運動失調症の原因部位とリハビリ方法について

運動失調症(ataxia)のリハビリ方法について考察していきます。

運動失調症の概要

運動失調とは、読んで字のごとく運動の調節機能が失われた状態です。しかし実際は、体性感覚の消失による失調様の状態まで含まれます。

失調症は、①固有感覚の入力が障害されたために起こるものと、②運動の調節機能が障害されて起こるものの二つが存在します。

前者には、脊髄性と末梢性の失調症があり、後者には、小脳性と大脳性の失調症が存在します。

また、それらとは別に平衡感覚が障害されることにより起こる前庭迷路性の失調症があります。

身体感覚のウエイトについて

現在、自分の身体がどのような位置にあるかを把握するための情報として、視覚が10%、前庭が20%、固有感覚が70%のウエイトで決定されています。

固有感覚は全身の筋肉や関節などから伝わってくる情報であり、それを伝達するための末梢神経や脊髄に障害が起こることで遮断されます。

もしも遮断されると、70%ものウエイトを占める身体の位置感覚が消失するので、まともに立っていることもできない状態となります。

脊髄性失調症に対して閉眼での立位保持をさせる検査があるのは、視覚からの情報を遮断することで、どれだけ固有感覚が障害されているかを判断する材料にもなるからです。

失われた感覚は他の感覚で代償される

ヒトの身体は失われた機能を代償して働くように設計されており、例えば、固有感覚が障害されたら、前庭や視覚からの感覚を優先するようになります。

しかし、固有感覚はウエイトが大きすぎるので、それを前庭や視覚のみで補うのは少し無理があります。

そのため、固有感覚が障害されると転倒リスクが高くなってしまうわけです。

反対に、前庭のウエイトは20%ほどしかないので、障害されても転倒するほどにバランスが悪くなるといったことはないわけです。

運動調節機能が障害される失調症

小脳性や大脳性の失調症では、身体感覚こそ障害されませんが、歩行などの筋肉をうまく調節しながら動かすことが難しくなるので、転倒のリスクは高くなります。

しかしながら、ただ直立しているような姿勢では微妙なコントロールが必要なくなるので、それほど難しくなく立っていることができます。

固有感覚は基本的に障害されていませんので、眼を閉じたところで身体感覚は視覚の10%が奪われるだけなので、フラつくといったことはありません。

この検査をロンベルグ徴候といい、固有感覚と運動調節機能のどちらに問題があるかを鑑別する目的として使用されます。

脊髄性失調症のリハビリ方法

脊髄性失調症は、筋肉や関節などから伝わってくる固有感覚(位置覚や運動覚)を伝達する脊髄後索が障害されることによって起こります。

前述したように、身体の感覚は固有感覚が70%を担っていますので、そこが障害されると感覚は非常に乏しい状態になります。

固有感覚を補うためには、その他の感覚(視覚と前庭覚)を活用することが大切です。

例えば、足底からの感覚入力が乏しくて不安定にあるなら、視覚を活用して足下をみます。そうすることで、視覚的に安定させるのもひとつの手です。

また、杖を使用して上肢からの感覚入力を足すなど、障害されていない部位からの固有感覚を増やすことも有用です。

それらの代償感覚を活用した練習を反復することにより、新たな身体感覚を獲得することで、より安定した状態を作り出すことができます。

末梢性失調症のリハビリ方法

末梢の神経障害にて感覚入力が断絶されると、大脳まで固有感覚が伝わらないために失調症状を呈することになります。

症状は脊髄性と同様であり、異なるのは障害されたのが中枢(脊髄)なのか末梢なのかの違いだけです。

そのため、リハビリ方法も前述したアプローチを活用していきます。

前庭迷路性失調症のリハビリ方法

前庭迷路は身体感覚の20%を担っている器官であり、耳にある前庭迷路にて平衡バランスを感じとっています。

そのため、脊髄性失調症(70%)のように感覚が乏しい状態とはならないため、比較的にバランスはとれているといえます。

ただし、頭部を動かした際は従来との平衡感覚と乖離が生じてしまい、激しい回転性のめまいが出現することになります。

リハビリ方法としては、障害にて機能低下を起こしている前庭に対して、残存機能を強化することを目的とした訓練を実施します。

例えば、頭部を上下左右に動かしながら新聞を読んだり、壁に掛けてあるカレンダーを確認するなどの運動を実施します。

また、こちらも脊髄失調症と同様に残存している固有感覚や視覚のウエイトを上げることで、代償的に身体を安定させていきます。

小脳性失調症のリハビリ方法

小脳性失調症では、筋肉を共同的に動かすための調節機能が失われるため、思い通りの動きができずに激しくブレた動きをしてしまうようになります。

また、小脳の障害では複視や眼振といった症状がありますので、視覚(10%)からの感覚入力も障害を受けることになります。

リハビリにおいては、残存している小脳の機能を再構成していく必要があるため、フィードバックを加えながらの反復練習が基本となります。

順序としては、単関節により簡単な動作を正確に行えるように、注意を集中しながら反復していくことから始めます。

そして徐々に複合的な共同運動へとステップアップしていき、実用的な日常生活動作の獲得につなげていきます。

大脳性失調症のリハビリ方法

大脳においても小脳と同様に運動調節を担っている中枢があるため、大脳の障害によって小脳様の失調症状が出現する場合があります。

とくに前頭葉の障害で起こりやすく、まれに側頭葉や頭頂葉の障害でも出現します。小脳失調症との鑑別として、大脳病変に随伴する症状の有無をみていきます。

リハビリ方法としては、前述した小脳性失調症と同様のプログラムを実施していきます。

おわりに

運動失調症とひとくちに言っても、障害を起こす疾患や損傷部位は様々です。そのため、一概に失調症だからこれをするべきといったことは言えないのが現状です。

まずは上記で述べた失調症のどれに分類されるかを鑑別し、そこから障害をどこで代償して再構築していくかを考えていくことが大切です。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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