レビー小体型認知症のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
この記事の目次はコチラ
レビー小体型認知症の概要
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)は、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症と並び三大認知症と呼ばれています。
DLBは認知障害だけでなく、パーキンソン病様の運動障害も併発するのが特徴で、解剖検例では、認知症例の12-40%がDLBだったと報告されています。
DLBは認知症の中で最もBPSDを起こしやすいとされており、患者さんの苦しみも強く、介護者の苦労も強いと考えられています。
BPSDについて
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、認知症の中核症状に伴って現れる二次的な精神症状や行動障害の総称です。
症状は抑うつや不安、幻覚、妄想などで、行動障害としては身体的攻撃性、叫び声、不穏などが含まれます。
認知症による介護負担度は、その中核症状よりもBPSDの状態によって左右されるといわれており、介護する側にとっては極めて重要な問題です。
BPSDの出現には環境的要因が大きく関与するため、できる限りは非薬物的介入によって症状を軽減するようにガイドラインでも推奨されています。
具体的には、身体的ストレスや環境的ストレスがかかりすぎないように注意し、本人の意思を尊重していくことが望まれます。
もしも薬物を使用する場合は十分な説明を行い、同意を得たうえで低用量から開始することが義務づけられています。
診断における重要なポイント
レビー小体型認知症を診断する上で、他疾患と鑑別するために以下の特徴的な8つの症状が出現しているかを診ていきます。
- 具体的で詳細な内容の繰り返す幻視
- 自然発生のパーキンソニズム
- 注意や覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知機能
- レム期睡眠行動異常症
- 顕著な抗精神病薬に対する感受性
- 大脳基底核におけるドパミントランスポーター取り込み低下
- 自律神経症状(血圧の変動・排尿障害・消化管運動障害など)
- 一過性で原因不明の意識障害
上記に示した8つ特徴のうち、1,2,3はDLBの中核症状であり、このうち2つ以上に該当するようならDLBと診断されます。
また、中核症状の該当が1つでも、その他の示唆的所見(4,5,6,7,8)に1つ以上該当するようなら、DLB疑いとなります。
認知症の代表であるアルツハイマー病(AD)との鑑別として、DLBの病初期では記憶障害が必ずしも起こらないといった特徴が挙げられます。
ADの場合は記憶障害(数分前の記憶)が先行して起こりますが、DLBの場合は記憶障害の発症前に多くの身体症状が出現します。
90例のDLB疑いと診断された患者を対象とした調査では、記憶障害発症の9.3年前から便秘が、4.8年前から鬱症状が、4.5年前からレム睡眠行動異常症が発現していたと報告されています。
画像診断における特徴として、DLBもADと同様に側頭葉の萎縮が認められますが、海馬の萎縮はADほど強くはありません。
また、MIBG心筋シンチグラフィにおいて、DLBは心臓が黒く写らないことがADとの鑑別に一因になります。
パーキンソン病との鑑別方法
DLBとの鑑別が最も難しい疾患にパーキンソン病(Parkinson’s disease with dementia:PDD)があります。
一般的にパーキンソニズム(PDDに類似した症状)の発症前または同時に認知症が生じた場合をDLBと診断します。
要するに、PDDとDLBの間には本質的な違いがあるという証拠はないのが現状であり、それほど厳密に区別する必要はないとうことでしょう。
ちなみにPDDとDLB間の鑑別が必要な研究では、認知症の発症がパーキンソニズムの発症後の1年以内の場合をDLBとする「1年ルール」が用いられます。
NPIスコアについて
認知症に伴うBPSDの評価として、NPI(Neuropsychiatric Inventory)スコアが一般的に用いられます。
NPIスコアは、認知症患者さんの行動をよく知っている介護者のインタビューに基づいて行う観察式の評価尺度になりますので、直接的な介護者の負担を確かめることができます。
採点方法については、①妄想、②幻覚、③興奮、④抑うつ状態、⑤不安、⑥多幸、⑦無関心、⑧脱抑制、⑨易刺激性、⑩異常行動の10項目から判定します。
それぞれの項目に、「5段階の頻度(0-4点)×4段階の重症度(0-3点)」で採点し、満点は120点となります。NPIスコアの点数が高いほど精神症状が強くなります。
1.頻度 | |
0点 | 無し |
1点 | 週に一度未満 |
2点 | 殆ど週に一度 |
3点 | 週に数回だが毎日ではない |
4点 | 一日一度以上 |
2.重症度 | |
0点 | なし |
1点 | 行動は破綻をもたらすものだが、気を紛らわせたり、安心させることでコン トロールできる |
2点 | 行動は破綻をもたらすもので他に気をそらせたり、コントロールすることは 難しい |
3点 | 攻撃性が非常に破綻的で、患者さんの困難の主な原因となっている。人を傷 つける恐れがある。薬物がしばしば必要 |
NPI スコアは広く臨床的に使用されてきましたが、標準書式のマニュアルや検査用紙が無かったため、これまで施設ごとに異なる方式で実施されてきました。
この問題を解消するために株式会社マイクロンが、原著者であるJeffery氏より出版および販売に関する許諾を得て、「日本語版NPI実施マニュアル(手引き)」と「検査用紙」が販売されるようになりました。
しかし、用紙は有料(検査用紙50部で7,500円等)ですので、一般な病院や施設ではなかなか手を出しづらいかと思います。
そこで、岡山大学の阿部康二氏らは、認知症患者のBPSDを評価する「阿部式BPSDスコア(Abe’s BPSD score:ABS)」を開発しました。
こちらは無料で使用できるように岡山大学のホームページで様式を公開してくれていますので、是非とも活用していただきところです。
スコアの有用性については、NPIスコアと比較検討した結果、NPIスコアと良好な相関性が示されたとしています。
また、より短時間で評価することができ、評価者間信頼性も高いとしています。様式はコチラからダウンロードできます。
検査用紙はなにかと時間がかかるので途中から使わなくなってしまう場合が非常に多いですよね。
しかしながら、この阿部式BPSDは検査時間も1,2分ぐらいで終わってしまうのでほとんど負担になりません。
老健などに入られている方は、主な介護者は職員になりますので、定期的なBPSDの検査シートとしてチェックしていいかと思います。
BPSDを強めているのは疼痛
ロンドン大学のSampson氏は、急性期総合病院に入院中の認知症患者を対象とした研究において、疼痛がBPSDと密接に関連しており、疼痛管理の改善が症状を減少させる要因であることを報告しています。
とくに疼痛は「不安」や「攻撃性」との関連が強かったとしており、そのような症状がみられる患者に対しては、細やかな疼痛コントロールが重要となってくる可能性が示唆されます。
前述したように、BPSDには身体的および環境的な要因が関与しています。症状を軽減させるためには、認知症患者に対するケアの質を向上させていくことが私たちには求められます。
そのためにも、BPSDがどのような症状であり、どういった状況や環境が悪化させる原因になるかを職員がまずは理解している必要があります。
詳細については、「認知症精神行動症状/BPSDのリハビリ治療」という記事にまとめていますので、そちらをご参照ください。
レビー小体型認知症への薬物療法
認知機能障害に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬及びNMDA受容体拮抗薬の改善効果が示されています。これらは同様にBPSDに対する治療薬としても有効です。
パーキンソニズムの症状に対しては、レボドパが推奨されていますが、PDに対する効果と比較するとその効果は劣るとされています。
DLBでは様々な症状に対して適切な処方が必要であり、薬剤治療を開始するときは過敏性を考慮して少量から始めるよう注意が必要になります。
レビー小体型認知症への非薬物療法
DLBに対する治療は非薬物療法と薬物療法とに大別でき、非薬物療法は環境整備や運動療法などになります。
認知機能障害ばかりでなく、多彩なBPSD、運動障害、自律神経症状を随伴していますので、非薬物療法は重要な役割を担います。
DLBに対する非薬物療法の有効性は十分に検証はされていませんが、運動療法や弾性ストッキング、繊維質の食事等が推奨されています。
環境整備として、社会的な交流や環境を整え、これらを活性化させることは認知機能の低下を予防する効果が期待できるとされています。
リハビリテーションについて
前述したように、レビー小体型認知症(DLB)とパーキンソン病(PDD)には明確な違いは存在しません。
そのため、PDDに有効とされている治療法は、DLBにもある程度の有効性が認められると考えられます。
DLBに対する運動療法の効果についての研究はまだ少ないため、以下にはPDDに対する治療でエビデンスが認められている方法を記載します。
グレードA(十分な科学的根拠がある) |
運動療法は身体機能、QOL、バランス、歩行速度の改善に有効である |
外部刺激、特に聴覚刺激による歩行訓練で歩行は改善する |
グレードB(科学的根拠がある) |
運動療法により転倒の頻度が減少する |
グレードC(科学的に言い切れる根拠はない) |
外部刺激として音楽療法を試みてもよい |
将来に希望を与える病気の説明がよりよいQOLの維持に関与する |
認知症のリハビリにはアレンジを!
DLBは認知症の一つであり、運動方法についても画一したメニューではなく、個々に合わせて設定していくことが大切です。
とくにDLBは動けるにも関わらず、その動作の不安定さや幻視などの影響により、介護者から動き回ることを制限されやすい疾患でもあります。
そのような活動の制限によって進行を助長させることがないように、正しい介助の方法を伝えることもセラピストの大切な仕事の一つだといえます。
リハビリ時間のみだけを見ていても、その人の生活は見えてきません。
より総合的に快適なライフスタイルをデザインするためにも、まずは患者のことをよく知ることから始めてみてください。