長母趾伸筋の概要
長母趾伸筋(EHL)は下腿前面のやや深層にある筋。表層は前脛骨筋と長趾伸筋が覆います。
主作用は母趾の伸展で、補助的に足関節背屈と距骨下関節(=距踵関節)の内反に関与します。
腓骨神経麻痺、前側慢性コンパートメント症候群、L4/5椎間板ヘルニアで機能低下を認めやすい筋です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 深腓骨神経 |
| 髄節 | L4–S1(臨床的にはL5優位) |
| 起始 | 腓骨前面の中央部+下腿骨間膜 |
| 停止 | 母趾末節骨底(背側) |
| 栄養血管 | 前脛骨動脈 |
| 動作 | 母趾IP・MTP関節の伸展 足関節背屈/(弱い)内反 |
| 筋体積 | 30㎤ |
| 筋線維長 | 4.6㎝ |
| 速筋:遅筋(%) | 50.0:50.0 |
メモ:EHLの内反作用は小さく、実臨床では母趾伸展+足関節背屈が主な所見になります。
長母趾伸筋の触診方法

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方法:第2–5趾を軽く屈曲保持→母趾を屈曲位から伸展させる。足背にEHL腱が隆起して視認・触知が容易。
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注意:近位2/3の筋腹は長趾伸筋の深層で触診困難。遠位1/3は前脛骨筋腱移行部〜足関節前で、前脛骨筋と長趾伸筋の筋間から触知可能。
ストレッチ方法

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座位で足を組み、踵を片手で保持・もう一方で母趾背側を把持。
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足関節を底屈+外反しつつ母趾を屈曲させ、EHLを伸張。
筋力トレーニング

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母趾伸展に対し、反対側の足で軽い体重負荷を加える。
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足関節背屈を同時に行うと、EHLを選択的に鍛えやすい。
トリガーポイントと関連痛領域

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主訴:母趾背側〜足背にかけての鋭い痛み・張り感、ときに下腿前外側まで放散する違和感。
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誘因:母趾を反らしたままの歩行・登坂・ランニング、つま先上げの繰り返し、足背を圧迫するタイトな靴での長時間活動。
関連疾患と鑑別のコツ
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L4/5椎間板ヘルニア:**母趾伸展筋力低下(EHL麻痺)**が鍵所見。
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腓骨神経麻痺/前側慢性コンパートメント症候群:同じ前区画の前脛骨筋なども一緒に低下しやすい。
→ EHL単独の顕著低下が目立つならL4/5病変を強く疑う。
よくある質問(Q&A)
Q1. EHLの簡便な機能テストは?
A. 母趾を背側に持ち上げる徒手筋力テスト(MMT)。左右差と抵抗に対する保持を確認します。
Q2. L4/5ヘルニアと腓骨神経麻痺の見分け方は?
A. EHL単独の明瞭な低下はヘルニアを示唆。腓骨神経麻痺では前脛骨筋など前区画全体の低下を伴うことが多いです。
Q3. 捻挫後に足背〜母趾が痛むのはなぜ?
A. 捻挫後にEHLのトリガーポイントが生じやすく、足背〜母趾背側へ関連痛が出ます。
Q4. 鍛えるときのコツは?
A. 小筋ゆえ軽負荷・高回数が基本。足関節背屈を加えるとEHLへの選択性が高まります。
Q5. ストレッチで痛むときは?
A. 痛みは中止の合図。炎症期や神経症状が強い場合は無理をせず、可動域は痛みのない範囲で行います。
最終更新:2025-09-15
