変形性股関節症のリハビリを行う上で、鼡径部痛を訴える患者は非常に多いかと思います。
ここでは、なぜ股関節前方に痛みが起こるのか、どのように治療するべきかをわかりやすく解説していきます。
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鼡径部の痛みの原因
鼡径部の痛みは、膝関節が外向き(大腿骨外旋位)にある状態の患者に現れやすいといった特徴があります。
理由としては、変形性股関節症では後方組織(股関節外旋筋群)が硬くなりやすいことが挙げられます。
後方組織が短縮すると前方組織に緩みが生じ、骨頭の前方偏位や不安定性を起こすことにつながります。
また、骨頭の前方偏位や不安定性は前方組織(前関節包、腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、腸恥滑液包、腸腰筋)の痛みを誘発します。
治療では、股関節を軽度屈曲・内転・内旋位とし、そこから骨頭を外下方に押し込むようにして後方組織をストレッチングします。
骨頭前方偏位による影響
大腿骨頭の前方が刺激されて炎症が起きると、その周囲に存在する組織には癒着が生じます。
大腿骨頭の前方には腸恥滑液包と腸腰筋が存在しており、滑液包が存在するということは、それだけの摩擦が生じやすいことを意味します。
癒着が生じやすいのは、腸腰筋と縫工筋、恥骨筋が結合する場所です。
治療では、鼠径靭帯の下方で縫工筋鞘の内側に指を当て、腸腰筋筋膜に対して摩擦法を加えていきます。
股関節伸展制限による影響
腸腰筋に問題が生じると股関節伸展の可動域が制限され、股関節伸展の主力筋である大殿筋が活動できずに萎縮していきます。
また、大殿筋に連結する中殿筋の後方線維も伸展に作用するため、臀筋群は全て弱化しやすい傾向にあります。
中殿筋による骨盤支持が難しくなってくると、代償として股関節内転筋群の過剰な収縮により骨盤を支持しようとします。
その状態を続けることで内転筋群の短縮が生じ、股関節外転の可動域制限が起こることにつながります。
治療では、まずは前述した後方組織のストレッチングや腸腰筋筋膜の癒着を剥離し、股関節の硬さを改善していきます。
その後に大殿筋や中殿筋を促通するための筋力トレーニングを行い、合わせて内転筋群を伸張させるとよいです。
おわりに
股関節外旋時に骨頭が前方に移動することは説明しましたが、伸展時と内転時にも骨頭は前方に偏位します。
そのため、股関節の前方組織を刺激することで痛みが起きているタイプでは、伸展時痛と内転時痛も同時に訴えることが多いです。
単純な話ですが、関節周囲組織が硬いと骨頭がきれいに滑らないため、骨頭が関節窩にガンガンぶつかります。
そうすると骨頭も関節窩も潰れていき、その表面に付着している軟骨も磨り減ることになるわけです。
そのため、できる限りに股関節の柔軟性は確保することが大切であり、同時に不安定性をなくすことが重要となってきます。
効果的に治療をするためにも、どのような機序がで鼡径部痛が発生しやすいかを理解しておくようにしてください。