ストレッチングの効果とリハビリでの適応

近年ではその効果に疑問符が付けられているストレッチングですが、現時点における医学的な見解について解説していきます。

ストレッチングの種類

ストレッチングを大きく分けると、①動的ストレッチング(ダイナミックストレッチング)、②静的ストレッチング(スタティックストレッチング)の2つがあります。

①はラジオ体操などが該当し、身体を動かしながら反動を用いて筋肉を伸ばしていく方法になります。

それに対して②は、反動を用いることなく筋肉を伸張させた位置でしばらく静止し、ゆっくりと伸ばしていく方法です。

それぞれに短所と長所が存在しているため、上手く使い分けることがセラピストやトレーナーには求められます。

ストレッチングの効果

効果や目的としては、①筋長増大(筋節の増加)、②筋緊張低下(Ⅰb抑制)、③運動パフォーマンスの向上が挙げられます。

とくにスタティックストレッチングに関しては、①②の効果が高いために、リハビリ治療においても多用されます。

ダイナミックストレッチングに関しては、③の効果が高く、②が起こりにくいために筋出力を下げることはありません。

そのため、パフォーマンスが求められる運動をする前の準備体操として用いることで傷害予防の効果が期待できます。

筋出力が低下する?

従来は競技前にストレッチングを実施することで、傷害予防や運動パフォーマンスの向上に効果があるとされてきました。

しかし近年では、ストレッチング後は筋出力の低下を引き起こすことが報告されて話題となっています。

筋出力が発揮できない状態では、激しい運動でパフォーマンスが低下してしまい、傷害を起こすリスクは増します。

ただし、ここで述べているのはスタティックストレッチングであり、ダイナミックストレッチングに関しては該当しません。

また、あくまで実施直後に筋出力が低下するという報告であり、普段から実施することに対しては問題ありません。

ストレッチングは普段から実施する

運動前のストレッチングが傷害予防につながる可能性は低いのですが、柔軟性の低下が傷害につながることは周知の事実です。

例えば、足関節背屈制限と傷害発生率について調査したものでは、背屈可動域が正常の45度から10度落ちると傷害は2.5倍増加すると報告しています。

とくに足関節捻挫の発生率は5倍に跳ね上がるため、運動を習慣にしている方のアキレス腱伸ばしは非常に重要であることが伺えます。

結論を書くと、運動前にはダイナミックストレッチングを、普段はスタティックストレッチングを実施することが傷害予防につながります。

筋肉痛に効果なし

スタティックストレッチングを運動の前後に実施して筋肉痛との関係性を調べた実験では、運動後のほうが効果が高いことが報告されています。

ただし、その軽減効果はごくわずかであり、臨床的には意味のあるほどの差とは呼べないとの結論が付けられています。

この報告を考慮すると、運動後のストレッチングは短時間で終えるようにし、しっかりと身体を休ませることがより重要といえそうです。

柔軟性を向上させるメカニズム

スタティックストレッチングが筋長増大に効果があることは前述しましたが、筋長を伸ばすためには筋節を増やす必要があります。

筋節とは、筋肉が伸びるための滑走性を構成している部分であり、この筋節が増えることによって伸張性は増加します。

筋節を増やすためには筋腱移行部を集中的に伸張させることが重要で、そのために最も用いられる方法がスタティックストレッチングです。

ストレッチング中に等尺性収縮を行わせることにより、効果的に筋腱移行部に伸張刺激が加わって、筋節の増加を促通できます。

等尺性収縮による筋のストレッチ効果

最も筋節を増やすことができるのは、弱い負荷で長時間ストレッチングする方法が効果的とされています。

攣縮と短縮の違いについて

攣縮とは「意識とは関係なく筋の痙攣と虚血が生じている状態」であり、筋束の一部に有痛性の緊張増大が認められます。

スタティックストレッチングではⅠb抑制が働くために攣縮にも有効ですが、強度の場合は反対に防御性収縮が働いてしまいます。

そのため、まずは筋リラクゼーションにて攣縮を取り除き、その後にストレッチングしていくことが必要です。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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