烏口鎖骨靭帯の概要

CCLは菱形靱帯(Trapezoid)と円錐靱帯(Conoid)の2束からなる肩鎖関節の最重要安定化構造です。縦方向・前後方向のズレを抑え、肩甲骨を鎖骨に“つり下げる”役割を担います。肩甲上腕リズムの中では、肩甲骨上方回旋に伴って鎖骨の後方回旋(posterior rotation)を誘発し、オーバーヘッド動作の末期で肩峰クリアランスを確保します。
役割の要点(まずここ)
- 肩鎖関節の主たる靱帯性安定化(とくに縦方向)。
- 鎖骨の過度な上方移動と肩甲骨の内外転に伴う過剰移動を制御。
- 肩甲骨上方回旋で張力増大 → 鎖骨後方回旋を誘発(肩甲上腕リズムの要)。
解剖(2束の違い)
菱形靱帯(Trapezoid ligament)
| 項目 | 内容 |
| 起始 | 烏口突起 上内側〜外側域(烏口突起の外寄り) |
| 停止 | 鎖骨 菱形靱帯線(trapezoid line) |
| 機能 | 前後・内外方向のズレ制御、鎖骨の上方移動抑制。 肩甲骨の内転/下方回旋・プロトラクションで緊張しやすい。 |
円錐靱帯(Conoid ligament)
| 項目 | 内容 |
| 起始 | 烏口突起 基部 |
| 停止 | 鎖骨 円錐靱帯結節(conoid tubercle) |
| 機能 | 垂直方向(縦)の安定化の主役、鎖骨の上方移動抑制。 肩甲骨の上方回旋・挙上で強く緊張 → 鎖骨後方回旋を誘発し、肩峰下スペースを拡大。 |
まとめ:円錐=縦(上方)を主に止める・上方回旋で緊張/
菱形=前後・内外方向のズレを締める・内転やプロトラクションで緊張
機能解剖と棘鎖角
- 烏口突起尖端が下方へ動く(=肩甲骨下方回旋)と菱形靱帯が緊張。
- 烏口突起基部が下方へ動く(=肩甲骨上方回旋)と円錐靱帯が緊張。
棘鎖角=肩甲棘の長軸と鎖骨長軸がなす角(冠状面)。
下垂位で平均56°、150°外転位で平均70°。
棘鎖角の減少を制限=菱形靱帯、増大を制限=円錐靱帯が担う。
関連病態・臨床での見どころ
- 肩鎖関節脱臼(AC separation):
Grade II=AC靱帯断裂+CCL温存/Grade III=AC+CCL断裂で鎖骨上方偏位が顕著。
触診で鎖骨遠位端の段差、徒手ストレスで疼痛・不安定性。 - 肩関節周囲炎:肩甲胸郭・肩鎖の可動性低下に伴い、CCLが二次的に高緊張→肩甲骨の上方回旋・後傾が出にくくなる。
- 機能不全:肩甲骨上方回旋不足/後傾不足、鎖骨後方回旋不足が挙上末期痛やインピンジメントに波及。
触診のコツ(臨床手順)
菱形靱帯
- 座位・腕下垂で、鎖骨と烏口突起の間隙に指を当てて烏口突起に沿って内側へ進める。
- そのまま肩甲骨を下方回旋させると緊張が高まり触知しやすい。
上方回旋させると緊張が消えて触れにくくなる。
円錐靱帯
- 烏口突起の上縁に沿って内側へ指を進め、基部の屈曲部を探る。
- 肩甲骨を上方回旋させると緊張が高まり触知しやすい。
下方回旋では緊張が減り触れにくくなる。
リハビリの実践ポイント
- 痛みを落とす・保護する:急性期のAC障害はスリングで安静位、挙上末期は回避。
- 肩甲胸郭と鎖骨の“ペア”再学習:
下部僧帽筋×前鋸筋で上方回旋・後傾促通/座位エクステンションやフォームローラーで胸椎伸展、
鎖骨後方回旋を意識した壁スライド/Yレイズ(無痛域)。 - 軟部組織:小胸筋・広背筋の短縮を解放し、肩甲骨後傾・外転の妨げを除去。AC周囲の強い圧刺激は回避。
- 段階的強化:腱板(棘上・棘下)と肩甲帯筋を低負荷高頻度で賦活 → 求心位挙上の学習。
- フォーム修正:反復オーバーヘッドは初期外旋・肩甲骨先行を徹底、僧帽上部の過緊張を抑える。
外科的トピック(整形外科的治療の整理)
保存療法:外固定(スリング等)+漸進的リハビリが基本。
修復術:断裂組織の縫合と一時的固定(例:Phemister変法=縫合+Kirschner鋼線固定、Bosworth法=鎖骨-烏口突起スクリュー固定)。
再建術:断裂靱帯は縫合せず、別組織で支持性を再獲得(例:Dewar法=烏口突起を付着筋ごと移行、Neviaser法=烏口肩峰靱帯を肩鎖靱帯代用)。
リハの要点:どの組織がどう操作されたかを把握し、術式に応じて可動域と負荷を段階設計。
よくある質問(Q&A)
Q1. CCLは“動かない靱帯”ですか?
A. いいえ。肩甲骨の回旋やプロ/リトラクションで明確に張力が変化します。円錐は上方回旋で強く緊張し鎖骨後方回旋を引き出します。
Q2. 縦方向の安定に効くのはどっち?
A. 円錐靱帯が主役。菱形は前後・内外方向のズレ制御に強い。
Q3. AC分離(Grade II/III)では何が壊れますか?
A. Grade II=AC靱帯断裂でCCL温存、Grade III=AC+CCL断裂。IIIでは鎖骨上方偏位が大きく、外科適応の検討対象になりやすい。
Q4. インピンジメント患者でCCLそのものをリリースしますか?
A. 原則しません。まずは肩甲胸郭の可動性改善(上方回旋・後傾)と胸椎伸展、鎖骨後方回旋が自然に起こる動きを優先します。
Q5. 棘鎖角は評価に使えますか?
A. 指標として有用です。下垂位≈56°/150°外転位≈70°が目安。角度の出方と痛みの再現を併せて解釈してください。
最終更新:2025-11-06