バイタルチェックの計測方法や基準値について、豆知識を織り交ぜながら解説していきます。
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血圧測定
最近はリスト式のデジタル血圧計を使っているところも多いですが、基本的にリスト式の数値は信頼できないとされています。
しかしながら、それは心臓の高さに揃えられていないことが原因です。上腕式などのタイプは腕を垂らしているだけで心臓の高さに自然と揃いますので誤差が少ないだけです。
以下のように、位置が心臓より高いと血圧は低く、心臓より低いと血圧は高く出ます。10mmHg以上は平気で変わりますので、測り方って本当に大切です。
正しい位置 | 位置が高い(血圧↓) | 位置が低い(血圧↑) |
血圧の基準値
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」より抜粋した血圧の目標値は以下になります。
日本の高血圧者数は4,000万人以上といわれており、70歳以上では実に70%以上が高血圧患者に該当します。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
成人 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
後期高齢者患者 | 150/90mmHg未満 | 145/85mmHg未満 |
糖尿病患者 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
CKD患者(蛋白尿陽性) | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
脳血管障害患者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
冠動脈疾患患者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
脈圧と平均血圧
収縮期血圧と拡張期血圧の値から脈圧や平均血圧を算定することが可能です。
- 「脈圧」=「収縮期血圧」-「拡張期血圧」
- 「平均血圧」=「脈圧」×「1/3」+「拡張期血圧」
脈圧が60mmHg以上、または平均血圧90mmHg以上の場合は動脈硬化が疑われます。
血圧は低い方が死亡リスクは低下する
米国NIH助成試験の調査結果では、収縮期血圧の目標を基準値の140mmHgより低い120mmHgに降圧薬でコントロールすることにより、心疾患による死亡リスクが低下することが報告されています。
他のいくつもの研究でもそうですが、血圧は低い方があらゆる疾患のリスクが低くなるってことが報告されています。もちろん低すぎるのはよくないですが、90mmHg前後ぐらいでも丁度いいぐらいです。
よく高血圧の基準値である140/90mmHgという値が低すぎるという話題になりますが、長生きできるという意味では否定しようがありません。
ただ、ヒトは長生きするためだけに生きてるわけでもありません。もちろん降圧薬のデメリットもありますので、それらを考慮して服薬は自分で決めるべきと私は考えています。
脈拍
通常、脈拍は橈骨動脈を触知して数えます。2倍法(30秒の回数×2)や4倍法(15秒の回数×4)などが存在しますが、どちらで実施しても構いません。ただし、不整脈がある場合は60秒で計測することが基本となります。
豆知識として、橈骨動脈が触知できない場合は収縮期血圧が80mmHg以下、大腿動脈では70mmHg以下、頚動脈では60mmHg以下となっている可能性があります。
起立性低血圧の確認ですぐさま調べる際に重宝します。
脈拍の平均値
年齢によって脈拍数には差があり、乳幼児では1分間に100回/分以上、成人から高齢者では60-80回/分が平均となります。脈拍は、夜間になると減少する傾向にあります。
頻脈を呈している場合、発熱や脱水を呈している可能性があるので、注意深く観察するようにしてください。
また、脈拍数が常に80回/分を超えているケースでは心疾患のリスクが上昇することが報告されています。
脈拍が触知できる部位
一定の脈拍数を打つと死ぬという噂
すべての動物は一定の脈拍数を打つと寿命を迎えるといった噂が広まったのは、1992年に出版されてベストセラーになった「ゾウの時間ネズミの時間」という著書からです。
その後、各国の調査などから寿命と脈拍に相関関係がみられると報告されており、多くのまことしやかな情報が氾濫している状況となっています。
ベストセラーとなった著書では、ゾウ(平均50歳)とネズミ(平均3歳)が同じ15億回という脈拍数で平均寿命を迎えることを根拠としており、そこから15億回ほどで全ての動物は寿命を迎えるといった噂が流れるようになりました。
しかし実際は、寿命までの脈拍数が多い人間で23億回、少ない小型犬で5.3億回といった具合にかなりの開きがあるようです。
確かに小型動物は脈が早くて、大型動物は脈が遅いといった傾向はありますが、ゾウとネズミはたまたま死ぬまでの脈拍数が近かっただけで、ややこじつけだった感じがあります。
心臓には生涯可能鼓動寿命があるという真偽
こちらもいまや都市伝説となっている可能鼓動寿命についてですが、膝関節が10億歩まで本来は耐えられるといっているようなもので、はっきり言ってあまり意味がありません。
もちろんいつかは止まるんでしょうけど、病気やら環境やらの影響を受けすぎるので、それが知れたところで生涯可能鼓動寿命まで生きることはありません。
日本人に関しては平均寿命が80歳を超えており、平均鼓動回数も30億回ぐらいありますので、従来に唱えられていた23億回説も関係がありません。
心拍数についての関連性
心拍数について数多くの研究がなされている中で、医療従事者として知っておきたい情報を以下に挙げていきます。
- 心拍数は血圧、BMI、血糖値、LDLコレステロール、空腹時インスリン、中性脂肪、ヘマトクリットなどと正の相関がみられ、HDLコレステロールと負の相関がみられる
- 高心拍ではメタボリック症候群の項目数も多く、経過中に高血圧やメタボリック症候群となりやすい
- ほとんどの心血管疾患において心拍数が多いほど発生率が高くなる
- 高心拍患者ほど冠動脈粥腫破綻が起こりやすい
- 心不全で心拍数を低下させれば予後は改善する
心拍数が多いことで死亡リスクが約2倍になる
2004年の東北大学の調査では、血圧が正常でも心拍数が1分間に70回以上の人はそうでない人よりも心臓病による死亡リスクが約2倍になると公表しています。
また、米国の高血圧患者約4500人を36年間追跡した調査では、心拍数の増加に伴って心臓病死する割合が高くなったと報告しています。
これらより、脈拍が早いほうが心疾患による死亡リスクが高まることが予測されますので、そのような方々は、喫煙や過剰なアルコール摂取、食塩過多な食事は控えるようにしたほうがいいかもしれません。
体温
体温が37.2℃以上なら微熱なんてよく言われますが、大切なのは体温ではなく変化量です。
基礎体温が36.8℃の人が37.2℃になっても問題ありませんが、基礎体温が35.8℃の人が37.2℃を超えたら問題ありですよね。
そのためにも、その人の普段の基準値を把握していることが大切です。
体温の平均値
日本人の体温の平均値は36.6℃から37.0℃の間となっています。これは人によって差がありますので、前述したように、その方の基礎体温を知っておく必要があります。
体温が上がるときは、身体の中で炎症が起きている指標となります。
SpO2(酸素飽和度)
SpO2はパルスオキシメーターを使用して指先で計測しますが、正常であっても異常値が検出される場合があります。
そもそも、この機械は酸素飽和度を診ているのではなく、爪に光をあてて、その吸光度から酸素飽和度を計算しています。
なので、爪にマニキュアがついていたり、爪白癬などがあると異常値が検出される場合があります。(酸欠になると唇や爪が紫色になりますよね)
豆知識として、皮膚が薄いところならどこでも計測できるので、耳たぶでも測れたりしますよ。
正常な手 | 爪にマジックを塗った手(SpO2↓) |
SpO2の平均値
正常値は96-99%となっています。呼吸器官に異常があると体内に取り入れる酸素が減ってしまうため、酸化ヘモグロビンの数が減少することで数値が低くなってしまいます。
95%以下では呼吸苦が出現してきますので、腹式呼吸などの指導を行う必要があります。
呼吸数
こちらも脈拍と同様に2倍法や4倍法で計測する場合が多いです。個人的には、呼吸数は脈拍のように速くはないので、誤差の少ない2倍法がお勧めです。
患者に「これから呼吸数を数えます」などと説明すると、意識しすぎて呼吸数が減少してしまう傾向があるので、脈拍を計測するふりをしながら観察するほうがよいです。
呼吸数の正常値
成人の正常値は15~20回/分です。24回以上で頻呼吸、11回以下で徐呼吸となります。小児の場合は回数が多く、新生児では30~50回/分となります。
SpO2の値が正常でも呼吸苦を訴えるケースがあるのですが、そういった方々は呼吸数などで代償している可能性があるので、注意深く観察しておく必要があります。