多裂筋の概要
多裂筋は、脊椎全体にわたって存在する深層筋で、一見すると長く伸びる大きな筋のように見えますが、実際は細かい筋束が連続して並ぶ構造をしています。
脊柱起立筋が「脊柱をユニットとして伸展」させるのに対し、多裂筋は分節的な動きや安定化に関与するのが特徴です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 脊髄神経の後枝 |
| 髄節 | 全脊椎レベル |
| 起始 | 腰椎:各椎の乳頭突起、後仙腸靱帯、仙骨背面、上後腸骨棘 胸椎:横突起 頸椎:下位頸椎(C4–C7)の関節突起・椎間関節包 |
| 停止 | 起始から2–4椎体上の棘突起(長い束ほど上位に付着) |
| 動作 | 伸展・反対側回旋・同側側屈・分節安定 |
| 筋体積 | 約71㎤ |
| 筋線維長 | 約6.7㎝ |
表層部と深層部での作用の違い
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表層線維:仙骨・腸骨など広い起始→長い走行。腰仙移行部(L5/S1)や仙腸関節の張力制御・求心性保持に寄与。
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深層線維:椎から椎へ短距離の付着。椎間関節の関節包保護・剪断抵抗・微小回旋の制御に優位。
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臨床の目安:
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椎間関節性疼痛が前景 → 深層線維の活性化不全を疑う
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仙腸関節性痛/筋・筋膜性腰痛 → 表層線維の過緊張・攣縮やタイミング不良を疑う
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触診方法
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触診:多裂筋は脊柱起立筋の深層にあり直接触診は困難。ただし下位腰椎(L4–S1)は多裂筋が相対的に厚く、起立筋外側縁と棘突起の間を垂直圧で間接的に同定しやすい。
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厚みの傾向:**中位腰椎では起立筋:多裂筋 ≈ 1:1、下位腰椎では多裂筋優位(〜8割近い印象)**とされます(個人差あり)。
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機能評価:軽負荷での股関節外旋/殿筋収縮に同期して、**同側腰部の“深部のふくらみ”**がタイムリーに出るか(遅延は機能低下の示唆)。
ストレッチ方法

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体位:仰臥位
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方法:両膝抱えで腰椎屈曲を十分に誘導。過伸展位で痛みが出るレベルをピンポイントで屈曲させる意識。
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注意:過度の後傾+胸椎過屈曲になりすぎないように。**カイホロードシス(過前弯)**では短縮しやすく、呼吸を同期して徐々に解放。
筋力トレーニング

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バードドッグ(四つ這いで対角挙上):骨盤の水平維持・腰椎のニュートラルを最優先。反動を避け2–3秒静止 × 8–12回。
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腹臥位キューイング:棘突起外側に触圧を置き、呼気で下腹部セット → 軽い股関節伸展で**深部だけ“ふくらむ”**感覚を学習。
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回避したい汎用トレ:エルボー・トゥ(プランク)は外側筋群(腹斜・広背・大殿筋)優位となりやすく、多裂筋の選択性が下がる。
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ポスチャーメモ:フラットバックでは多裂の収縮不全が生じやすい。胸郭伸展・骨盤前傾の可動性を並行改善。
トリガーポイント(TP)

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主訴:脊柱起立筋沿いの局所的な深部痛・こわばり、患部近くの棘突起周囲にピンポイントで響くような痛み(腰背部〜頸部どこでも)。
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誘因:同一姿勢での長時間座位・立位、急な前屈やねじり、脊椎周囲の微小外傷/術後固定による分節運動低下、体幹筋のアンバランスで一部の椎間レベルに負荷が集中したとき。
関連しやすい病態(鑑別の起点)
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椎間関節障害
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仙腸関節障害
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筋・筋膜性腰痛
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腰部コンパートメント症候群(稀だが念頭に)
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腰部脊柱管狭窄症の二次的安定化不全 など
よくある質問(Q&A)
Q1. 多裂筋が弱るとどうなる?
A. 分節安定性の低下で椎間関節の剪断ストレスが増し、腰痛・椎間関節性疼痛が出やすくなります。
Q2. 効率よく鍛えるには?
A. 低負荷・選択的収縮が鍵。バードドッグや腹臥位での軽い股関節伸展+ローカル筋セットを丁寧に反復。
Q3. 触診はできる?
A. 間接的には可能。下位腰椎で起立筋外側縁と棘突起の間を垂直圧し、**等尺性の“深部のふくらみ”**を感じ取ります。
Q4. ストレッチは?
A. 両膝抱えで腰椎屈曲を誘導。痛み手前で止め、呼吸同調で緩めます。
最終更新:2025-10-15


