内側広筋の概要

内側広筋(Vastus Medialis: VM)は大腿四頭筋の内側成分であり、膝関節の動的安定化と伸展機構において極めて特異な役割を担う筋肉です。筋腹は四頭筋の中で最も遠位・低位に位置し、単なる伸展筋に留まらず、パテラ(膝蓋骨)のトラッキング(軌道)制御に深く関与しています。
【線維構造と機能的区分】
内側広筋は、走行方向と機能の違いから以下の2つの線維群に明確に区分されます。
- 共同腱部(内側広筋長頭 / 垂直線維:Vastus Medialis Longus = VML)
- 解剖学的特徴:大腿骨粗線内側唇を起始とし、大腿骨長軸に対して約15〜18度の急峻な角度で下行して四頭筋共通腱(垂直方向)に合流します。
- 主機能:大腿直筋や外側広筋とともに、**膝関節伸展(特に終末伸展:TKE)**の駆動力を担います。
- 斜走線維(内側広筋斜頭:Vastus Medialis Obliquus = VMO)
- 解剖学的特徴:大腿内側筋間中隔、広筋内転筋腱板(アドダクター・スリーブ)を介した大内転筋腱から起始します。筋線維は近位から遠位に向かうにつれて徐々に鈍角となり、大腿骨長軸に対して約50〜55度(最近位部で約25度、膝蓋骨付着部付近で約40〜45度)の角度で斜走し、膝蓋骨内側縁および内側膝蓋支帯へ停止します。
- 主機能:膝蓋骨を強固に**内方牽引・内側傾斜(内方グライド・内傾)**させ、外側広筋(VL)による外方への過剰なトラッキング力(外方牽引)に拮抗して膝蓋大腿関節(PF関節)を動的に安定化させます。また、内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)と協調して膝蓋骨の外側脱臼を抑制します。
【組織学的・生理学的特性】
- 遅筋線維の優位性:内側広筋は速筋と遅筋の比率が約47.4:52.6と遅筋線維が相対的に多く、持続的なパテラアライメント保持という持久的・姿勢制御的特性を備えています。
- 選択的萎縮の病態:不活動(ギプス固定や臥床)や膝関節内の疼痛、水腫(関節液貯留)が生じると、脊髄反射レベルで生じる**関節原性筋抑制(AMI)**の影響を最も受けやすく、他の広筋群に先んじて早期かつ選択的に著明な萎縮を起こす性質があります。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 大腿神経(L2-L4、特にL3髄節の寄与が大きい) |
| 起始 | 共同腱部(VML):大腿骨粗線内側唇 斜走線維(VMO):広筋内転筋腱板を介した大内転筋腱 など |
| 停止 | 共同腱部:大腿四頭筋腱 → 膝蓋骨 → 膝蓋靱帯 → 脛骨粗面 斜走線維:膝蓋骨内側縁/内側膝蓋支帯 |
| 栄養血管 | 大腿動脈、下行膝動脈、大腿深動脈 |
| 動作 | 膝関節の伸展(特に最終伸展域)、膝蓋骨の内方トラッキング制御および内方安定化 |
| 筋体積 | 555 ㎤ |
| 筋線維長 | 7.7 ㎝ |
| 速筋:遅筋(%) | 47.4:52.6 |
最終更新:2026-08-26






