上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)のリハビリ治療

上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)のリハビリ治療について解説していきます。

ゴルフ肘の概要

ゴルフ肘は上腕骨内側上顆に起始する筋肉を過剰に使用することで、起始部に炎症が起こっている状態を指します。

好発年齢は30-50代で、ゴルフをされている方々に多く発症することからゴルフ肘とも呼ばれます。

また、主婦や手をよく使う労働環境などでも発症します。

肘関節|上腕骨内側上顆炎

似たような名前で「テニス肘」という症状がありますが、こちらは上腕骨外側上顆に炎症が起きている状態になります。

ゴルフ肘はテニス肘に比べて発生頻度は低いとされており、その理由として、手関節の掌屈筋群は背屈筋群より強いためだと考えられています。

付着する筋肉の数は上腕骨内側上顆が5つ、上腕骨外側上顆が7つとなっています。

上腕骨内側上顆 上腕骨外側上顆
円回内筋 総指伸筋
浅指屈筋 肘筋
長掌筋 小指伸筋
橈側手根屈筋 回外筋
尺側手根屈筋 尺側手根伸筋
長橈側手根伸筋
短橈側手根伸筋

ゴルフ肘という名前で覚えない

内側上顆炎はゴルフ肘で外側上顆炎はテニス肘と呼ばれたりしますが、実際はテニスによって内側上顆炎を発症することもあるので、名前で覚えると混乱を招きます。

テニスでボールを打つ動作は、フォアハンドとバックハンドがありますが、フォアの場合は内側上顆に、バックの場合は外側上顆に負担がかかります。

そのため、テニス業界では内側上顆炎を「フォアハンドテニス肘」、外側上顆炎を「バックハンドテニス肘」と言い分けたりもします。

また、内側上顆炎のことを野球肘と呼ぶこともありますし、実際には野球で外側上顆炎となる場合も多いです。

そのような観点から医療者間で情報を伝達する際は、ゴルフ肘やテニス肘という言葉は使わずに、内側上顆炎か外側上顆炎かで伝えることが大切です。

肘関節|内側上顆炎②

炎症を起こしている筋肉を鑑別

内側上顆に付着する筋肉は、①円回内筋、②橈側手根屈筋、③長掌筋、④尺側手根屈筋、⑤浅指屈筋の五つがあります。

これらの筋肉に炎症が起こった場合、前腕の回内、手関節の掌屈、手指の屈曲時などに痛みを発することになります。

各筋肉で主力となる動作は異なりますので、どの動作で痛みが起こるかを評価することで原因の筋肉を特定していきます。

ちなみに長掌筋は動作への貢献度が低い筋肉なので、ほとんど問題となりません。

疼痛動作 原因の筋肉
前腕回内 円回内筋,橈側手根屈筋
手関節橈屈 橈側手根屈筋
手関節尺屈 尺側手根屈筋
手関節掌屈 浅指屈筋,尺側手根屈筋
手指屈曲 浅指屈筋
上腕骨内側上顆に付着する筋肉

整形外科検査

1.Wrist flexion test
手関節の屈曲運動に対して徒手的に抵抗を加える
浅指屈筋や尺側手根屈筋に問題がある場合に陽性となる
2.Forearm pronation test
前腕の回内運動に対して徒手的に抵抗を加える
円回内筋および橈側手根屈筋に問題がある場合に陽性となる

日本整形外科学会の診断基準

  1. 抵抗性手関節掌屈運動で肘内側に疼痛が生じる
  2. 内側上顆の屈筋群腱起始部に最も強い圧痛がある
  3. 腕撓関節の障害など屈筋群起始部以外の障害によるものは除外する

重症度と復帰目安

1.軽度の場合
握力が健側の2/3以上
ゴルフ後や練習中にたまに痛む
復帰までは1-4週間
2.中等度の場合
握力が健側の2/3以下
練習中はいつも痛む、ドアノブをひねる動作でも痛む
復帰まで1ヶ月以上は要する
3.重度の場合
握力が健側の1/3以下
ゴルフクラブを握るだけで痛みが出る
復帰まで2ヶ月以上を要する

リハビリテーション

上腕骨内側上顆炎は筋膜障害で起こっているケースもあるため、上記のラインはしっかりとリリースするようにします。

具体的には、尺骨掌側の内側縁にセラピストの指先を当て、骨と屈筋群の間に隙間を作るようなイメージで差し込みます。

圧を加えた状態で患者に手指の屈伸運動を10回行ってもらい、痛みが軽減するようなら、さらに末梢に加圧する場所を変えて再度実施します。

筋膜が痛みに強く関与しているようなら、癒着を剥がすようなイメージで行うことにより、疼痛の除去が期待できます。

また、内側上顆に付着している筋肉をストレッチすることにより、血行の改善と癒着などの二次障害の予防ができます。

①四つ這いになり、両手の指先を後方に向け、上体をゆっくり後方に引きます。前腕を最大回外位にすることで、より効果的に伸張していきます。
円回内筋,ストレッチ,方法
②ストレッチ側の手を肘伸展、前腕回外、手背屈位として、もう片方の手を手指MP関節に置いてさらに手関節および手指を背屈させていきます。
長掌筋,ストレッチ,方法,手関節背屈

安静指導(エルボーバンド)

患部の安静のためには、前腕回内と手関節掌屈動作を控えることが重要です。

前述した徒手検査にて、主な原因部位がどの筋肉であるかを確認し、作用する方向を制限していきます。

例えば、浅指屈筋に主な原因がある場合は、手首サポーターを使用して手関節の掌屈を制限すると有用です。

また、エルボーバンドを装着することで痛めている筋肉を持続圧迫することにより、疼痛の軽減および浮腫発生の抑制も期待できます。

こちらはあくまで除痛目的なので、痛みがやわらいだからといって同じ動作を繰り返していたら根本的な解決とはなりません。

なので、どうしても腕を使用することが必要なときに、痛みへの対処法として一時的に使用することがお勧めです。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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