内臓マニピュレーションとは
内臓マニピュレーション(Visceral Manipulation)は、徒手で臓器まわりの滑走(グライド)と動きを整え、姿勢・呼吸・体幹運動の効率を高めることを狙うアプローチです。関節や筋だけでは改善しにくい体幹可動域の制限、慢性腰背部の張り、呼吸の浅さなどに“間接因子”として関与する内臓‐筋膜連鎖へ目を向けます。
3つの性質(用語の整理)
| 用語 | ねらい | 具体例 |
|---|---|---|
| 移動力(Mobility/Excursion) | 体幹運動や呼吸に伴う臓器の移動のしやすさ | 右側屈で肝・胃が左へスムーズに“逃げる” |
| 可動力(Glide/動きの自由度) | 臓器と横隔膜・腹壁・隣接臓器の間での滑走 | 癒着・瘢痕での引きつれを減らす |
| 自動性(Motility/自発的微小運動) | 臓器自身の自発的微小運動への配慮 | 拍動・蠕動・組織の張力変化など |
※「自動性」は仮説的説明が含まれます。呼吸誘導や滑走の改善など、客観的に再評価できる所見を優先しましょう。
なぜ臓器に触れるのか(臨床的背景)
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膜連続性(筋膜‐臓器系):横隔膜・腹壁・後腹膜を介し、胸郭運動や体幹伸屈・側屈の効率に影響。
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内臓‐体性反射:内臓ストレスが筋緊張や痛覚過敏に波及しうる。
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術後瘢痕や炎症後の癒着:滑走低下→牽引痛・姿勢代償を助長。
エビデンスの位置づけ:VMは臨床報告が増えつつある一方、高質な大規模試験はまだ限られ、効果量は小〜中等でばらつきがあります。単独の万能法ではなく、運動療法・呼吸訓練・教育と併用する補完的手段として捉えるのが安全です。
安全第一:禁忌・レッドフラッグ
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急性腹症、発熱・悪寒、激しい圧痛/反跳痛、黒色便/血便、原因不明の体重減少
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腹部大動脈瘤疑い、妊娠初期への深圧、術後早期、活動性炎症(IBD増悪など)
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抗凝固療法中の深部強圧は避ける
→ これらは医療機関の評価が優先。VMの適応外です。
評価の流れ(シンプル版)
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病歴と禁忌スクリーニング(上記のレッドフラッグ)。
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姿勢・呼吸の観察:胸郭挙上型/腹式の偏り、側屈・回旋での制限側を特定。
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腹部観察・軽圧触診:温度、防御、鼓腸、瘢痕の張り。
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滑走テスト:呼気でそっと沈み、吸気で手を滑らせられるかを確認(痛みはNG)。
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機能的関連の確認:軽い介入→即時の再評価(体幹ROM/呼吸量/症状)。変化の出る部位を“鍵”とみなす。
チャップマン反射点(補助ツールとして)
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概要:1930年代に提唱された神経リンパ反射点。押圧で小豆大の索状/点状の過敏点を探り、臓器領域の機能低下の手掛かりに。
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触れ方:一本指で軽圧し、20–30秒のやさしい円運動。痛みを出さない。
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注意:診断確定には使えません。病歴・所見と総合し、治療“導入口”として活用。
介入の考え方(安全な基本)
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原則:軽圧・痛みゼロ・呼吸同期。吐くときに沈み、吸うときに“待つ”。
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順序の例:
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横隔膜ドーム(肋弓下で呼気時に軽く誘導)
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腹壁・瘢痕の滑走(皮膚―皮下―筋膜の層でやさしく)
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臓器周囲のグライド(結腸間膜/肝・胃の“逃げ道”づくり)
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再評価:体幹側屈・回旋、胸郭拡張、痛みの即時変化で効果判定。変わらなければ介入部位/強度を見直す。
自宅でできる安全なセルフケア
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360°腹式呼吸:背臥位で鼻吸気3–4秒/口呼気6–8秒、5分×2回/日。
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肋骨ハグ呼吸:吐くとき両側胸郭を軽く抱え内下方に誘導。
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やさしい体幹モビリティ:キャット&カウ、側臥位オープンブック(各10回)。
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生活:食後30–60分は腹部の強い圧迫を避け、水分と適度な歩行を。
よくある質問(Q&A)
Q1. どんな人に向いていますか?
A. 関節・筋への介入だけで体幹可動や呼吸が伸びにくいケース、術後瘢痕の張り感、姿勢に伴う慢性腰背部の張りなどで“補助的に”検討します。
Q2. 痛みは出ませんか?
A. 痛みを出さない軽圧が原則です。疼痛が出る強圧・深圧は適応外。不快感があれば即中止します。
Q3. 何回くらいで効果がわかりますか?
A. 個人差があります。各セッションでROM・呼吸量・症状の即時指標を設けて変化を確認。変化が乏しければ方針転換します。
Q4. チャップマン点だけで臓器の異常はわかりますか?
A. いいえ。診断ツールではありません。病歴・身体所見・必要な医療検査が優先です。
Q5. エビデンスは?
A. 小規模研究はあるものの、高質なエビデンスはまだ限定的。過大な効果を約束せず、運動療法や教育と組み合わせて用いるのが現実的です。
最終更新:2025-09-20

