肩甲上腕リズムが崩れる?上肢帯の固定力が低下?

要点(まずここ)

  • 肩関節180°外転の総和はおおよそGH(肩甲上腕)120°+ST(肩甲胸郭=肩甲骨)60°2:1は“結果の比率”。

  • 実際は角度帯で貢献度が変わり、**肩甲骨は一貫して「上方回旋・後傾・外旋」**していく。

  • 挙上できない多くの症例は、上部僧帽筋・肩甲挙筋の優位と、下部僧帽筋+前鋸筋(=上方回旋カップル)の不足がセットで起きている。


肩甲上腕リズム:角度帯で何が起きている?

(※簡略化した臨床向け目安)

外転角度 GH(上腕) 肩甲骨(ST)主動作 鍵になる筋
0–30° GH優位(いわゆる“スキャプラセッティング”期) 微小な上方回旋・後傾の準備 棘上筋+三角筋開始、前鋸筋の初期活性
30–90° 両者協調 上方回旋が顕著、後傾・外旋が増す 前鋸筋+下部僧帽筋(上方回旋カップル)、中部僧帽筋はリトラクション制御
90–120° ST寄与が相対↑ 更なる上方回旋・後傾 下部僧帽筋と前鋸筋の同調が決定的
120–180° 2:1の総和に収束 鎖骨の後方回旋も関与 上方回旋カップル+回旋筋腱板の遠心制御

どこがどう崩れているのか(典型パターン)

パターンA:上部僧帽筋・肩甲挙筋の優位

  • 所見:60–90°付近ですくめ挙上、肩甲骨が上方回旋せず「ただ持ち上がる」

  • 結果:肩峰下スペース減少→痛み/引っかかり90°以下で頭打ち

  • 対応:上部僧帽筋の抑制下部僧帽筋・前鋸筋の促通

パターンB:前鋸筋の遅発/弱化

  • 所見:外転中に肩甲骨が前方傾き/内旋し、肩峰下インピンジ徴候

  • 結果:終末域にいくほど痛み・代償、フォーム破綻

  • 対応:前鋸筋の上方回旋・後傾方向の働きを学習(壁スライド、セラタスパンチ)

パターンC:中部僧帽筋が制御不足(+菱形筋過剰)

  • 所見:肩甲骨が過前方化し上腕骨頭が前上方へ、上方回旋が伸びない

  • 結果:可動域と耐久性が上がらない

  • 対応:中部僧帽筋で“引きすぎず支える”、菱形筋は過緊張なら抑制


まず鍛えるべき筋(順序が命)

  1. 抑制:上部僧帽筋・肩甲挙筋(ソフトティシュー/肩甲帯の“すくめ”抑制)

  2. 促通

    • 下部僧帽筋(肩甲骨**下制ではなく“後傾+上方回旋の方向”**で)

    • 前鋸筋上方回旋+後傾+外旋に寄与する収縮を学習)

  3. 制御中部僧帽筋リトラクション“固定”ではなく“動きの中の安定”

  4. 統合:三角筋・腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の協調で上腕骨頭の求心位を維持


そのまま使えるエクササイズ処方(痛みゼロを前提)

  • 壁スライド with 後傾キュー

    • 前鋸筋:壁に前腕を当て上にスライド。途中で「肩甲骨の下角を前上方へ送る=上方回旋」「胸を軽く持ち上げる=後傾」を意識。

  • プローンY(120–140°、母指上)

    • 下部僧帽筋:腰を反らさず胸椎伸展を少し、肩甲骨は下制“しすぎず”後傾・上方回旋方向へ。

  • セラタス・パンチ(仰臥位/立位)

    • 前鋸筋:肘軽屈曲で**肩甲骨の外側移動ではなく“後傾を伴う前方突出”**をキュー。

  • バンド外旋+壁接触(90°外転位)

    • 腱板:上腕骨頭を前上方へ滑らせない意識で外旋。

  • サイドライイング外転 120–150°でアイソメ(あなたの案を微修正)

    • “すくめ禁止”肩甲骨の後傾と下部僧帽筋の張りを触覚フィードバック。三角筋に丸投げしない。

コツ:「下制させる」よりも「上方回旋と後傾を作る」が正解。下制を意識し過ぎると菱形筋・広背筋が入り上方回旋が止まりやすいです。


すぐできる鑑別テスト(現場で便利)

  • SAT(Scapular Assistance Test):治療者が上方回旋+後傾を手で補助して外転。痛み/挙上が改善すれば前鋸筋/下部僧帽筋の不足が示唆。

  • SRT(Scapular Retraction Test)軽いリトラクションで肩甲骨を安定させると挙上力が上がる→中部僧帽筋の制御不足腱板の二次的不利を示唆。

  • 胸椎伸展可動性テスト:胸椎の伸展制限は肩甲骨後傾不足の大きな妨げ。


よくあるQ&A

Q1. 2:1の比率どおりに各角度で動く?
A. いいえ。2:1は180°到達時の総和。角度帯で貢献は可変です。

Q2. 菱形筋は鍛えなくていい?
A. 必要です。ただし**“入れ過ぎると下方回旋”に偏り、挙上を止めます。中部僧帽筋と協調させ制御用に使う**のがコツ。

Q3. 下部僧帽筋は“下制”させればOK?
A. 下制だけ狙うのは×上方回旋・後傾の方向で働かせるキューが重要。

Q4. 腱板断裂が疑われるときは?
A. 夜間痛、挙上不可(ドロップアーム)などがあれば医療機関で画像評価を。スキャプラの介入だけで無理をしない

Q5. どれくらいで変わる?
A. 多くは数回の介入で“すくめ癖”が軽減しますが、胸椎可動性・姿勢習慣も同時に是正すると定着が速いです。


最終更新:2025-10-08