ばれることもあります。
頸椎症性筋萎縮症では、脊髄前角または前根が選択的に障害されるため、三角筋や上腕二頭筋、腱板筋群に顕著な運動麻痺が出現し、感覚障害はないことが特徴です。
そのため、患者は「肩が挙がらない」または「肘が曲げられない」と訴えての来院となります。
正中型の椎間板ヘルニアというのは、椎孔内で脊髄(神経)を圧迫することになりますが、最初に圧迫を受けるのは前根になります。
そのことを考慮すると、感覚障害よりも運動障害のほうが発生しやすいのは当然なので、正中型の椎間板ヘルニアによる影響が強いと考えられます。
自然経過で寛解する症例も多い
頸椎症性筋萎縮症では、保存療法により半数以上は発症から約10週で日常生活に支障がない程度まで改善することが報告されています。
保存療法では、約3ヶ月の患部安静(装具療法)、薬物療法、頸椎牽引、運動療法が適応されることが多いです。
しかし、十分な回復が望めずに手術に至るケースも多く、早期の手術を推奨する報告もあります。
リハビリテーション
運動麻痺に伴う上肢の拘縮予防と、麻痺筋に対する筋力トレーニング(促通)が主な運動療法になります。
筋力強化は肩甲骨上方回旋筋(僧帽筋上部や前鋸筋)を鍛えることで、腱板筋群が効率よく収縮できる環境を整えることが大切となります。
腱板筋群が収縮することで上腕骨頭の固定が十分に行えるようになり、そこから三角筋を促通していくことで上肢の正常な挙上動作を再獲得していきます。
適切な負荷にて反復運動を繰り返すことにより、障害された神経の回復促進が期待できると考えられます。
障害される主な筋肉
頸椎症性筋萎縮症では、C5またはC6レベルが障害されやすいです。
筋肉 | 神経根 | 動作 |
三角筋 | C5-6 | 肩関節の屈曲,外転,伸展 |
上腕二頭筋 | C5-6 | 肩関節の屈曲(長頭),水平内転(短頭),肘関節の屈曲,前腕回外 |
上腕筋 | C5-6 | 肘関節の屈曲 |
棘上筋 | C5-6 | 肩関節の外転,外旋 |
棘下筋 | C5-6 | 肩関節の外旋 |
小円筋 | C5-6 | 肩関節の外旋 |
肩甲下筋 | C5-6 | 肩関節の内旋,水平内転 |
大胸筋鎖骨部 | C5-6 | 肩関節の水平内転,内旋,屈曲,吸気補助 |
治療では必要な部分を個別に強化していくことで、生活に支障が出ないようにアプローチしていきます。