リンパ性浮腫(むくみ)のリハビリ治療

リンパ性浮腫の原因とリハビリ治療の方法について解説していきます。

リンパ性浮腫の概要

リンパ管やリンパ節の障害により、リンパ液の循環が滞ることによって起こるむくみをリンパ性浮腫と呼びます。

リンパ性浮腫は、術後(子宮がんや乳がんなど)や感染症の経験後に発症するケースがその大半を占めています。

有病者は全国で15万人以上といわれており、女性に好発しやすく、加齢に伴って増加していきます。

一旦リンパ系に障害が起きると治癒することは困難となるため、治療のゴールは浮腫を軽減し悪化を防止することにあります。

リンパ経路|リンパ節

リンパ系の仕組み

リンパ系は、①リンパ管と②リンパ節の二つから構成されており、その中にはリンパ液が流れています。

末梢の毛細血管(動脈の終わり)から染み出た組織液の90%は静脈に再吸収され、残りの10%はリンパ管によって吸収されてリンパ液となります。

リンパ液はリンパ管を通過しながら上行していき、徐々に太くなりながら左右の静脈角に合流します。

リンパ節は全身で約800個ほど存在しており、リンパ管が静脈角に辿り着くまでには複数のリンパ節を通ることになります。

リンパ節にはウイルスや細菌の感染を防ぐ免疫機能と老廃物の濾過機能を担っており、フィルターのような役割をしています。

リンパ系の流れ

リンパ管は非常に流れが滞りやすい部分であり、通常はリンパ管内の弁の作用で逆流を防ぎながらリンパ液の流れを作っています。

そのため、押し出すような力が作用せずに流れも緩やかとなっており、1日に身体を循環するリンパ液は2〜4リットルほどしかありません。

1日に身体を循環する血液が8〜10トンと考えると、その2000分の1ほどしかないということになります。

ただし、リンパ液は動脈や静脈のように固まって血栓を作ることはないので、比較的に流れ自体はよいといえます。

むくみが起こる原因

むくみとは、組織中に染み出る水分よりも吸収される水分のほうが少ないために、余分な水分が細胞や組織の隙間に残った状態をいいます。

具体的に書くと、身体に存在する水分は大きく分けて、①血液、②組織液、③リンパ液の三つになります。

血液は血管を通って全身を巡っていますが、血液中の血漿という成分の一部は、動脈などの太い血管から外へ染み出します。

血管の外に出た血漿は「組織液」という名前に変わり、細胞まで酸素や栄養素を届け、静脈やリンパ管に吸収されていきます。

リンパ管に吸収された組織液は「リンパ液」という名前に変わり、最終的に静脈と同様に静脈角で合流します。

これらの理由から、静脈やリンパ管の流れが滞ってしまうと組織液がうまく吸収できず、むくみが起こってしまうことになります。

とくにリンパ管は前述したように押し出す力が弱いために流れが滞りやすく、吸収を妨げる主因となっている場合が多いです。

浮腫の種類について

浮腫を起こす原因はいくつも存在しているため、なにが原因で浮腫が起きているかを正しく鑑別しておくことが治療者には求められます。

全身性か局所性か

全身性で起こる場合は、心臓や腎臓、肝臓、内分泌系の病気、栄養障害、薬剤が原因である可能性が考えられます。

一般的に起こる浮腫の80%以上は全身性浮腫に該当しています。

立ち仕事で一日の終わりに下肢にむくみが起こるような状態(体位性浮腫)も局所性ではありますが、両下肢に出現するために全身性浮腫に含まれます。

局所性で起こる場合は、静脈やリンパ管の循環障害、神経性、炎症性などの原因が該当します。

リンパ性浮腫の場合は改善が難しいと前述しましたが、全身性浮腫や一部の局所性浮腫では治癒が期待できる可能性は高いです。

そのためにも、まずは浮腫を起こしている原因を突き止めて、各々の原因に対してアプローチしていくことが必要になります。

全身性浮腫 うっ血性心不全
腎疾患(ネフローゼ、急性腎炎)
肝硬変
甲状腺機能低下症
ダイエット・栄養失調など
薬剤性浮腫
特発性浮腫
局所性浮腫 静脈性浮腫(下肢静脈瘤、深部静脈血栓症)
リンパ性浮腫
麻痺性浮腫
炎症性疾患

左右対称か非対称か

左右対称で起こる場合は、全身性浮腫である可能性が高いです。

左右非対称で起こる場合は、基本的に局所性であり、浮腫側の静脈やリンパ管の循環障害、神経や炎症などの障害が疑われます。

とくに左右の太さが2〜3センチ以上違うなら、血管やリンパ管のトラブルが原因となっている病的なむくみを考慮する必要があります。

臨床鑑別テスト

リンパ性浮腫の確定診断にはリンパ管造影を実施し、リンパ管での取り込み不良、不均一性、リンパ節の活性低下などを診断して確定します。

また、臨床鑑別テストとして、Stemmer徴候や圧痕徴候が陽性となります。

Stemmer徴候 足趾や手指の背側の皮膚が肥厚し、皮膚のたるみやシワが極端に少なくなる
圧痕徴候 皮膚を押しても戻ってこないため、圧迫した形が残る

むくみ以外の自覚症状として、むくんでいる部分がだるく、重く、疲れやすく、皮膚が乾燥して硬くなるといったことが起きます。

リンパ性浮腫は全身で起こる可能性がありますが、70%以上は重力の影響を受けやすい脚に生じるとされています。

リハビリテーション

リンパ性浮腫は症状が軽減しても完治することは難しく、基本的には一生付き合っていくことが前提となります。

そのため、一方的な施術を行うことはせずに、患者自身が病態を理解してセルフケアできるようになることが大切です。

以下にその方法について詳しく解説していきます。

徒手的リンパドレナージ

皮下に位置するリンパ管を擦るまたは軽く圧迫するように負荷を加えていきながら、リンパ液をリンパ節内に排泄していきます。

リンパ液の流れがゆっくりなのは前述しましたが、その流れを促進することで循環量を上げていくようなイメージで行います。

そのため、リンパ管に沿うような感覚で末梢から中枢側のリンパ節に向かってリンパ液を流し込んでいきます。

リンパ管には皮膚のすぐ下を流れる「皮下リンパ」と、脚の奥の方を流れる「深リンパ」が存在しています。

徒手的リンパドレナージはあくまで皮下に位置するリンパ管が治療対象であるため、圧を強くかける必要はありません。

深リンパを刺激しようとして強い圧をかけるとリンパ管を破壊してしまう可能性があるため、素人が無闇に実施することは控えてください。

セルフケアの方法としては、椅子に浅く腰掛けた状態でリンパ節が集中している鼠径部と膝裏を4本指でやさしく10秒ほどさすります。

次に片方の脚を膝の高さまで上げて、足首から殿部に向けてひと息でさすりながら移動させていきます。片脚に対して3分ほど実施すると効果的です。

運動療法

皮下リンパには徒手的リンパドレナージを行うことでアプローチが可能ですが、深リンパには不向きといえます。

そのため、深リンパに対しては徒手療法よりも筋ポンプを利用した運動療法のほうが効果的といえます。

具体的には、カーフレイズ(踵上げ運動)やエアロバイクなどを実施して、筋や関節のポンプ作用を利用して深リンパの流れを促進します。

また、腹式呼吸の獲得や円背の矯正などを実施することで、心肺機能を改善してリンパ液が心臓に戻る働きを助けることができます。

弾性ストッキングの着用

外部からの圧迫刺激によってリンパ液の流れを促進する方法です。主に、慢性期の浮腫治療に用いられ、二次的な障害の予防に使用されます。

毛細血管内の流体静力学的圧は約30mmHgであるため、弾性ストッキングの圧はそれよりやや高い30〜40mmHgが理想となります。

水分コントロール

水分の過剰摂取によって組織液の量そのものが増えて、吸収力を越えてしまっていることがよくあります。

とくに若い女性ではダイエットのために毎日数リットルもの水を飲んで、水分が体内に溜まっている場合も多いです。

とくに腎機能が低下している場合は尿としての排出量が少なくなるため、水分のコントロールは非常に重要となってきます。

また、お酒の飲み過ぎや塩分の摂り過ぎも多量の水分を欲することにつながるので、過剰摂取は控えるように注意します。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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