胸鎖乳突筋(sternocledomastoid:SCM)

この記事では、胸鎖乳突筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。

胸鎖乳突筋の概要

胸鎖乳突筋の起始停止

胸鎖乳突筋は頸部外側表層に位置する筋肉で、sterno(胸骨)、cleido(鍵)、mastoid(乳様突起)から構成されます。

頭部を回旋した際に首元で大きく浮き出る筋肉で、頸部の動きに関与しますが頸椎に付着していないことが特徴です。

天井を見上げるような長時間の同姿勢(天井の張り替え作業)、追突事故やスポーツなどによる頭部の後方への急な伸展で損傷します。

通常、むち打ち症で痛みを訴えるのは通常は後頸部ですが、後頚部の筋肉よりも前頸部の胸鎖乳突筋や斜角筋のトリガーポイントが強く影響していることが多いです。

基本データ

項目

内容

支配神経 副神経、頚神経叢
髄節 C1-2又はC1-3
起始 胸骨頭(胸骨柄の上縁)、鎖骨頭(鎖骨内方の1/3
停止 側頭骨の乳様突起、後頭骨の上項線
栄養血管 後頭動脈、上甲状腺動脈
動作 頸部の回旋(反対側),側屈(同側),屈曲

努力性吸気

筋体積 36.6
筋線維長 12.6
速筋:遅筋(%) 64.835.2

運動貢献度(順位)

貢献度

頸部側屈

頸部回旋

1 胸鎖乳突筋 胸鎖乳突筋(反対側)
2 斜角筋群 板状筋群(同側)
3 脊柱起立筋 脊柱起立筋
4 板状筋群 回旋筋

胸鎖乳突筋の触診方法

胸鎖乳突筋

写真では、頸部を回旋することによって首元に浮き出た胸鎖乳突筋を筋腹から停止部にかけて触診しています。

頭部(停止部)が固定されることによって胸骨・鎖骨(起始部)が引き上げられ、胸郭が拡大するので努力性吸気にも関与しています。

SPO2が低下して呼吸苦と隣り合わせにいる患者では、なにもしていない状態でも胸鎖乳突筋が顕著に浮き出ている場合も多いです。

ストレッチ方法

胸鎖乳突筋のストレッチング

手で後頭部を引き寄せ、頸椎を伸展・側屈させていきます。胸骨部を伸張する場合はより伸展角度を大きくして実施します。

筋力トレーニング

筋トレ|タオル・ネック・サイドフレクション|胸鎖乳突筋

側頭部にタオルを引っ掛けて抵抗をかけながら、頸椎を側屈させていきます。

トリガーポイントと関連痛領域

胸鎖乳突筋の関連痛領域はトリガーポイントの位置で異なり、近位では耳介・耳介後方・顔面に痛みが放散し、遠位なら肩や胸壁に放散します。

交通事故などのむち打ち症で発生する場合が多いので、交通事故後の患者は必ずチェックしてください。

頸部には重要な血管や神経が多く走行しているため、あまり無闇に刺激を加えるとかえって痛みが増してしまう場合もあります。

そのため、マッサージをする際は非常にマイルドな刺激で実施し、しびれなどの症状に注意しながら行う必要があります。

方法として、胸鎖乳突筋は二指圧迫法(母指と示指でつまむ)を用いて、少しずつ指先をずらしながら筋全体に圧をかけていきます。

そのプロセスの中でトリガーポイントを発見したら、その都度に持続圧迫を加えてリリースしていきます。

アナトミートレイン

胸鎖乳突筋はSFL(スーパーフィシャル・フロント・ライン)の筋膜経線につながる筋肉であり、身体前面浅層において重要な筋肉になります。

SFLが機能することにより、体幹と股関節の屈曲、膝の伸展、足の背屈といった全体的な運動がスムーズに連鎖します。

胸鎖乳突筋に過度な緊張が認められる場合もあり、筋膜の歪みを起こして腹直筋や大腿四頭筋の滑走性を低下させる原因にもなります。

関連する疾患

  • むち打ち症
  • 先天性筋性斜頚
  • 副神経麻痺
  • 慢性呼吸器疾患
  • 平衡感覚障害
  • 視覚障害 etc.

先天性筋性斜頚

先天性筋斜頚は、胸鎖乳突筋に発生する腫瘤が原因とされており、多くは自然に治癒することが報告されています。

そのため、むやみに胸鎖乳突筋をマッサージしないことが原則であり、改善しないケースでは腱切離術が実施されます。

平衡感覚障害

鎖骨頭のトリガーポイントの独特な症状に、めまい、吐き気を引き起こし、まっすぐ立てなくなったり、突然気を失うなどがあります。

めまいはメニエール病と診断されやすく、数分で治まる事もあれば、数時間、数日と続くこともあります。

難聴を引き起こすことも知られており、この症状は、小さなアブミ骨筋と鼓膜張筋の緊張状態が関連すると考えられており、内耳の振動を阻害することで生じます。

視覚障害

胸骨頭のトリガーポイントの独特な症状に、色覚障害、かすみ目、複視などがあります。

また、眼輪を取り巻く眼輪筋に痙攣を生じさせ、眼瞼下垂を引き起こします。

これらの障害以外にも多くの症状が出現するといわれており、持続性のある乾いた咳、鼻腔や喉などの粘液分泌過剰による鼻詰まり、前頭部の冷や汗、重量感覚の認識障害など多岐にわたります。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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