股関節を伸展させると「内ももが突っ張る」と訴える患者は少なくありません。
とくに骨盤後傾(PPT)のある症例では、内転筋群の短縮や過活動により、股関節の伸展・外転方向の可動が制限されがちです。
本記事では、長内転筋を中心に、薄筋・恥骨筋・大内転筋の部位差も含めて鑑別の視点を整理し、実地で使える評価と介入手順をまとめます。
要点(先に結論)
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股関節伸展で内もも(大腿内側)の突っ張りを訴える場合、内転筋群(長・短内転筋、薄筋、(一部)大内転筋)の短縮/過活動が関与することが多い。
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長内転筋は主犯になり得るが、薄筋(膝二関節)や恥骨筋、大内転筋の部位差(※後述)など鑑別が必須。
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大内転筋は「全体が伸展筋」ではない。前方(恥骨枝由来)の内転筋部は屈曲寄り、坐骨結節由来のハムストリング部は伸展寄りと機能が分かれる。
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骨盤後傾(PPT)は体幹屈筋群/ハム短縮の影響が大きく、内転筋は二次的に関与。ただし股関節屈曲位ほど長内転筋の屈曲モーメントは小さくなり、位置依存で作用が変わる点に注意。
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評価は姿勢×関節肢位依存で行う(膝屈曲/伸展の比較、外転・外旋の組み合わせを含む)。膝屈曲で症状が軽減→薄筋関与を示唆。
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介入は内転筋の長さ・トーン是正に加え、腸腰筋・大殿筋の機能回復、外転/外旋筋の再学習までシステムで組む。
整理した考察
1) どの筋が「突っ張り」を生むか
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長内転筋:内転+(中間位~伸展近傍で)屈曲モーメントが出やすい。外転位で内旋補助。股関節伸展+外転は長内転筋にとって伸張ストレスになりやすい → 突っ張り感の典型的訴え。
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短内転筋:長内転筋と近似の機能。股伸展×外転で伸張されやすい。
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薄筋(gracilis):膝二関節筋(股関節=内転/膝=屈曲)。股伸展×膝伸展×外転で最も伸張されやすい。膝位で症状が変わるなら要疑い。
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恥骨筋(pectineus):内転+屈曲+(軽度)内旋。股伸展で伸張。骨盤前傾不足/PPTで相対的短縮を起こしやすい。
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大内転筋(adductor magnus):
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前方の内転筋部(恥骨枝由来)は屈曲寄り
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後方のハムストリング部(坐骨結節由来)は伸展寄り
→ 部位によって真逆のモーメントを持つ。「大内転筋=伸展筋」一枚岩の理解は不正確。部位差・肢位依存で突っ張りの主因にもなり得る。
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結論:長内転筋「だけ」が主犯と決め打ちは危険。症状が膝位や外転・外旋でどう変わるかで薄筋/大内転筋/恥骨筋を鑑別する。
2) 骨盤後傾(PPT)との関係
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PPTでは股関節は相対的に屈曲位。このポジションでは長内転筋の屈曲モーメントは小さくなりやすく、位置により一部線維は伸展寄りに転じうる(位置依存)。
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PPTの一次因としては腹直筋・ハムストリング短縮、腸腰筋・脊柱起立筋低活動が大きい。内転筋は二次的に股関節外転/伸展方向の可動を阻み、突っ張り感を助長する。
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よってPPTの是正には骨盤周囲の拮抗筋バランス再構築が必須(腸腰筋・大殿筋・外転/外旋群の賦活)。
臨床での評価手順(再現性重視)
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症状再現テスト(主訴の肢位を再現)
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股伸展を、膝伸展位⇔膝屈曲位で比較
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膝屈曲で軽くなる → 薄筋(膝二関節)関与を示唆
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外転・外旋を段階的に追加
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外転で増悪 → 長/短内転筋に伸張ストレス
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外旋で変化 → 恥骨筋・大内転筋の線維配列依存の反応を観察
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触診・トーン評価
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長/短内転筋・薄筋の起始(恥骨枝)~筋腹~停止を線で追う。圧痛・硬結・温度差・滑走性を比較。
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大内転筋は近位内側~後内側大腿の深層。部位差を意識して触れる。
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筋長テスト(実地版)
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股伸展+外転で長/短内転筋。
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股伸展+外転+膝伸展で薄筋。
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股伸展位で外旋/内旋を入れ替えて恥骨筋・大内転筋の反応差をみる。
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運動連鎖・骨盤制御
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ASIS-PSISの傾き/胸郭-骨盤の相対位置
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股伸展時に腰椎伸展代償の有無
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外転/外旋筋(中殿筋・深外旋六筋)の発火タイミング
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ポイント:膝位の比較と外転の足し引きで薄筋 vs 長/短内転筋を素早く切り分ける。
介入(優先順位と具体例)
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疼痛・トーン調整
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長/短内転筋・薄筋・恥骨筋のソフトティッシュリリース/ポジショナルリリース
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大内転筋は前方(屈曲寄り)と後方(伸展寄り)で狙いを分ける
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恥骨結合周囲への過度な圧は回避
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筋長・滑走の回復(自動介入を早期から)
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股伸展+外転の低負荷ダイナミック伸張(痛み<3/10)
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薄筋疑いなら膝屈曲→徐々に伸展へと段階付け
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恥骨筋には軽度外旋を混ぜた伸展方向のモビリティ
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拮抗筋の賦活/運動学習
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腸腰筋・大殿筋の短アーク伸展(骨盤ニュートラル保持)
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中殿筋・深外旋筋の外転/外旋パターン(内転優位の代償低減)
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歩行・立ち上がりでの骨盤前傾維持のドリル化
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神経系の可能性もスクリーニング
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内転での痺れ様・灼熱感が強い/夜間痛がある → 閉鎖神経走行の神経症状や内転筋腱障害・恥骨骨髄炎などを念頭に負荷調整と医師連携。
ミニ・アルゴリズム(ベッドサイド用)
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股伸展で内もも張る? → Yes
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膝屈曲で軽減? → Yes:薄筋中心/No:長/短内転筋・恥骨筋・大内転筋
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外転で増悪? → 長/短内転筋示唆
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外旋で増悪/軽減? → 恥骨筋/大内転筋の線維差を示唆
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腸腰筋・大殿筋の賦活+内転筋の長さ再建を同時進行
Q&A
Q1. 主犯は長内転筋で間違いない?
A. ケース依存。膝位で変わるなら薄筋、深層の張りなら大内転筋を疑う。決め打ちは禁物。
Q2. 大内転筋は伸展筋だから突っ張らない?
A. 誤解。前方(屈曲寄り)と後方(伸展寄り)で機能が異なるため、肢位により突っ張り感を生む。
Q3. PPTがあると長内転筋は必ず短縮?
A. 必ずではない。位置依存で作用が変わる。PPTの一次因は腹直筋/ハム短縮、腸腰筋低活動など。
Q4. どのテストが一番有用?
A. 股伸展を膝屈曲⇔伸展で比較(薄筋鑑別)。外転・外旋の段階追加で長/短内転筋・恥骨筋・大内転筋を切り分ける。
Q5. まず何から治す?
A. 痛み/トーン調整→筋長回復→腸腰筋/大殿筋賦活→外転/外旋パターン再学習の順で並行的に。
最終更新:2025-09-30