長掌筋(palmaris longus)

長掌筋の概要

長掌筋の起始停止

  • 前腕前面浅層にある細長い筋。内側上顆起始 → 手掌腱膜停止(屈筋支帯にも一部移行)。

  • 役割は手掌腱膜の緊張手関節掌屈の弱い補助(肘屈曲もごくわずか補助)。

  • 欠損は比較的よくみられる解剖学的変異(日本人≈3–5%、欧米白人で≈10–20%報告)。欠損しても機能的支障は通常少ない。

  • 腱は靱帯再建の移植腱として頻用(例:内側側副靱帯再建〈トミー・ジョン〉など)。

基本データ

項目 内容
支配神経 正中神経
髄節  C7–C8(T1の寄与あり)
起始 上腕骨内側上顆(総屈筋腱)
停止 手掌腱膜(一部は屈筋支帯にも)
栄養血管 尺骨動脈の筋枝/前尺骨反回動脈 など
動作 手掌腱膜の緊張手関節掌屈の弱い補助
筋体積 10
筋線維長 7.1

手関節掌屈への貢献

手関節掌屈の主力尺側手根屈筋(FCU)橈側手根屈筋(FCR)
浅指屈筋(FDS)・深指屈筋(FDP) も手関節をまたぐため貢献しますが、長掌筋(PL)は小貢献です。
目安:FCU ≈ FCR > FDS ≈ FDP > PL


解剖とバリアント

  • 位置前腕前面中央の浅層

  • 腱の走行:手関節中央を通り手掌腱膜へ扇状に移行

  • 欠損・変異:先天欠損、逆走型、二腹型、palmaris profundus など。まれに正中神経の圧迫要因になることがあります。

触診方法

  1. 患者に拳を握らせる

  2. 手関節を掌屈させる

  3. 手首中央に腱が浮き上がる → これが長掌筋

※日本人の約5%で欠損しているため、浮き上がらない場合もあります。

手首で浮き出ている腱

拳を握りしめたときに手首に浮き上がっている腱は、中央部が手掌筋、親指側が橈側手根屈筋、小指側が尺側手根屈筋になります。

長掌筋のすぐ隣りで浅指屈筋腱の動きが触知できますが、やや深部を通過して屈筋支帯によって抑えられているため、長掌筋ほど浮き出ません。

ストレッチ方法

  • 肢位肘伸展前腕回外手関節背屈第2–5指MP伸展をゆっくり追加。

  • 時間20–30秒 × 2–3回、疼痛0–2/10で。

  • 狙い:手掌腱膜とPL腱‐筋単位の遠位張力を高めて伸張。

筋力トレーニング

  • PLを選択的に単独強化するのは困難。

  • 実用的には手関節掌屈(軽重量でフォーム重視)や、**パームカップ(手掌をすぼめる)**で手掌腱膜の緊張を意識。

  • 懸垂などの「ぶら下がり」は握力・前腕屈筋群全体が主で、PL単独のトレとしては非特異的です。

トリガーポイント(TP)

  • 主訴:手関節掌側〜手掌中央の突っ張り・灼熱感や前腕掌側のだるさで、ときに正中神経様のしびれ(母指〜中指)を伴う。

  • 誘因:手首の反復掌屈・強い握り(キーボード長時間+手首屈曲、スマホ保持、テーピング・包帯作業、家事でのしぼり動作)や前腕回内での固定姿勢の継続。


関連トピック

  • 移植腱:PL腱は機能的冗長性が高く、靱帯再建の自家腱として頻用(例:UCL再建(トミー・ジョン)、掌側板再建、尺側側副靱帯再建など)。

  • 障害:PL腱断裂は稀。変異筋や肥厚腱正中神経絞扼(手根管レベル)に関与する報告あり。

  • 臨床の注意:欠損例では「腱採取の選択肢が減る」点を術前に確認。


よくある質問(FAQ)

Q1. 長掌筋が欠損していても問題ありますか?
A. 通常の生活やスポーツ機能に大きな支障はありません。ただし自家腱再建の候補が一つ減る可能性はあります。

Q2. 触診を失敗しやすいのはどんな時?
A. 強すぎる握り込みや手関節背屈でFCR/FCUやFDSが優位になると見失いがち。母指‐小指出対立+軽い掌屈で中央の細い腱を確認しましょう。

Q3. 手関節掌屈に一番効く筋は?
A. FCUとFCRが主力です。PLは腱膜緊張役+軽い補助と捉えると臨床判断が安定します。


最終更新:2025-10-11