脳血管性認知症/多発性脳梗塞のリハビリ治療

脳血管性認知症/多発性脳梗塞のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

脳血管性認知症の概要

脳血管性認知症(Vascular Dementia:VaD)は、脳梗塞や脳出血により、脳血管に異常が起きた結果、認知症になるものを指します。

その多くは、穿通枝動脈が硝子変性を起こして閉塞するという過程をとり、その後遺症として蓄積されながら進行していきます。

障害された部位によって症状は異なりますので、麻痺や感覚障害などの神経症状を含め、障害された機能と障害されていない機能が混在しています。

高齢者の男性に多く、初期には自覚症状が乏しいのが特徴です。

脳血管性認知症のMRI画像所見

引用元:循環器画像技術研究会

他疾患との鑑別方法

アルツハイマー病との鑑別

  1. 局所的神経徴候(片麻痺、一肢の筋力低下、腱反射の亢進など)
  2. 歩行障害や尿失禁の早期出現(ADは後期まで歩行が保たれやすい)
  3. 脳血管障害の危険因子の既往(高血圧、心疾患、糖尿病など)
  4. 記憶力低下は軽度であるが、遂行能力低下が重度な症例が多い
  5. 語想起、呼称、復唱の障害が多い(ADは主に文法理解力の障害)
  6. 行動の遅滞、うつ、不安症状がADと比較してより強い
  7. 病識や判断力が保たれやすい
  8. 突然発症、急激な憎悪、階段状の進行
  9. 人格は保たれやすい(無感情、自己中心性、病前性格先鋭化が多い)

パーキンソン病との鑑別

  1. 日内変動は少ない(up-down現象なし)
  2. 安静時振戦はほとんどない
  3. 小刻みでワイドベース歩行(突進現象、加速現象は起こりづらい)
  4. 麻痺性構音障害、偽性球麻痺などが起こりやすい
  5. 70代以降の高齢者に多い(パーキンソン病は40-50代から起こり始める)
  6. 認知症の併発が多い
  7. L-dopaの反応不良

認知症の中で最も多いとされるのがアルツハイマー病(AD)で、その割合は全体の40-50%になります。

また、アルツハイマー病に脳血管性認知症を併発してしまうと、混合型認知症に分類され、明確な鑑別ができないケースも多々あります。

混合型は、アルツハイマー病の約15%に発生しているとされます。

認知症の分類

1.変性型認知症
【皮質性】アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型、ピック病
【皮質下性】進行性核上麻痺、パーキンソン病、皮質基底核変性症
【辺縁型】神経原線維変化優位型老年期認知症
2.脳血管性認知症
皮質病変型
皮質下病変型
特定部位
血管炎(全身性エリテマトーデスなど)
3.脳内病変
【圧迫】正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳膿瘍
【感染】ヘルペス脳炎、AIDS脳症、プリオン病(Creutzfeldt-Jakob病)
【自己免疫疾患】多発性硬化症、神経ベーチェット病
【外傷】頭部外傷後遺症
4.全身性疾患に伴うもの
内分泌・代謝性
ビタミンB1・B12欠乏
中毒
低酸素

認知症の診断

認知症の診断では、せん妄との鑑別が重要です。

精神的ストレスが高まった状態や、低栄養・脱水、薬剤の副作用でもせん妄による認知症様症状が出現することに留意しておく必要があります。

国際疾病分類第10版(ICD-10)の認知症診断ガイドラインでは、以下の6つを診断基準としています。

  1. 生活に支障を生じるほどの記憶と思考の障害
  2. エピソード記憶、特に近時記憶の障害
  3. 思考と判断の障害
  4. 注意集中・分散の障害
  5. 意識清明
  6. 6ヶ月以上の障害継続

画像診断

頭部CTやMR検査Iを行うと、脳卒中の既往、多発性脳梗塞、大脳白質に広範な虚血性変化、前頭葉や側頭葉の萎縮などがみられます。

また、明確な脳梗塞が発症していなくても、血管の狭窄や閉塞により、脳血流量が低下していることで認知症を発症している場合もあります。

そのため、脳の血管や血流を調べる脳血流シンチグラフィー、脳血管造影などの検査も有用となります。

脳梗塞の再発予防が重要

脳血管性認知症に伴う記憶障害や認知機能障害に関しては、現在のところ改善させる確実な方法はありません。

そのため、再発の予防と症状への対症療法が治療の中心となります。

脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などを適切にコントロールすると共に、再梗塞を予防するための薬剤が服用されます。

脳血管障害に伴うパーキンソニズムに関しては、脳代謝改善薬や脳循環改善薬が有効な場合もあります。

抗パーキンソン薬も症例によっては有効な場合もみられますが、L-dopaは基本的に無効です。

また、症状によっては抗うつ薬などが処方される場合もあります。

VaDは運動療法の効果が高い

アルツハイマー病と比較して、VaDは運動による進行リスクの軽減が認められており、梗塞巣を増やさないためにも運動療法は有効です。

また、新規梗塞に対しては改善の余地があるため、脳卒中のリハビリと同様に、細かなアプローチ方法を検討していく必要があります。

VaDの特徴的な症状に行動の遅滞やうつ状態、不安症状などがあり、リハビリに対して拒否的な場合も少なくありません。

なので、本人の性格を加味した上で、上手く誘導していくことがセラピストには求められます。

早期の歩行障害が特徴のため、本人や家族が転倒を恐れて寝たきり状態となり、廃用の進行を助長しているケースも多く見受けられます。

そのため、全体の活動量が落ちすぎないように注意し、症状に合わせて生活をデザインしていくことも大切な要素になります。

リハビリテーション

1.生活環境設定
物的環境(室内備品、トイレ、共有場所レイアウトなど)の調整
人的環境(キーパーソン、部屋割り、グループへの所属)の調整
環境変化に柔軟な対応ができない場合が多いため、指導の仕方は大きく変更しない
食事や軽運動、睡眠など規則正しい生活習慣を身につける
2.運動療法
有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせた低強度の運動
運動強度は予測最大心拍数の55-65%、1日20-60分間、週3-5回の実施
運動プログラムが定着するように反復して実施する
風船バレーや輪渡しなどの集団レクリエーション活動
矛盾歩行に関しては、階段などの利用が有効な症例もみられる
3.心理療法・趣味活動
回想法、RO、動物療法、子供とのふれ合い、音楽療法、陶芸療法など
絵画、カラオケ、昔遊んだ簡単な遊びなど
心筋灌流の改善
冠動脈、末梢動脈血管内皮機能の改善
骨格筋ミトコンドリア密度と酸化酵素の増加、Ⅱ型からⅠ型への筋線維型を再変換

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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