腹横筋(transversus abdominis)

腹横筋の概要

腹横筋の起始停止

横筋は腹壁の最深層に位置し、表層を外腹斜筋・内腹斜筋・腹直筋に覆われます。
主作用は腹腔内容を圧迫・支持して腹腔内圧を高めること。努力性呼気(強制呼気)で横隔膜を上方へ押し上げ、体幹安定化にも寄与します。脊柱の運動を直接起こす筋ではありませんが、胸腰筋膜を介して腰椎の安定化に重要です。

基本データ

項目 内容
支配神経 ①下部胸腹神経(肋間神経)T7–T11
②肋下神経 T12
③腸骨下腹神経 L1
④腸骨鼠径神経 L1
起始 第7–12肋軟骨の内面
胸腰筋膜(深葉)
腸骨稜の内唇
鼠径靭帯外側部
停止 白線(内腹斜筋腱膜と合流)
恥骨稜・恥骨櫛(共通腱/conjoint tendonを介して)
※(教科書によって)剣状突起に連続する記載あり
動作 腹腔内圧の上昇・腹部の陥凹(ドローイン)
努力性呼気の補助(下位肋骨の引き下げ)
体幹の抗伸展・抗回旋安定化

触診方法

  • ランドマーク上前腸骨棘(ASIS)の内下方2横指あたりに軽く指腹を当てる。

  • 「お腹をへこませる(息は止めず軽く吐きながら)」と指下で深層が硬く張る感覚を確認。

  • 表層の外・内腹斜筋の緊張で紛れやすいので、力み(ブレーシング)ではなく穏やかな収縮を誘導する。

筋力トレーニング

  1. ドローイン(仰臥位)

    • 自然呼気でおへそを背骨へ近づける意識。5–10秒×8–10回。頸部・殿部の代償に注意。

  2. デッドバグ/四つ這いの対側挙上(バードドッグ)

    • ドローインを保持したまま四肢をゆっくり動かす。反り腰・骨盤回旋を0に近づける。8–12回×2–3セット。

  3. プランク

    • 体幹全体のブレーシング。腹横筋単独というより腹直筋・腹斜筋・多裂筋と協働。20–40秒×3。呼吸を止めない。

注意:高血圧・心血管疾患はバルサルバを避ける。妊娠中は仰臥位長時間を避け、横向き・四つ這いを用いる。

トリガーポイント(TP)

  • 主訴:下腹部〜側腹部の鈍い痛み・締めつけ感があり、とくに咳・笑い・体幹回旋でズキっと増悪して鼠径や腰に放散することがある。

  • 誘因:長時間の前屈姿勢や座位での腹圧固定、咳・くしゃみの反復、コルセット的な“お腹をへこませる”動作の多用、産後・開腹術後の防御的収縮。

呼吸でお腹が膨らむ原理

  1. 吸気:横隔膜が収縮 → 胸郭拡大 → 胸腔内圧が低下 → 肺に空気が入る

  2. 横隔膜収縮により腹腔が押し下げられ、お腹が前に出る

  3. 呼気:横隔膜が弛緩 → 胸郭が狭まり → 胸腔内圧が上がり空気が排出

  4. 腹横筋が収縮するとお腹がへこみ、横隔膜を押し上げ → 息を強く吐き出すことが可能に

さらに、腹横筋収縮による腹腔内圧の上昇は、胸腰筋膜や体幹筋膜の張力を高め、腰椎の安定性を増す効果もあります。

腰椎椎間板症との関係

  • 腹横筋はローカルスタビライザーとして多裂筋と協働し、腰椎全体を**一単位(one-unit)**のように安定化。

  • 機能不全では腰椎下部のヒンジング(過度のセグメント運動)が生じ、椎間板・椎間関節へのストレスが増える。

  • 過前弯/フラットバックのいずれでも、腹横筋の遅発点火・弱化があると症状が持続しやすい。

関連しやすい病態

  • 腰椎椎間板症・椎間板ヘルニア

  • 反復性腰痛、産後の体幹不安定、スポーツでの体幹コントロール不良


よくある質問(FAQ・更新)

Q1. 腹横筋を鍛えるメリットは?
A. 姿勢保持・腰痛再発予防・投球や走動作などのパフォーマンス安定化。呼気筋として息切れのコントロールにも寄与。

Q2. うまく入らない時のコツは?
A.軽く長く吐く→お腹をやさしく凹ます」。骨盤は中間位、肋骨を前下方に収める意識。首肩・殿筋の力みを0に。

Q3. プランクだけで十分?
A. プランクは全体の剛性には有効だが、腹横筋の選択的賦活はドローインや低負荷でのタイミング練習を併用すると効果的。

Q4. どのくらいで変化が出る?
A. 1–2週で呼吸と収縮のタイミングが向上し、4–6週で持久力が改善するケースが多い(頻度:週3–5日)。

Q5. NGポイントは?
A. 息止め(バルサルバ)、反り腰・肋骨の開き、過剰な吸気優位。痛みが増す場合は中止し評価を見直す。


最終更新:2025-10-14