手指関節の構造と関節可動域の測定方法

手指関節の概要

手指は多数の関節が連続しており、精緻な巧緻動作(把握やピンチ動作など)を可能にします。手指の運動は、前腕から起始して長い腱を持つ外在筋(例:総指伸筋、浅・深指屈筋など)と、手の中に筋腹を持つ内在筋(例:骨間筋、虫様筋、母指球筋、小指球筋)が協調して働くことで成り立っています。

中手骨・指骨|各部位の名称

手指関節の種類と特徴

手指の関節は、関節面の形状によって運動方向や自由度が異なります。また、いずれの関節も「凹凸の法則」に従い、関節運動時には関節面での転がりと滑りが生じます。

種類
部位
特徴・備考
楕円(顆状)関節
橈骨手根関節(手関節)
屈伸・橈尺屈の2軸性。手根骨(舟状骨・月状骨・三角骨)の凸面と、橈骨などの凹面で構成されます
鞍関節
母指CM関節(第1CM)
第1中手骨と大菱形骨で構成され、鞍状面で直交2軸に運動します。屈伸・外転内転のほか、複合運動である「対立」を可能にします
平面関節
第2〜5指CM関節
第2・3CM関節は強固に固定されておりほとんど動きません。一方、第4・5CM関節はわずかに屈曲可能(第4で約10度、第5で20〜25度)で、手の中手骨アーチの形成に寄与します
球関節 / 顆状関節
第1〜5指MP関節
中手骨頭(凸)と基節骨底(凹)からなる2軸性関節です。屈伸、外転・内転のほか、わずかな回旋も可能です。側副靱帯の構造により、屈曲位では靱帯が緊張して側方への動きが制限され、伸展位では弛緩して指を開くことができます
蝶番関節
母指IP、第2〜5指PIP / DIP
基節骨・中節骨の頭(凸)と、中節骨・末節骨の底(凹)で構成されます。屈伸が主体(1軸性)で、側副靱帯が全可動域で緊張しているため側方への動きは制限されます

母指の関節可動域と測定方法

運動方向 参考角度 基本軸 移動軸
橈側外転 60 示指 母指
尺側内転 0
掌側外転 90
掌側内転 0
屈曲(MCP) 60 第1中手骨 第1基節骨
伸展(MCP) 10
屈曲(IP) 80 第1基節骨 第1末節骨
伸展(IP) 10

母指尺側内転・撓側外転の関節可動域(正常値)

母指掌側内転・掌側外転の関節可動域(正常値)

母指MCP関節屈曲・伸展の関節可動域(正常値)

母指IP関節屈曲・伸展2の関節可動域(正常値)


手指の関節可動域と測定方法

運動方向 参考角度 基本軸 移動軸
屈曲(MCP) 90 第2~5中手骨 第2~5基節骨
伸展(MCP) 45
屈曲(PIP) 100 第2~5基節骨 第2~5中節骨
伸展(PIP) 0
屈曲(DIP) 80 第2~5中節骨 第2~5末節骨
伸展(DIP) 0
外転 第3中手骨延長線 第2、4、5指軸
内転

手指PIP関節屈曲・伸展の関節可動域(正常値)

手指MCP関節屈曲・伸展の関節可動域(正常値)

手指DIP関節屈曲・伸展の関節可動域(正常値)

指関節内転・外転の関節可動域(正常値)


指(母指以外)に作用する筋

  • 屈曲:
    • 深指屈筋: DIP関節までの屈曲。前腕から末節骨底に停止します
    • 浅指屈筋: PIP関節までの屈曲。腱が二股に分かれ(腱裂孔)、その間を深指屈筋腱が通り抜ける特殊な構造(キアズマ)をしています
    • 虫様筋 / 骨間筋: MP関節の屈曲(およびPIP/DIP関節の伸展)
  • 伸展:
    • 総指伸筋: 指の伸展の主動作筋(主にMP関節の伸展)
    • 示指伸筋 / 小指伸筋: それぞれ示指と小指の独立した伸展を補助します
    • ※PIP/DIP関節の完全な伸展には、総指伸筋だけでなく内在筋(虫様筋・骨間筋)の牽引力が必要です
  • 外転: 背側骨間筋、小指外転筋
  • 内転: 掌側骨間筋

母指に作用する筋

  • 屈曲: 長母指屈筋(IP屈曲)、短母指屈筋(MP屈曲)
  • 伸展: 長母指伸筋(IP・MP伸展)、短母指伸筋(MP伸展)
  • 外転: 長母指外転筋(橈側外転)、短母指外転筋(掌側外転)
  • 内転: 母指内転筋
  • 対立: 母指対立筋

臨床メモ:母指の「対立」と神経支配 母指の対立運動は、「外転・屈曲・内旋」の複合運動です 。母指球筋群(短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋)は主に正中神経に支配されています。正中神経麻痺(手根管症候群など)が起こると、母指球が平坦になる「猿手(ape hand)」を呈し、対立運動やピンチ力が著しく低下します 。


手指関節周囲の支持組織(靱帯と腱機構)

関節の安定性や腱の滑走性を保つために、手指には複雑な支持機構が存在します。

1.深横中手靱帯
深横中手靱帯
【機能】中手骨の遠位部を連結して補強
2.指の側副靭帯
指の側副靭帯
【機能】指関節の補強
3.指節関節靱帯
指節関節靱帯
 【機能】指関節の補強
4.輪状部
輪状部
 【機能】十字部とともに深・浅指屈筋腱が通過する通路を指節骨との間に形成
5.十字部
十字部
 【機能】輪状部とともに深・浅指屈筋腱が通過する通路を指節骨との間に形成
6.指背腱膜
指背腱膜
 【機能】指伸筋腱からの延長、手指関節伸展
7.骨間筋腱中央索
骨間筋腱中央索
8.手指の副側副靱帯
手指の副側副靭帯
 【機能】指関節の補強
9.斜支靱帯
斜支靭帯
 【機能】指背腱膜から分岐する3つの線維束のうちのひとつ
  1. 側副靱帯 MP関節の側副靭帯は、中手骨頭の背側寄りから起始し、基節骨の掌側寄りへと斜めに走行します。この構造により、指を伸ばした状態(伸展位)では靱帯が緩んで指を開く(外転)ことができ、指を曲げた状態(屈曲位)では靱帯が緊張して指が横にぶれるのを防ぎます。ギプス固定などでMP関節を伸展位のまま長期間固定すると、側副靭帯が短縮して屈曲制限(拘縮)の原因となります
  2. 掌側板(Palmar plate) MP関節およびPIP・DIP関節の掌側にある線維軟骨性の板です。関節の過伸展を物理的に制限する役割を持ちます
  3. 深横中手靱帯 第2〜5の中手骨頭の掌側板同士を連結し、手の中手骨アーチ(横アーチ)を安定させます
  4. 腱鞘とプーリーシステム(輪状部・十字部) 屈筋腱(浅指・深指屈筋腱)は、骨から浮き上がらないようにトンネル状の靱帯性腱鞘(プーリー)によって骨に押さえつけられています。主なものに**輪状靱帯(A1〜A5)十字靱帯(C1〜C3)**があります。これにより、筋の張力が効率よく指の屈曲運動に変換されます
  5. 指背腱膜(伸筋腱機構) 背側の総指伸筋腱は、基節骨背側で広がり指背腱膜を形成します。ここから中央索(central band:中節骨底に停止)と、二手に分かれる側索(lateral band:末節骨底に停止する終止腱となる)に分岐します。ここに虫様筋や骨間筋の腱が合流し、精緻な指の伸展をコントロールします

よくある質問(Q&A)

Q. 外傷後にPIPが曲がりにくい/伸びにくい。まず確認すべきは?
A. 関節自体の問題(側副靱帯や掌側板の拘縮)か、腱・筋の滑走不全(内在筋の短縮、伸筋腱の癒着など)かを鑑別します 。MP関節の肢位を変えてPIPの可動域が変化するかを確認する「Bunnel-Littlerテスト(手内筋タイトネステスト)」が有用です 。

Q. DIPだけが伸びにくい(マレットフィンガー疑い)。対応は?
A. マレット変形(槌指)には、伸筋腱の終止腱が断裂する腱性マレットと、末節骨の付着部が剥離骨折を起こす骨性マレットがあります 。腱性の場合は装具によるDIP伸展位の長期固定(6〜8週)が一般的ですが、骨片が大きい骨性マレットの場合は手術療法(鋼線刺入など)が選択されることがあります 。

Q. スワンネック変形/ボタンホール変形の要点は?
A. どちらも関節リウマチや外傷で生じる指の変形です 。

  • スワンネック変形:PIPが過伸展し、DIPが屈曲した白鳥の首のような変形 。掌側板の弛緩や、内在筋の過緊張などにより、側索が背側へ偏位することで生じます 。
  • ボタンホール(ボタン穴)変形:PIPが屈曲し、DIPが過伸展した変形 。伸筋腱の中央索が断裂または弛緩し、2本の側索がPIP関節の掌側へ落ち込む(ボタン穴から骨が抜け出るような状態)ことで、PIPを伸ばせなくなり発生します 。

Q. ばね指(弾発指)でまず行う保存的介入は?
A. ばね指は、指の付け根(MP関節掌側)にある**A1プーリー(輪状靱帯)**部で屈筋腱が肥厚して摩擦や引っ掛かりを生じる腱鞘炎です 。保存療法としては、局所の安静、摩擦を減らすためのスプリントやテーピング、腱の滑走訓練、ステロイドの腱鞘内注射などが行われます 。改善しない場合はA1プーリーの切離術が適応となります 。

Q. 母指MP関節の尺側が痛い(ピンチで悪化)。何を疑う?
A. 母指の尺側側副靱帯(UCL)損傷(スキーヤーズ・サムなど)を疑います 。親指が強制的に外側(橈側外転方向)に開かれた際に損傷します 。外反ストレスを加えるグラインドテストなどで不安定性を評価します 。完全に断裂して靱帯の端が母指内転筋の腱膜にめくれ上がるように挟まること(Stener損傷)があり、この場合は自然治癒が困難で手術適応となります 。

Q. 外転・内転の評価が混乱する。基準線は?
A. 指の運動は、第3指(中指)の中心軸を基準とします 。この基準線から各指が離れる動きが「外転」、近づく動きが「内転」です 。中指自体の左右への動きは、内転・外転とは呼ばず「橈側外転」「尺側外転」と記載します 。


最終更新:2026-07-24