1)膝関節前面の触診
膝関節前面の痛みは、主に膝蓋下脂肪体、大腿四頭筋腱、膝蓋靱帯などに起因することが多く、膝OA(変形性膝関節症)やスポーツ障害における評価の要となります。
- 大腿四頭筋腱‐膝蓋骨上縁: 圧痛があれば大腿四頭筋腱炎などの障害を示唆します。また、膝関節の屈曲制限がある場合、大腿四頭筋の滑走性低下や、膝蓋上嚢(膝蓋骨の上方に広がる滑液包)の癒着が関与している可能性があります。
- 膝蓋骨下極‐膝蓋靱帯‐脛骨粗面:
- 下極〜膝蓋靱帯の圧痛は**膝蓋靱帯炎(ジャンパー膝)**を疑います。
- 脛骨粗面の限局圧痛や骨隆起は、成長期のスポーツ障害である**オスグッド・シュラッター病(Osgood-Schlatter病)**の典型的なサインです。大腿四頭筋の過剰な牽引力が原因となります。
- 膝蓋下脂肪体: 膝蓋骨の深層に存在し、膝OAや膝前面痛の非常に多い原因組織です。膝を伸展位および屈曲位にして、膝蓋骨のすぐ下方を触診し、硬さや圧痛(特に膝関節伸展時)を確認します。
- 膝蓋骨内側縁: 引っかかり感や圧痛があれば**内側膝蓋ヒダ(plica)障害(タナ障害)**を疑います。
- アライメントと膝蓋骨の可動性:
- FTA(大腿骨脛骨角)や**O脚(内反)/X脚(外反)**を視診します。荷重線の異常は内側・外側コンパートメントへの力学的ストレスを増大させます。
- 伸展位で膝蓋骨を上下左右に動かし、滑走性を評価します。**外側誘導での不安定感や恐怖感(アプレヘンション)**があれば、反復性膝蓋骨脱臼や不安定性を疑います。
2)膝関節内側の触診
内側コンパートメントは、変形性膝関節症やスポーツ外傷において最も障害を受けやすい部位です。
- 内側側副靱帯(MCL): MCLは大腿骨内側上顆から脛骨内側面へと走行し、外反ストレスを制動します。圧痛は主に靭帯の付着部や走行上の線状の領域で確認します。MCLは伸展位では後方線維が、屈曲位では前方線維が伸長されるため、膝の角度を変えながら圧痛を評価することが重要です。
- 内側関節裂隙(関節線): 深部の圧痛は内側半月板病変を示唆します。内側半月板は中節から後節にかけての損傷が圧倒的に多く、関節線に沿った丁寧な触診が必要です。
- 鵞足(がそく): 脛骨粗面の内側に位置し、縫工筋、薄筋、半腱様筋の腱が停止する部位です。スポーツや階段の下りなどで摩擦が生じやすく、局所的な圧痛があれば鵞足炎を疑います。
3)膝関節外側の触診
- 外側側副靱帯(LCL): 大腿骨外側上顆から腓骨頭に向かって走行する索状の靱帯です。膝関節の内反ストレスを制動します。足を組むような姿勢(股関節屈曲・外転・外旋、膝屈曲位)をとると、LCLが緊張して索状に触れやすくなります。
- 外側関節裂隙: 深部圧痛は外側半月板の損傷を示唆します。MCLが内側半月板と強固に結合しているのに対し、LCLは外側半月板とは結合していない(間に膝窩筋腱が介在する)という解剖学的な違いに注意して触診します。
- 大腿骨外側上顆~腸脛靱帯(ITB): ランナー膝(腸脛靱帯炎)は、ITBが大腿骨外側上顆を乗り越える際の摩擦によって生じます。外側上顆周辺の圧痛や、膝の屈伸に伴う摩擦感を確認します。
- 腓骨頭周辺: 大腿二頭筋腱やLCLが停止するため、これらの組織の圧痛や緊張を確認します。
4)靱帯・半月板のストレステスト(要・健側比較)
関節の不安定性や疼痛を誘発し、損傷組織を特定します。必ず健側と比較して評価します。
①前十字靱帯(ACL)
- ラックマンテスト(Lachman test):膝関節を20〜30°屈曲位とし、下腿を前方に引き出します。ACL損傷の診断において最も信頼性(感度・特異度)が高いテストです。
- 前方引き出しテスト(Anterior drawer test):膝関節90°屈曲位で下腿を前方に引き出します。ハムストリングスの緊張による偽陰性に注意が必要です。
②後十字靱帯(PCL)
- 後方引き出しテスト(Posterior drawer test):膝関節90°屈曲位で下腿を後方に押し込みます。後方への動揺性を確認します。
- サギングサイン(Sagging sign):膝関節90°屈曲位(または股・膝90°屈曲位)で、重力により脛骨近位部が後方に落ち込む(下がる)現象を確認します。
③内側・外側側副靱帯(MCL・LCL)
- 外反・内反ストレステスト:
- 膝関節完全伸展位:動揺性がある場合は、MCLやLCLの単独損傷だけでなく、後方関節包や十字靱帯を含む重篤な複合損傷(重症の不安定性)を示唆します。
- 膝関節30°屈曲位:後方関節包が弛緩するため、側副靱帯(MCL/LCL)単独の機能(緩み)をより選択的に評価できます。
④半月板
- マクマレーテスト(McMurray test):背臥位で膝を最大屈曲させ、関節裂隙に指を当てます。下腿に外旋を加えながら伸展させることで内側半月板に、内旋を加えながら伸展させることで外側半月板にストレスをかけ、クリック音や疼痛の有無を確認します。
- アプレーテスト(Apley test):腹臥位・膝90°屈曲位で、下腿を長軸方向に圧迫しながら内旋・外旋を行い、半月板由来の疼痛が誘発されるかを確認します。
触診のコツ/注意
- 痛みの“点”か“面”かで組織を推定:圧痛がピンポイント(点)であれば靱帯付着部や半月板などを疑い、広い範囲(面)であれば腱炎や滑膜炎、脂肪体などを疑います。
- 炎症コントロールの優先:腫脹(関節水腫や血腫)や熱感が強い急性期には、無理なストレステストは避け、RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)や荷重コントロールを優先します。
- エコー(超音波画像診断装置)の活用:近年では、触診に加えてエコーを用いた動態観察が非常に有用です。組織の腫れ、血流の増加、または膝屈伸時の組織の滑走不良(癒着)などをリアルタイムで視覚的に評価できます。
- レッドフラッグ(赤旗徴候):外傷直後の歩行不能、著明な関節血腫、発熱を伴う腫脹や発赤がある場合は、骨折や感染症、重度の靱帯断裂の可能性があるため、速やかに医療機関での画像評価(MRIやX線)を推奨します。
よくある質問(Q&A)
Q. ITB症候群(ランナー膝)の圧痛はどこで出ますか?
A. 大腿骨外側上顆のやや前方、腸脛靱帯が骨の隆起を乗り越える部分です 。膝関節を屈伸させながら腸脛靱帯を圧迫する「グラスプテスト(grasping test)」を行うと、摩擦による疼痛が再現されやすくなります 。
Q. 半月板と関節裂隙の“押し方”は?
A. 膝関節を屈曲させることで関節の前方が開き、半月板の前節から中節に触れやすくなります 。関節裂隙に対して指の腹で垂直に深く圧を加えます。単に押すだけでなく、マクマレーテストのように下腿の回旋ストレスを加えることで、半月板が挟み込まれ、症状の再現性が上がります 。
Q. ACL損傷の評価で最も頼りになるテストは?
A. ラックマンテストが最も感度・特異度が高く、信頼性に優れます 。前方引き出しテストは、ハムストリングスの保護的収縮(スパズム)や、内側半月板後角によるストッパー作用(ウェッジ効果)により、偽陰性(損傷しているのに動揺が出ない)となることが多いため注意が必要です 。
Q. 膝の完全伸展位でも外反/内反ストレステストで動揺が出た場合は?
A. 側副靱帯(MCL/LCL)の損傷だけでなく、後方関節包、さらには前十字靱帯や後十字靱帯も含めた複数の支持機構が破綻している重度な複合損傷を強く疑います 。直ちに専門医によるMRIなどの画像診断と評価が必要です。
Q. plica(膝蓋ヒダ)障害はどう見分けますか?
A. 膝蓋骨内側縁から上内側にかけての索状の組織(タナ)に圧痛や肥厚を認めます 。階段昇降やしゃがみ込みなど、膝の屈伸を伴う動作時に「コキッ」という弾発音(クリック)や引っかかり感が生じます 。関節裂隙(半月板の位置)よりも上方かつ前内側での症状であることが鑑別のヒントになります。
最終更新:2026-07-14


